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ビジネスパーソンのための行動経済学入門 第1回 行動経済学とは? ~理性と感情のダンス~

マーケティング 友野 典男 2013年08月02日

直感のシステム1と理性のシステム2

 さて人間行動学の出発点として、人はどのような認知や判断をしているか? というテーマを取り上げよう。人は普通、他人が怒った顔は考えずとも直感的にわかる。一方で「156×34」のような掛け算の答えは(計算で容易に求めることはできるが)、直感だけでは分からない。

 このように、脳内には判断・決定に関する2つのモードが存在する。前者は直感・感情に関するモードであり、後者は思考モードである。直感・感情モードは、ほとんど反射的に行われるため脳内の 「反射システム」が担い、思考モードは「思考システム」が 担当すると考えられている。反射システムに「システム1」、思考システムに「システム2」という、より抽象的な名称を与えたのは心理学者のスタノビッチとウェストだが、この用語が心理学者や脳科学者、行動経済学者によって広く使われるようになって来た。

 システム1は、素早く、労力を必要とせず、無意識のうちに作動し、止めるのは難しいという性質を持つ。これに対してシステム2は、時間がかかり、努力やエネルギーを必要とし、意識しなければできない。「感じる」のは簡単だが「考える」のは難しいのだ。人間の判断や意思決定は、システム1とシステム2の共同作業でなされ、これを「理性と感情のダンス」と表現することもある。

 とはいえ、常時システム2が活動していたら、人間はすぐに疲れてしまうし、効率が悪い。そこで、システム2が担当していた作業や課題を、繰り返し経験することでシステム1が代わりに担当することになる。スポーツや職人の世界では、技術を「体が覚えるまで反復練習しろ」と教えられる。要するに、システム1によって反射的にできるようになることが、「習熟」や「熟練」と言われているのである。例えば、テニスの試合中に自分のフォームをいちいちチェックしていたのでは、自分の戦術を考えたり相手の作戦を読むことにシステム2が使えない。技術的な部分を、より効率的なシステム1に任せられれば、システム2を有効に活用できるのである。初心者が車の運転をするとすぐ疲れるのは、システム2を多用するからだ。運転に慣れてくれば、運転動作などはシステム1に任せることができ、運転中に音楽を楽しんだり同乗者との会話ができるようになる。また、囲碁や将棋などのプロが次の一手を選ぶ際に、最後は「勘」に頼るとよくいわれる。これは単なる「当てずっぽう」ではない。専門家は、長年考え抜いた戦術や現場の状況などから、適切な決断に関して専門的な勘が働くのである。これもシステム1の働きだ。

 また、システム1は働いていてもシステム2が怠ける場合がある。それは、酔っぱらった時のことを思い出すとよく分かる。記憶がなくなるまで飲んだのに、気がついたら家で寝ていたという経験をお持ちの方も多いのではないだろうか。自宅までの慣れ親しんだ道ならば、酔っていてもシステム1だけ働けば帰ることができるのだ。最近、知り合いの新婚の奥さんから、酔っぱらって気がついたら実家に帰っていたという話を聞いた。新居に帰ろうと思っていたのに、引っ越してからまだ日が浅く、乗り換えや道順は少し考えないと、つまりシステム2を使って判断しないと家に帰れなかったからだ。一方、長年暮らした実家へは、システム1が自動的に道案内してくれたわけである。



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  • NA6CEさん

    私も100円と10円と即答してしまいました。自分の思考能力が中学生以下であることに唖然とするとともに、如何に直感に頼った生活をしているかと思うと、ちょっと背筋が寒くなりました。
    別に捻った問題でもないのにこんな誤りをするなんて、最近ワープロ(PC)に慣れて漢字が書けなくなってきている様にも通じるものを感じました。猛省するとともに、本質を見失いがちな自分に気付かせていただき、ありがとうございました。

    2013年08月15日 10:24

  • kawatさん

    システム2によって裏打ちされ、システム1で人目を惹く企画提案が重要ということか。前者だけに頼ろうとする傾向が強かったし、プレゼンで要求された。

    2013年08月08日 16:26

  • tomoさん

    ヒューマンエラーを防ぐのに役に立ちそうです。

    2013年08月06日 08:54

  • gabrielさん

    とてもおもしろかった。

    2013年08月06日 08:53

  • udonさん

    非常におもしろく、興味を引かれる内容でした。次回を楽しみにしています。

    2013年08月06日 08:06

  • tousitiさん

    モンスターペアレントとかクレーマーと言われてる人間が後を絶たない。世の中のシステムが悪いと叫び、自分の利益につながることから反する現象に対し全て自分以外の他システムや他者の所為にしてしまう。冷静に分析する基礎的人間性が問われる場面が多すぎる。本記事はそれらを冷静に問うものとして評価しています。

    2013年08月05日 13:05

コラムニスト・プロフィール

友野 典男ともの のりお

明治大学情報コミュニケーション学部教授/明治大学院情報コミュニケーション研究科長1954年埼玉県生まれ。早稲田大学商学部を卒業し、同大学院経済学研究科、明治大学短期大学などを経て、2004 ...

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