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Technology to the Future 第11回 未来のことばは、誰が書くのか? AIと「書く」の未来

テクノロジー 森 旭彦 2016年04月28日

 ぼくたちは今、AI(人工知能)の時代を生きている。
 AIは、2020年の「self-driving(自律運転)」の実現を目指す「Google Car」を運転し、囲碁のトップ棋士を打ち負かし、Amazonのショッピングアシスタントを行うロボット「Amazon echo」では、買い物を通して家事すらも手伝う。

 そうした中、小説を書くAIが、現実の文学賞の選考を通過したと聞いてもさして驚くことはない――。いや、ぼくたちはやはり驚くのだ。

 多くの人が、人生に1冊くらいは好きな小説に出会い、人生の見方が変わるほどの感動をした記憶を持っている。

 ぼくたちは未来において、AIの書く小説に涙していいのだろうか?
 未来において、ぼくたちが読む「ことば」は誰が書くようになるのだろう?

 今回は、未来のことばの書き手について考察する。
 そこには、あるいはメディアのこれからについて考察するヒントがあるかもしれない。
 後半には、小説を書くAIを生み出した研究者、松原仁氏へのインタビューも掲載する。

“記者ロボット”はすでに記事を書いている

 小説を書くAIが存在しているのであれば、新聞やWebメディアの記事が書けるAIが誕生しても不思議はない。出版社や新聞社は、締め切りを守らない記者や、睡眠不足など健康管理に問題のあるぼくのようなライターではなく、AIを雇って生産効率を上げるという未来が到来してもおかしくはないだろう。
 そんなSFのような未来はすでに訪れている。「記者ロボット」はすでにAP通信やYahoo!に雇われているのだ。彼の名前は「Wordsmith」、名前の由来は「言葉遣いの巧みな人」だ。

 彼はずいぶんビッグマウスな記者だが、人間の記者のように、感情にうったえかけるような豊かな文章を書くことはまだできない。しかし企業の決算レポートや、スポーツの試合結果などの数値データを文章で“書き下す”ような、しばし地味でやりがいの無い仕事にも一切文句を言うことなく、確実な結果を出すことができる。そうした意味では“優秀な”記者だ。

 Wordsmithは、スプレッドシートなどのデータを入力すると、それらの数値から文章を自動生成する。ユーザーは、どのデータをどのように文章で用いるかを専用のエディターを使って編集し、独自のテンプレートをつくることができる。テンプレートは一度つくっておけば、財務レポートや、スポーツの試合結果などのように、定期的に同じ形式のデータを使い、似たような記事を出さなければならないような場合に、それを使い回すことができる。

 彼は独創性が求められず、書くべきことがあらかじめ決まっているもの、たとえば、著名人の逝去とともにメディアに掲載される追悼記事は彼の得意分野だ。追悼記事には死亡日時、死因、来歴、生前の功績が客観的な記述で記される。彼は実際に、人工知能学者として著名なマーヴィン・リー・ミンスキーの追悼記事をメディアで“執筆”した。
 このスピードと処理効率には人間は到底敵わない。データを使って機械的に分析記事を書くのが苦手な記者やライターは、彼のような記者ロボットに席を譲った方が睡眠不足にならずに済むのかもしれない。
 
 AIが文章を書く上で重要な技術が「自然言語処理」だ。自然言語処理とはつまり、人間の言葉をコンピュータに処理させる技術のことだ。Appleの音声認識アシスタント「siri」などにも用いられている技術であり、これからAIと人間、さらにAIを介して異なる言語を話す人間同士がコミュニケーションをしてゆく上でもっとも重要と言っても過言ではない技術だ。
 
 Facebook社CEOのマーク・ザッカーバーグは去る2016年4月12日に、今後10年間の計画である「10 YEAR ROADMAP」を発表したが、ドローン、通信インフラ、VR(日本語訳では「仮想現実」に相当)に並んでAIへの取り組みを強調している。
 同社は今後、提供するメッセージアプリケーション「Facebook Messenger」を介して、ユーザーと企業がより良くコミュニケーションするため高度な自然言語処理を可能とするAIを搭載した「チャットボット」の構想を明らかにした。
 
 そして今、Facebookのニュースフィードに流れる写真の解説キャプションを書くのもAIの仕事になっている。「Automatic Alternative Text」と呼ばれるAIで書かれるキャプションは、視覚障害を持つ人々が写真を“聞く”ことができるようにするために開発されたものだ。
 このAIは写真の中にある車、船、アイスクリームやピザなどのモノはもちろん、写っている人が笑っているのかどうか、ヒゲを生やしているのかといった特徴までをも認識し、それを言葉に変えることができる。スマートフォンのテキスト読み上げ機能を使えば、写真の内容が音声で説明され、ユーザーは写真を見るように聞くことができる。
 
 ぼくたちの見えないところで、着実にAIは人間の言葉を使って、ものを書き、人間とコミュニケーションを行うようになりつつあるのだ。



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  • TaiMasayoshiさん

    難解な概念を平易に表すことは、私では無理。
    せめてAIという道具で何とかならないのかを求めて30年さまよっております。
    執筆者や関係する報道記者のがんばりに期待しています。

    2016年05月10日 12:00

コラムニスト・プロフィール

森 旭彦もり あきひこ

1982年京都生まれ。2009年よりフリーランスのライターとして活動。主にサイエンス、アート、ビジネスに関連したもの、その交差点にある世界を捉え表現することに興味があり、インタビュー、ライ ...

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