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組織を強くする!ホスピタリティ・マネジメント 第5回 ホスピタリティを人材育成に活かす

マネジメント 中根 貢 2013年02月04日
人材を「人財」と表記する企業が増えています。確かに人は組織の財産であり、人によって組織活動が成立しています。その「人」をどのように育成していくかが大きな課題となっています。

 しかし、人材育成への課題認識は、景気の変化に左右されやすく、不況期には3Kといわれる交際費、交通費、教育費が真っ先に削減の対象となり、好景期には業務が多忙となるため教育をする余裕がなくなり、結局は人財に対しての投資が手薄となりがちです。

 人材育成は、ホスピタリティ精神を高めるために必須です。

 ホスピタリティにおける人材育成を考える際、キャリアを超えて人生そのものをダイナミックにとらえます。

 現代社会の中では特に、生老病死が日常から遠ざけられ、生きることの実感が次第に失われつつあります。そうした状況の中で、ホスピタリティの視点から人が健康に生きるとはどういうことか、生を受けたもののあり方について考えていくことが必要です。

 そして、人が本来持っている「人間力」を理解したうえで、相互扶助の原理に基づく「いのち」のありようを検討し、現代社会が直面している「いのち」に関する諸問題への対応を考えていくことが重要となりますこの章では、職場マネジメントにおける「利他主義的行動」が促されるマネジメントソリューションをホスピタリティの思想をベースとした斬新な切り口で提案していきます。

昔から日本にあった科学的育成法


 日本人は昔からおだてて働かせるということを志向してきました。織田信長も豊臣秀吉も徳川家康も皆そうでした。

 家康は秀吉の使用人に聞きました。「秀吉という男はどういう男か」「別に普通の人ですけれど、違うところは、あの人はちょっとしたことでも、こちらが恐縮するほど褒める人です」褒めることにより皆一生懸命になります。秀吉のエピソードの中で有名な「三日普請(みっかぶしん)」も褒めておだててやらせた話です。

 このエピソードは、秀吉が、木下藤吉郎という名で馬の世話係である厩衆の一人に過ぎない時期のことです。大勢の職人が城内にはいって工事をするが少しもはかどりませんでした。そこに藤吉郎が主君信長に対して「三日のうちに城壁百間の修復をやってみせる」と言い放ちました。

 30日から50日間はかかるだろうという普請でしたが藤吉郎は城壁百間を50組に割付け、五組に1人の棟梁を置いて、指揮・監督に当たらせ分業制を導入したのです。

 そして、職人達に今の世の中がどんな世の中かをよく説明し、この仕事は信長のためというよりも自分達の家族を守るためにやるのだと一人一人にヤル気を持たせたのです。さらに、「お前たちの実力なら3日で片付けられるはずだ。だから、今日は休め」と言って御馳走をふるまい、酒を飲ませました。

 これは、今でいうモチベーションを高める(動機づけ)という科学的な根拠に基づいて秀吉が展開したもので、いわゆるコーチングの手法を用いたのです。

 近代になり人間関係(Human Relation)という考え方がアメリカから導入され、何か新しい手法が開発されたかのように錯覚されましたが、何百年も前から日本で行われていたものなのです。

 人が行動を起こす時はいつも「自分が主体となり、自分自身をコントロールしているという感覚」と「誰かに動かされ、使われているという感覚」の間のどこかにたって物事を受け止めています。モチベーションを高めるとは、自分の運命の糸を支配しているのは、ほかならない自分自身であり、自分が行動するのは自分がそうしたいからだと感じさせることです。

 そのように感じるとき、人は自分の行動に責任を持ち、また自負心にあふれ、意欲的に物事に取り組むのです。

 これには、自己を見失わずに現状を確実に把握し自責で行動をするというホスピタリティ精神に通じる部分があり、第4回で紹介した「心の良い癖」を伸ばしていくという志向と共通するものです。

産業界での現状


 現代、産業界の職場では成果主義、業績評価が導入され即成果を出すことが求められています。その過程において、諸々の弊害が出ていることは第4回で述したとおりです。

 今の景気状態でスムーズに組織が推移している代表例は、第2回のコラムで取り上げた伊那食品工業のケースです。この会社の場合は、昔ながらの終身雇用、年功序列型をとっている組織です。

 伊那食品工業の社是は「いい会社を作りましょう」でした。

 昇格、昇進制度、職能資格制度、職務規定の強化等様々な制度を導入している企業がありますが、「いい会社」といえるでしょうか。その制度、仕組みは順調に運営されているでしょうか。若手社員、中堅社員は高年齢社員を敬い穏やかに仕事をしているでしょうか。社員は仕事を通じて自分はどのように成長していくかを自身で描けているでしょうか。業績と成果に追われ精神疾患を伴う社員は出ていないでしょうか。

 このように考えると、昇格、昇進制度、職能資格制度等様々な制度は何のためにあるのかという課題が浮かび上がります。

 伊那食品工業様の離職率は極端に低く、退職の内訳は主に結婚退職です。皆さんの会社の離職率はどうでしょうか。

 厚生労働省は2012年10月、大学を卒業してから3年以内に離職した若者の割合を、初めて産業分類別で公表しました。離職率の全業種平均は28.8%ですが業種別では大きなばらつきがあります。

厚生労働省2012年10月発表「新規学卒者の離職状況に関する資料」
*新規大学卒業者の産業分類別21年卒業就職者3年後の離職率

 離職率が高い業種は、「教育・学習支援」「宿泊・飲食業」理容などの「娯楽・生活関連」「医療・福祉」「小売業」となり、全業種平均(28.8%)を大きく上回っています。

 これらはホスピタリティ産業といえる業界で、この産業の離職率の高さを露呈しています。要因としてはホスピタリティ産業の給与水準の低さが挙げられますが、同様の給与水準であっても離職率が低い業界も存在します。

 ホスピタリティ産業の多くは挨拶や身のこなし、マナー、笑顔などのホスピタリティの表層的なレベルの教育しか実施せず、入社直後から現場に出て自分で経験を積んで学ぶという状態です。言い換えると企業がホスピタリティ自体をよく理解しておらず、どのように教育してよいのかわからない状態で現場に出し、その結果、若手が自身と顧客との乖離に気づき、なかなか具体的な対策を見出せないまま自身の成長も実感できず、悩んで辞めてしまうケースが存在します。

 これはホスピタリティ産業にとって将来、中核となる人材が育たないことになり日本のホスピタリティ産業の将来にとって危機的な状況であることを示しています。教育と平行して企業側も若手社員の定着に努力することが重要であるといえます。

 スキルテクニックの教育だけでなく、深く社会を理解し、就業環境を考え、社会が求める能力を認識し、働くことの意義を考えさせることなど、自分の人生の歩き方を描くうえでの気づきに繋がる育成を時間をかけて実施することが重要となるのです。

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  • ゆこなさん

    50代のキャリア教育・・・管理職などには教育があっても一般社員の50代ではあまり教育してもらえない年代です。
    私は通信課程で編入して大学に入り、運よく卒論の指導教授のおかげで視覚障がい者のためのアクセシブルデザインを卒論研究にできました。そのため、更に大学院に通学で進む直前にホスピタリティについてわかりやすくまとめてあることで勉強しようと思う気持ちになりました。ありがとうございます。 

    2014年03月17日 18:47

  • goldenboyさん

    50歳代のキャリア教育の在り方は、参考になった。

    2014年02月02日 12:25

コラムニスト・プロフィール

中根 貢なかね みつぐ

1961年生まれ。駒澤大学卒業後、大手旅行会社に勤務し、営業・添乗業務に従事。その後、学校法人産業能率大学入職。マーケティング、営業を中心に小売流通業から製造業、鉄道事業、医療・福祉と幅広 ...

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