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深層中国 ~巨大市場の底流を読む 第54回 「新ブルーカラーの時代」がやってきた~社会の格差は縮まるか

経営・戦略 田中 信彦 2013年11月29日

 中国では最近「新ブルーカラーの時代」という言葉がメディアなどでしばしば聞かれるようになってきた。「新ブルーカラー」とは、マーケットで求められる高度な「技」を持ち、ホワイトカラーを上回る高い収入をあげる高級ブルーカラー層のことである。中国社会が豊かになり、求める商品やサービスの品質が高まるにつれ、こうした「高級ブルーカラー」の存在感がますます大きくなっている。このことは中国の「学歴信仰」を緩和し、中産階級の厚みを増して社会の安定を高めると同時に、購買力を持つ消費者としても大きな地位を占めていくだろう。急速に力をつけつつある「新ブルーカラー」の動向を考えてみたい。

「便利なこと」「快適なこと」にお金を払う時代

 中国では最近「新ブルーカラーの時代」という言葉がメディアなどでしばしば聞かれるようになってきた。

 日本の「ブルーカラー」は事務職としての「ホワイトカラー」との対比で「工場の現場労働者」というイメージが強い。一方、中国の「ブルーカラー」は、それよりも広い概念で、工場労働者も含むが、いわゆる「職人」や調理師、美容師などの専門的な技能を持つ人、建設作業員や警備員、場合によっては農民までも含むことがある。

 なぜ今「新ブルーカラーの時代」なのか。それはこれまで陽の当たることが少なかった中国の「手に職」を持つ人たちの収入が急激に増加しつつあり、それにともなって社会的地位や職業イメージも確実に変わり始めているからである。

 中国社会は歴史的に「文」を尊ぶ気風が強く、机の上の学問を通じて知識を得て、それを活かして「官」になる――ことが社会的な尊敬や高い報酬を得る道であるとの観念が強い。ここで言う「官」の原義は役人になることだが、現代では「ホワイトカラー」とか「事務職」「管理職」と言い換えてもいいだろう。要は「自らは手を汚さない」仕事に就くことである。

 こうした考え方は今でも根強い。特に社会の主流をなす高学歴の家庭においてはそうである。社会の観念が変化するには世代単位の時間がかかる。しかし、一方で現実の世の中はもっと速く動いている。中国社会が豊かになって、さまざまな新しい商売やサービスが次々と生まれている。「便利なこと」「快適なこと」に対してお金を使う余裕のある人が増え、それらを実現してくれる人に相応の対価を払ってもいいと考える人が増えてきている。

 「新ブルーカラーの時代」という言葉が生まれた背景にはそういう社会の変化がある。

自動車修理工の賃金が急上昇

 そのひとつの例が自動車修理工の急激な賃金上昇だ。それなりのレベルの修理工の月収はすでに1万元(16万円)を超え、高級輸入車などの整備ができる人材は月収3~4万元(50~60万円)に達する例もある。それでも人が集まらず、各地の自動車販売店や修理工場の悩みのタネとなっている。

 中国の自動車販売台数は今年2013年、初めて2000万台の大台に乗ることが確実になった。もちろん世界最大である。中国汽車工業協会の予測では、今年末には2100万台前後に達し、昨年の1930万台を超えて過去最高を更新する。これは米国の約1.4倍、日本の約4倍の規模である。

 累計保有台数も12年末で1億2000万あまりと、米国(2億5000万台)には及ばないものの、日本(7900万台)はすでに大きく上回っている。2004年、中国の自動車販売台数は500万台、総保有台数も3000万台程度だった。ともにこの10年で4倍になった計算になる。それでも中国の自動車保有者の割合は1割未満で、すでに普及率が6~8割に達している日米欧と比べればまだまだ伸びると考えられている。

 車が増えれば、点検・整備、修理などの仕事も増える。特に近年、中古車市場の整備が進み、車のオーナーは買い換え時のリセールバリューを考慮するようになり、車のメンテナンスに以前にも増して気を遣うようになった。自動車販売店や修理工場のビジネスは急成長している。



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  • ライオンウッズさん

    中国出張が多く、現地での生活ぶりを見ると、まだまだ格差が有る様に感じます。全体の生活レベルは向上していますが
    スマホの市場価格を見ると、日本と同じでいかに贅沢品かが感じれれます。スマホを持つのがスタータスのようです。工場勤めでも皆が持っており。給料の2~3ヶ月分でも購入するようです。一方では地方都市でも高級外車を乗り、中国の人口の多さとパワーを感じます。

    2014年02月04日 12:56

  • もどりがつをさん

    階級差別意識の強い、中国を中心とする東アジアの儒教文化圏では、職人や、肉体労働者、芸能人等は社会の下層に位置する階層です。李氏朝鮮の両班文化はその最たるもので、現代物の韓国ドラマを見ていると、今でも李氏朝鮮の時代とあんまり変わらないなと思ったりします。日本も緩いとはいえ、江戸時代の新井白石、松平定信あたりの朱子学者の影響があるのか、芸能人に対して、「河原乞食」等と呼んでいましたし、技術職の人は企業などでも概して待遇が悪いようです。高度な技術というのは習得が難しく、また時間がかかるものです。コンピューター技術が発達して、分野によっては人がやらなくても良いという傾向が強くなっていくように思います。そのあたりで、社会がこれからどのように変化していくのか興味深いです。物によっては人の手が入って仕上がった物でなければ生きてこないものもありますから。今回の記事は中国だけのことではなく、世界レベルで見てみたい問題だと思います。

    2013年12月25日 18:20

  • 平均的日本人さん

    官主導で定められていた物・事の値段が自由経済では市場がその価格を決定します。人件費も同様で需要と供給の綱引きで価格が調整されるのですから社会が裕福化するほどに技能者は優遇されるはずです。ホワイトカラーの機能は【所属組織の最適環境の構築】すなわち所属する組織がその目的を達成するために最も効率の良い環境を生み出すために存在するのがホワイトカラーなのですから本来はブルーカラーの公僕であるべきはずなのですが殆どの場合この公僕であるべきホワイトカラーがブルーカラーよりも金銭的優遇を保持しています。『汗は誰でもかけるが知恵は選ばれたものしか持っていない、だから汗よりも知恵の方が価値がある』。確かに原理的には汗よりも知恵の方が大きな付加価値を生み出しますがその知恵も汗で現実化しなくては市場の需要を充たす事は出来ません。この汗が生み出す価値が搾取されることの無い社会こそ公平感のある社会ですが最近の日本は派遣と云う仕組みで合法的に汗の結晶が搾取されています。逆行する日本のブルーカラーは以前の中国労働者と同じ境遇になるのではと危惧しています。

    2013年12月04日 14:15

  • hicoさん

    いつも田中氏は中国社会の鋭い断片を報告していただき感心している。今回も日中の不仲とは別の中国社会の新しい勃興変化を先読みして注目に値する。中国社会の安定が世界の安定につながるという意味で新ブルーカラー層が厚くなり収入アップにつながることを願う。日本は技術者の扱いをぞんざいにしたことで、韓国・中国企業に技術ノウハウが漏れたことを企業人が反省しているとはまだ思えない。

    2013年12月02日 17:48

コラムニスト・プロフィール

田中 信彦たなか のぶひこ

中国・上海在住。1983年早稲田大学政治経済学部卒。毎日新聞記者を経て、90年代初頭から中国での人事マネジメント領域で執筆、コンサルティング活動 に従事。(株)リクルート中国プロジェクト、 ...

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