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賢者に聞く「ビジネス教養塾」 第3回 職人のように仕事を愛する──篠沢秀夫氏に聞く

スキル・キャリア WISDOM編集部 2008年05月26日

篠沢秀夫(しのざわ・ひでお)氏

1933年東京生まれ。中学生の頃からアテネ・フランセでフランス語を学ぶ。学習院大学文学部、東京大学大学院修士課程を経て、59年10月パリ大学文学部に留学。62年に帰国し、66年明治大学助教授、71年同教授、73年学習院大学文学部教授に就任。2004年学習院大学を定年退職し、現在は学習院大学名誉教授。『いいんですよ、やり直せば』(集英社)、『フランス三昧』(中公新書)、『篠沢フランス文学講義』(大修館書店)、『軽井沢、日比谷、パリ』(文藝春秋)、『彼方からの風』(思潮社)ほか、著訳書多数。

フランスより日本の方が平等!?

 ──教授は、長年にわたってフランスの文化や文学の研究に携わってこられたわけですが、フランスから学んだ最も大切なことは何ですか?
 
篠沢:
高いところから物事を見渡す、ということでしょうかね。自分の身の周りに限定されない広い視野を持つということです。フランスの知識人の間では、そういう考え方が伝統となってきました。モンテーニュやパスカルから、サルトル、カミュまでね。


私はフランスの文学、あるいは社会そのものから「文明」ということを読み取りたいと考えてきましてね、最近になって、ようやくそういうところまで達することができたのかなと思っています。この間『フランス三昧』という本の改訂版が出ましたけれど、そこに私なりのフランス文明論が書かれていますよ。まあ、家内からは「そんな本、いくら書いても全然儲からないから、いっそ官能小説でも書いたら」と言われていますが、いずれ僕の本も官能小説並みに売れる日が来るかもしれないですよ(笑)。

──フランスへの造詣が深い教授からご覧になって、フランスと日本の企業社会には、どのような違いがあると思われますか?

篠沢:
まず、背景が違いますね。フランスには、「自由・平等・博愛」というイメージがあるでしょ。一方、日本は西洋に比べて封建的であると戦後はずいぶん言われてきたものです。しかし実際には、フランスは大変な階級社会で、むしろ日本の方が平等ですよ。

僕は昭和30年代、20代の頃にフランスに留学したのですが、驚いたのは、階級によって食事をするレストランが違うということね。白いテーブルクロスがあるレストランは値段が高くて、上のクラスの人がネクタイを締めて行くところなんです。一方、クロスに柄模様が入っているレストランはやや値段が安くて、そういうところにはネクタイをした人は一人もいない。それから木のごつごつのテーブルがむき出しになっているようなところ。そこは嬉しいくらい安いんだけれど、食べているおじさんたちは肉体労働をしている人たちで、ギロッとにらまれたりしておっかないんだよね(笑)。一緒に食べているとドキドキしちゃう。これはすべて階級の違いなのです。



同じことは企業社会にも言えてね、銀行に行くと、窓口に白髪のお爺さんが座っているわけ。「あなた、ずいぶん長くお勤めのようですねえ」と聞くと、「おう、わしゃあ金の扱いはうまいんだぞ」とか言って威張っているんだけど、つまりは、銀行に入ったときからずっとその仕事をしているということなんですね。こういう人たちは、ずっと同じポジションにいるしかないわけ。一方、学歴が高い人たちは、最初からいいポジションについて高給取りになる。就職した時点で、ある程度人生が決まっちゃうんですよ。


ところが日本では、会社に入ってから、誰だってどんどん上のポジションを目指せるでしょ。頑張れば社長にだってなれるかもしれない。フランスで「日本では、普通の社員が社長になることもあるんだよ」と言うと、みんな「へえー」とびっくりしますよ。「それじゃあ、一生懸命働くわけだよなあ」とか言ってね(笑)。

──日本の会社のシステムは割とよくできているということですね。


篠沢:
そうなんですよ。最近は年功序列が悪いと皆言うけれど、日本の会社はフランスやその他の西欧諸国と比べても、ずいぶん平等だと思いますよ。


昔、フランスにアンドレ・マルローという大作家がいましたが、この人が短期間日本に滞在したことがあったんです。昭和8年でしたかね。彼は長崎のホテルに泊まっていて、朝早く、大きな地響きのような音で目を覚ました。窓から外を見ると、造船所に向かう労働者が列をなして歩いている。みんな下駄を履いているから、ガランゴロンとすごい音がしたんですね。


マルローが描いたのは戦前の工場労働者の典型的な姿です。当時、こういう労働者の給料は、日給か週給でした。月決めで給料がもらえるのは、すごく偉い人だけだった。今で言うホワイトカラーの人だけね。そういう人は、その当時はあまりいませんよ。それが戦後になって、月給取りになったでしょ。ホワイトカラーも工場労働者も皆。しかも、働いていれば月給は徐々に上がっていく。これってすごい近代化だったし、すごい平等化だったんですよ。


もともと日本の企業システムは、みんなの平等を目指してつくられていたのです。しかし、最近は景気が悪いもんだから、どの会社も正社員を減らしてアルバイトや派遣社員を増やしていますね。格差が広がってきているとも言われます。



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