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突撃!ニッポンの研究室 第9回 歴史を守り未来へとつなぐ、新たな歴史学を目指して

テクノロジー WISDOM編集部 2012年09月28日

すべての歴史資料を消失から守る

 平川氏の専門は江戸時代史研究。交通制度から流通・経済史、民衆運動から地域史や権力論まで、学生のころから多くの古文書を読み、研究を重ねてきたという。また、2003年の宮城県北部地震を機に、「災害の度に大量の資料が失われる」との危機感から、古文書などを保存するための調査・活動に取り組んできた。研究室スタッフや地元の郷土史家などと共に、廃棄されようとしている古文書や土蔵に眠る古文書を調査し、一点ずつ写真撮影して記録を残し、目録を作り、歴史資料として保存する取り組みを続けている。

 古文書は、郷土資料館や博物館が所蔵・保管しているものだけでなく、地域に代々続く旧家のお宅や土蔵の中で、人知れず眠っているものも多くあります。例えば、蔵の中で長持(衣類や調度を入れる箱)に乱雑に入れられたまま何十年何百年の間、人目に触れていない古文書もあれば、昔の人がふすまの下張りに使い、気づかれずにそのままになっている古文書もあります。


 その中には新発見のものが含まれていることが多く、複写のない“一点もの”の貴重な資料がほとんどです。しかし、災害などで家や蔵が被害を受けて解体されると、貴重なものだと気づかれず、がれきと一緒に紙くずとして処分されてしまうのです。


 未発見の古文書を調査することは、これまでの歴史研究の中でも行われてきました。しかし、研究グループでの調査や自治体史の編纂事業ならともかく、個人の調査の場合、自分の研究テーマの資料探しが目的で、テーマに関係のない資料には目もくれていませんでした。私もそのように研究していました。


 ところが2003年の宮城県北部地震の後、被災地で多くの古文書が捨てられていくのを目の当たりにし、私の考え方は変わりました。古文書が失われるということは、そこに書かれた歴史が消えてなくなるに等しい。そこで、以前のように自分の関心だけで資料を探し、「いる、いらない」と選別するのではなく、「すべての歴史資料を消失から守る」という目的で、地域に眠る古文書の調査を行い、「全点保存」――発見したすべての資料を保存しようと取り組みはじめたのです。

未来の歴史研究者のために

 平川氏は、自身の研究室にNPO法人宮城歴史資料保全ネットワーク(宮城資料ネット)を立ち上げ、調査を開始した。発見される資料の年代は、江戸・明治時代から戦前までのものを中心に、古くは鎌倉時代の古文書まで、幅広い。内容も村の行政文書から商家の帳簿、農家や漁師の記録、個人の日記など多岐にわたる。時代も内容も様々な膨大な資料群――なぜそれらの全点保存にこだわるのか?

 「何百年前の帳簿の切れ端など、保存して何の役に立つのか?」と思われる方もいらっしゃるでしょう。しかし、同じ一つの資料を巡っても時代によって解釈は変わります。私たちが「価値がない」と思う資料でも、100年後の歴史研究者には大きな価値があるかもしれません。たった一つの小さな資料の発見や解釈が、歴史の大局に大きな影響を与えることもあり得るのです。ですから、現代の個人的な価値観で古文書に優劣をつけ、捨ててしまうことはできません。後世のためにも、発見したすべてのものを保存する必要があるのです。


 宮城県北部地震の後、私たちが現地に駆けつける前に多くの古文書が処分されてしまいました。その反省から、“次なる災害”が発生する前に、どこにどんな資料があるのか所在調査し、一点でも多く写真を撮影して、データとして記録を残そうと考えました。そして宮城県内を中心に「古文書はありませんか」と旧家を訪ねてまわり、2011年2月までの約8年間で、415件の調査を行い、約20万点の古文書を新たに発見することができました。そのうち約4万点の資料を撮影し、70万コマの写真データを保存していました。


 しかし、2011年3月11日、東日本大震災が発生。“次なる災害”という、当たってほしくはなかった想定が、現実化してしまった。

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