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Technology to the Future 第4回 日本の原風景を守る!? ロボットと農業の未来の関係

テクノロジー 森 旭彦 2015年08月21日

 日本人の原風景である、田園が広がる里山の20年後を想像してみよう。

 山の裾野に広がる緑の絨毯に、夏の風が足あとをつけ、空高くそびえ立った入道雲の彼方へ帰っていく――。

 夕焼けの中、巣への帰りを急ぐ鳥と、たなびく煙。そこが自分の故郷でなくても、誰かが「おかえり」を言ってくれそうな気持ちになる。そんな心が和む風景は、20年後も変わらない。


 しかし、よく目を凝らして見てみると、人は見当たらない。代わりに田園の中をちょこまかと動き回っているものがある。野生動物か?

 しかもそれは、いろんな田んぼの中を同じように、規則正しく動き回っている。稲穂の間をくぐり抜け、何かの作業をしているようだ。さらに近くの畑では、トマトや小松菜が収穫され、植え付けまで行われている。
―それらの正体は、未来の農業を担う「農業ロボット」だ。

農業を、“稼げる”ハイテク産業に

 トマトが栽培されているビニールハウスで、背の高いロボットが規則的に移動する。最先端のセンシングシステムを持つ「栽培空間スキャンニングロボット」だ。高性能センサーを搭載し、ハウス内部の温度、湿度、日射、CO2などを計測するとともに、画像認識技術によって、生育の状況や収穫可能性がどれくらいか、収穫できるものはどれかなどの生育状況を自動的に記録する。さらには作物が病害虫に侵されていないかなども計測することが可能だ。
 これらのデータは農業人工知能によって解析され、農家に栽培空間の状態を知らせてくれる。さらに生育の遅れや、病害虫の発生などの問題が発生していれば改善の提案までを行ってくれる。


栽培空間スキャンニングロボット
栽培空間全体を、高密度センシングするロボット。温度、湿度、照度そのほかの計測が可能。トマトの状態を色と形状で把握する。

 「僕はこれからの農業に、低コスト・高機能の農業小型ロボットの導入を提案し、自らも実践している農家です」と話すのはフューチャアグリ株式会社 代表取締役の蒲谷直樹氏だ。
 蒲谷氏は、未来の農業を提案するアントレプレナーであり、農家でもある。自身の農場は実証試験中の自作ロボットによって管理し、トマト、小松菜、ブルーベリーなどを栽培・収穫している。

 現在、日本の農業は様々な課題を抱えている。まずもっとも大きな問題のひとつには農業に関わる人口の減少が挙げられる。農業就業人口は平成21年~26年にかけて約60万人も減少し、新規就農者は平成20年~25年にかけて約1万人減少している(農林水産省「農業労働力に関する統計」より)。
 また、栽培におけるノウハウがベテラン農家による暗黙知、いわゆる“匠の技”となっていることが多いため、農業の業界全体へ適切に継承されていない。さらに流通面の問題もある。日本では、食べられずに廃棄される食品「フードロス」が年間約500万~800万トンも発生しているとされている。これらの問題は、農業が真に産業として成立することで解決・軽減される部分があると蒲谷氏は見ている。


フューチャアグリ株式会社代表取締役 蒲谷 直樹氏
信州大学農学部を卒業後、建設コンサルタント、事務機器メーカーで勤務。技術研究開発として、米国 MIT Sloan Schoolと共同研究した「大規模組織の知識・イノベーションマネジメントMethod」の一部上場企業100社以上への導入などの実績を持つ。2009年に退社し、農家に。2013年、フューチャアグリ株式会社設立。労働集約的な作業を自動化するための低コスト(10万~15万円)ロボット開発、人とロボットが役割分担しながら協調作業をするためのプラットフォームの開発を行う。

  • 蒲谷氏:

    今までの農法は、経験値を重視してきました。つまり農家の個人的な経験から“失敗をしない”農法を考え、それらが地域で漠然と伝承されてきた。正しいこともたくさんありますが、中には偶然うまくいったことを過大評価していたり、汎用性のある知識ではないものも存在します。

    その一方で僕たちはいつも、今の方法とは違う、より良い方法をつくりたいというイノベーションを中心に考えて実践しています。科学をきちんと組み立てて農業を革新していく手法に興味があるのです。

 その実践のひとつとして、蒲谷氏は乳酸菌・土壌菌によるバイオテクノロジーを用いた土壌で栽培を行っている。使用する水も、品質が不安定な農業用水ではなく、上水道の水を使っているという。こうして土壌内のコンディションを適切に保つことで病原菌の発生を抑制し、化学合成農薬、肥料、ホルモン剤等を使用せずに栽培・収穫することに成功している。2014年には、昆虫などの特性を活用して、不可能だとされてきた水なすの無農薬栽培にも成功した。


  • 蒲谷氏:

    テクノロジーを使って農業を新しい産業として生まれ変わらせることが、僕の実現したい未来です。そのためには今の農業の考え方・方法論の延長線上でテクノロジーを使うのではなく、テクノロジーによってワークスタイルを変え、農業の在り方に革命を起こすことこそが必要です。

 今のワークスタイルを手助けするのではなく、ワークスタイルを変革してしまうテクノロジーが、新しい農業には欠かせないと蒲谷氏は話す。
 たとえば「農作業=力仕事」という等式は誰もが疑わない。既存の農業におけるテクノロジーも、農家の力仕事をサポートするものがほとんどだ。しかし、ロボットが農作業の力仕事すべてを代行すれば、農作業はもはや力仕事ではなくなる。すると農作業は今とはまったく違う仕事として定義されるようになるだろう。
 また、農業は「手間がかかる」ものだと思われている。病害虫がついていないか、病気になっていないか、出来具合はどうか…それらの監視をロボットが代行すれば、農家はその時間を営業やマーケティングに回すことができるだろう。このように、ワークスタイルが変われば、農家が変わり、農業そのものの在り方を変革できるのだ。

 テクノロジーによって力仕事でもなく、手間がかかるものでもない、高度なデータサイエンスによって管理された農業は、もはやまったく新しいハイテク産業として生まれ変わる。出荷日を起点とした栽培・収穫も実現できるようになるだろう。そうなれば流通側も品切れを考慮して多めの作物を農家から仕入れ、売れ残りを廃棄処分する必要もなくなり、フードロスの軽減に繋がるという。そして何より、労働生産性が高まり、農業が“稼げる”産業になり、就業人口が増えることが期待できる。


  • 蒲谷氏:

    ロボットを導入することで労働生産性が3倍になれば、耕作放棄地などを利用して、その農家の農場経営面積を単純計算で3倍にすることができる。安倍首相は「農業所得を2倍にする」と公言していますが、労働生産性を3倍にできれば、実質の農業所得は3倍になる。それはテクノロジーで可能になる未来だと僕は考えています。

 フューチャアグリの子会社である株式会社アテナは現在、農林水産省に305台のロボットを使った、日本最大のロボット実証事業を採択されており、農家の収穫を手助けする「自動収穫台車」200台、栽培空間スキャンニングロボット100台、夜間除草ロボット5台が、日本中の農業の現場に配備されることになっている。これらの小さな“はたらくロボット”は、まさに日本の農業の未来を背負っているのだ。



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  • ZUICHIさん

    美しい日本の里山を見ると心が落ち着きます。 しかし私の住む地方でも耕作放棄地が増え、子供時代に泥んこになりながら遊び回った里山も無くなってしまいました。 20年後には人口減少が進み人のいない荒野と化したかつての里山があちこちに広がっているのかなぁと寂しい気持ちでおりましたが、この記事を読んで一筋の希望を感じました・・・ぜひ実現させたいですね。

    2015年08月24日 19:24

コラムニスト・プロフィール

森 旭彦もり あきひこ

1982年京都生まれ。2009年よりフリーランスのライターとして活動。主にサイエンス、アート、ビジネスに関連したもの、その交差点にある世界を捉え表現することに興味があり、インタビュー、ライ ...

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