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BOPビジネスをラストマイルへ 第5回 インドネシアに『冷やす価値』を届ける。途上国の食と暮らしを変える、デザインの力

マーケティング WISDOM編集部 2016年09月23日

 暑いインドネシアの街の中を、冷蔵庫付きのバイクが駆け抜ける――。
 そのバイクは熱帯の炎天下の中、食材を新鮮なまま、早くより遠くへ運ぶ。
 途上国の地域社会の経済を豊かにし、元気いっぱいに街を走り回る子どもたちの食の安全を守ることを、三菱電機のテクノロジーが実現しようとしている。


電機メーカーのデザイナーが見つけた、「冷やす価値」

 そのプロトタイプは、私たちが日常生活で目にする冷蔵庫とは少し違った円筒形をしている。冷却装置が付いた蓋をあけると、中はシンプルな“バケツ”の構造だ。水分が多く、サイズの大きな肉や魚を投入しても、鮮度を保ったまま冷蔵でき、さらに汚れれば、そのまま本物のバケツのように丸洗いできる。
 黒いフレームで固定され、ボディが宙に浮いたような構造になっているのは、彼らがこの冷蔵庫を床や地面に置いて利用する際に傷や汚れが付きにくく、またネズミなどに電源コードをかじられないようにするためのアイデアだ。
 そして何より、電気の供給が不安定な地域であることから、電源には地域の主要移動手段であるバイクのバッテリーを活用できる。もちろんそのままバイクに積んで移動することもできる。


 「バイク用冷蔵庫のアイデアを思いついたのは、現地インドネシアの魚売りの人々の生活を目にしたときでした。彼らは大きなバケツのようなプラスチック容器をバイクに取り付けて、魚の買い付けのために早朝の漁港に集まります。とても活気のある、印象的な風景でした。その後、その魚は道端の露店で売られたり、バイクで別の市場や遠くの村に運ばれて売られたりしています。しかしその鮮度は炎天下の日差しの中、時間が経つにつれてどんどん低下していく。遠くの村に着くころには、もっと鮮度は落ちてしまうだろうと感じ、とても自分では食べたいと思えなかった。鮮度が落ちると、魚は売れなくなってくるし、販売価格も下がる。売れ残れば、捨てざるを得ない。人々の生活のベースとなる、所得の向上を含めた、そうした状況を改善できないかと思ったのが始まりでした」


 そう話すのは三菱電機のデザイン研究所に所属する松山祥樹氏。2013年に、BOP層の暮らしに向けたデザインプロジェクト『Small World Project』を立ち上げ、その中の1つとして、コペルニクとのコラボレーションによるバイク用冷蔵庫の普及に向けた取り組みを、インドネシアにて行っている。

 三菱電機と言えば、言わずと知れた日本有数の総合電機メーカーだ。教育や医療、流通など、BOPに対するソリューションとして求められる様々なアプローチの中で、電機メーカーに所属するデザイナーとして、できることを考え、三菱電機の持つ技術を形にしたものの1つが、この冷蔵庫だったと言う。

 「まずインドネシアの漁村や農村に調査に行くことから始めました。帰国してから3ヶ月ほどで、アイデアの検討から、現地での検証用プロトタイプ製作までを行いました。そして小型冷蔵庫の部品を寄せ集めてつくったプロトタイプを持って再び現地入りし、現地の人のバイクをいっしょに改造しました。ただつくったものを持って行くだけではなくて、評価や実験というプロセスを現地の人と共同で行うことを大切にしました。冷蔵庫を持っていないユーザーに、冷やす価値について知ってもらうためには、まずは体験をしてもらって、実際の生活の中で使うイメージを持ってもらうことが大切だと思ったからです」


 松山氏はプロトタイプの冷蔵庫を使って、現地で魚を売ってもらうという実証実験も行った。すると1日の収入が、なんと5割も増えたケースもあったと言う。
 コペルニクとコラボレーションしたことで、個人の視察では決して辿りつけない、本当の現地の人々と交流し、共同作業を通したフィードバックを受けることができたと言う。

 「日本で身につけた前知識は一旦忘れ、フラットな視点で現地を見ようと思っていました。僕が訪れた場所では、所得は確かに低いけれど、決して困窮しているわけではなく、子どもたちは皆楽しそうに外で遊んでいる。村の多くのことが、隣人や親戚といった人と人との繋がりや行き交いによって成り立っている。改めて先進国・途上国といった分別に関係なく、人の暮らしや豊かさに対するテクノロジーの関わり方を考えるきっかけになりました。実際に無電化地域のお宅に泊めて頂いたり、料理をごちそうになったりした体験から得られる、リアルなユーザーイメージが、コペルニクの支援のもとに現地で得られたもっとも大きな収穫の1つでした」

 松山氏は現在、普及に向け、現地で得たフィードバックを活かしながらプロダクトの制作を進めている。

 「今年でこのプロジェクトは3年目ですが、まだまだステップとしては初歩の段階です。まずはユーザーに必要と思ってもらえるかどうかが重要です。たとえば、インドネシアの低所得者層の間でもスマートフォンの普及が進んでいます。彼らにとっては非常に高価なものですが、情報や連絡手段といった暮らしに必要なものであれば普及が進むということを知れたのも、現地での収穫の1つでした。ターゲットとするユーザーが、お金を払って買いたいと思える価値を創出することこそが重要で、先進国か途上国かの違いは、単なるユーザーの属性の違いでしかありません。今はまず、そのためのものづくりに集中することが大切だと思っています」




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執筆者:中村俊裕(なかむら・としひろ)
米国NPO法人コペルニク 共同創設者兼CEO。
京都大学法学部卒業。英国ロンドン経済政治学院で比較政治学修士号取得。国連研究機関、マッキンゼー東京支社のマネジメントコンサルタントを経て、国連開発計画(UNDP)で、東ティモールやシエラレオネなどで途上国の開発支援業務に従事。
2009年、国連在職中に米国でNPO法人コペルニクを設立。2012年、世界経済会議(ダボス会議)のヤング・グローバル・リーダーに選出。

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