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賢者に聞く「ビジネス教養塾」 第7回 「仕事ができる」を脳科学から考察──池谷 裕二氏に聞く

スキル・キャリア WISDOM編集部 2009年01月13日

池谷 裕二(いけがや・ゆうじ)氏

東京大学・大学院薬学系研究科准教授。1970年静岡県生まれ。98年に東京大学・大学院薬学系研究科にて薬学博士号取得。以後、米コロンビア大学客員研究員、東京大学・大学院薬学系研究科講師を経て現職に。科学技術振興機構・さきがけ研究員、東京大学・大学院総合文化研究科連携准教授も務める。著書に『進化しすぎた脳』(講談社ブルーバックス)、『脳はなにかと言い訳する』(祥伝社)、『海馬』(糸井重里氏との共著/新潮文庫)などがある。

集中力の高い状態は、脳にとっては不自然

 ──まず、脳と「集中力」の関係についてお伺いしたいと思います。「集中力が高い」というのは脳にとってどのような状態なのでしょうか?



池谷:  
初めに申し上げておきたいのは、「集中力が高い」という状態が、人間にとってどこまで必要なものかどうかということです。一般に、仕事では集中力が必要であるとされていますが、集中している状態というのは、実は、「脳がバカになっている」状態のことなのです。


動物は、本来、常に様々なものに注意を払わなければなりません。例えばジャングルの中では、アンテナをあらゆる方向に向け、注意力を分散させることによって天敵からの攻撃を防ぐことができます。もし、目の前のものだけに集中してしまえば、それだけ危険は高まることになります。


つまり、脳の本来の働きとしては、集中力よりもむしろ「意識の広がり」や「分散力」の方が重要だということです。集中力を高めるということは、その働きをあえて狭めることであり、焦点を細部にしぼり込んでしまうということです。つまり、脳のほかの部位は麻痺している状態です。それが、「脳がバカになっている」ということの意味です。

──なるほど。集中力が高い状態は、人間の動物的本能としてはむしろ不自然だということですね。

池谷:
そういうことです。仕事でも、むしろ分散力を求められることの方が実は多いのではないでしょうか。それでもあえて集中力を鍛えたいのであれば、いろいろな作業をルーティン化して、脳の働きを鈍化させることです。マンネリ化した行為に対しては、脳は麻痺します。逆にいえば、全く新しい事態を目の前にして集中力を高めるというのは非常に難しいということです。

──では、集中力と「アイデア」の関係は、どのように説明できますか?

池谷:
いいアイデアは、集中している状態ではなく、意識が比較的分散している時の方が出やすいと思います。よくお風呂の中でアイデアを思いつくという人がいますが、あれは意識がほどよく分散しているからです。ほかにも、トイレの中とか、散歩の途中でいいアイデアが出たという経験は誰にでもあると思います。そういう時には脳が「ゆらぎ」の中にあって、いろいろな新しいことを思いついたりするわけです。


余談ですが、宋の時代の中国に欧陽修(おうようしゅう)という学者がいて、こんなことを言いました。ものを考えるには三つの上、「三上」が必要である。「三上」とは、すなわち、「馬上」「厠上(しじょう)」「枕上(ちんじょう)」である──。三つの「上」は、それぞれ、馬に乗って動いている時、トイレに入っている時、そして寝ている時を表します。馬上と厠上では脳がゆらぎやすいですし、寝ている間には記憶や情報が整理、統合されます。そう考えると、この故事は、脳科学的に見ても納得できるんですよ。

──「ゆらぎ」という言葉について、もう少し説明していただけますか?

池谷:
「ゆらぎ」とは一種の自動運動で、脳は私たちの意識に関係なく、常に勝手にゆらいでいます。また、「ゆらぎ」は、環境によって大きくなったり小さくなったりするものでもあります。


こういう実験があります。被験者の目の前にグリップとモニターを設置し、モニターに「握れ」という文字が表示されたら、グリップを握ってもらいます。しかし、この実験には、実は被験者に伝えられていない仕掛けがあります。意識では感知できない「頑張れ」というサブリミナル映像がモニターに時折映るわけです。この映像が出るとどうなるか。被験者のグリップを握る力が、目に見えて強くなります。これは、脳が「頑張るモード」の方向に自然とゆらいでいる状態なんです。


この実験から何が分かるかというと、結局、私たちのやる気とかモチベーションは、内側から出てくるものではなく、環境によってつくられるものであるということです。脳は、いわば環境の奴隷なのです。ですから、デスクの周りに「今月の目標」「将来の夢」「絶対合格」と書いて貼っておく、つまり脳を刺激する環境をつくれば、それだけ仕事や勉強がはかどったりするわけです。



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