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企業のリスクをマネジメントする ~コンプライアンスの本当の意味とリスクマネジメントのあり方~ 第5回 不正の起こるメカニズム

マネジメント 赤松 育子 2013年10月11日

不正の発生要因の理解~不正のトライアングルという話

 人はなぜ不正を犯すのでしょうか?
 なぜ不正が起きてしまうのでしょうか?

 不正の発生要因を理解するにあたって、「不正のトライアングル」という考え方があります。これは1950年代、米国の組織犯罪研究者ドナルド・R・クレッシーが体系化したものです。

 彼は横領犯罪者に興味を持ち、犯罪者が誘惑に負けた環境に注目して研究を重ねました。現在でも古典モデルとなっている職業上の犯罪者についての理論を発展させ、論文の「Other People’s Money : A Study in the Social Psychology of Embezzlement」として発表し、この中で展開された仮説が「不正のトライアングル」です。

 不正リスクの要因分析を実施するにあたって、不正リスクを以下の3つの状況に分類し分析を実施します。このとき不正の再発防止のための是正措置の策定に関連付けて分析を行うことが有用です。

 この重要な3要素について理解すれば、人がなぜ不正を犯してしまうのかという人の心の謎に迫ることができます。不正の発生を理解し、適切な対策を行うには、この3つの不正リスク要因を理解する必要があります。

 (1) 動機・プレッシャー
 (2) 機会の認識
 (3) 姿勢・正当化


 
 

1.不正を犯す動機・プレッシャーの存在
 合法的なやり方では解決することのできない経済的な問題(例えば、借金やリストラ、失業、組織存続の危機など)を抱えた者が、金銭の窃盗や財務報告の改ざんに手を染める可能性があります。

 つまり動機・プレッシャーとは、不正を実際に行う際の心理的なきっかけのことをいいます。

 原因としては
 (1) 個人的な理由として、処遇への不満や納得のいかない叱責など
 (2) 組織的な理由として、外部からの利益供与、過重なノルマ、業務上の理由、業績悪化、株主や当局からの圧力など
 が考えられます。

 クレッシーによれば、犯罪にいたる動機やプレッシャーは原則として「他人と共有できない問題に帰結する」とされています。すなわち「人はなぜ不正を働くのか」という命題に答えるとすれば、「何らかの経済的事由を個人で解決しようとした結果」であると言えるでしょう。
 例えば上司や同僚に相談して解決することができれば不正を犯す動機が生じない、一人で抱え込んでしまうからこそ不正の動機が生ずる・・・というところでしょうか。良好な職場環境と円滑なコミュニケーションの大切さが身にしみる洞察です。

 クレッシーはこの要素を6つのカテゴリーに分類しています。
 (1) 割り当てられた責務への違反
 (2) 個人的な失敗による問題
 (3) 経済情勢の悪化
 (4) 孤立
 (5) 地位向上への欲望
 (6) 雇用者と被雇用者の関係


2.不正を犯す機会の存在と認識 
 自分への信頼を悪用して秘密裏に問題解決ができ、かつ発覚のリスクが少ない機会を認識します。
 つまり機会とは、不正を行おうとすれば可能な環境が存在する状態のことをいいます。重要な事務を一人の担当者に任せている、必要な相互牽制、承認が行われていないといった管理上の不備が主な原因となります。

 不正のトライアングルの仮説によれば、3要素が全てそろわなければ不正行為に結びつきません。すなわち不正の理由が、他人と共有できない経済的な問題だけでは足らず、他者に知られずにこっそりと不正を行うチャンスがあること(もしかしたら、いずれバレてしまうかもしれないにしても・・・)を認識していることが必要になってきます。

 例えば、
 (1) 伝票の起票者と承認者が同一人物
 (2) 現金出納に際してのチェック機能が甘い
 (3) 棚卸をしていない
 といったような、内部統制機能や内部監査機能の形骸化があげられるでしょう。

 内部統制機能や内部監査機能の脆弱化は、「悪いことをしてもばれないだろう」といったような心の闇を生じさせる可能性をはらんでいます。


3.不正を正当化する理由
 自己の行為を自分で受け容れるための事前の納得です。
 つまり、不正を思いとどませるような倫理観、遵法精神の欠如であり、不正が可能な環境下で不正を働かない堅い意思を保てない状態を意味します。現実問題として完璧な管理体制の構築は不可能である以上、道徳律の確立が不正予防の必須要件であるといえましょう。

 悪いことをしようとするとき、どんな人にも良心の呵責があるはずです。その良心の呵責を振り切って実行するには、何らかの力によって背中を押してもらわなくてはなりません。それが「正当化」です。

 例えば、
 (1) 自分だけが悪いわけではない、周りの人も同じように悪いことをしているから大丈夫
 (2) 自分は会社に正当に評価されていないと思う
 (3) 自分は悪くない、悪いのは会社だ
 (4) 自分は正しいのに、理解されないのはおかしい

 これらはいずれも、不正を行おうとする人が自分の「善意の心、良心」にフタをするための理由付けです。他責といってもいいかもしれません。結局は「自分は悪くない、周りが悪い」「だから私が○○をしても許されるはずだ」と都合の良い解釈をしているのです。

 このように、不正はこの3要素が合体した際に発生すると考えられます。
 すなわち、この「不正のトライアングル」もしくは「不正の3要素」のいずれが欠けても不正は発生しないということがポイントですね。



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  • Dandyさん

    不正の発覚は、ほとんどが内部告発によるもののように思う。 不正を積極的に発見するにはどうしたらよいか、そこに大きな課題があると感じている。

    2013年10月31日 16:50

  • omo25さん

    昨今の阪急ホテルの食材偽装といいい不正をしているという認識が欠如した表れだと感じる。不正の対処を間違えた為に社長が辞任に追い込まれたのだと感じている。雪印の時も社長の対応が拙く辞任に追いやられてしまった。社長の意識が会社の姿勢に取られる事は明白だと思っている。

    2013年10月31日 16:17

  • kazukunさん

    コンプライアンスの本音と建て前、紙一重のような気がする。

    2013年10月31日 13:43

  • ジャニスさん

    不祥事の時の対処ほど、企業を左右するものはない。

    2013年10月30日 15:29

  • ためごろさん

    会ってはならない会社不祥事、最近頻発している。疲弊した新自由主義の悪果ではないのか。

    2013年10月30日 12:00

  • たっき―さん

    種々のリスクを気にしななければならない昨今でそのメカニズムの一部を勉強させてもらいました

    2013年10月30日 11:29

  • かふぇのわーるさん

    チェックリストが非常に簡潔にまとめられていて、後で振り返るにはとても良いと感じました。

    2013年10月30日 08:52

  • 東海アトムパワーさん

    不正をする時は言い訳を考えてからする人と不正がバレてから思いつきで言い訳する人がいますが不正のトライアングルに当てはめればどちらも見抜けそうな気がしました

    2013年10月29日 16:22

  • Kenさん

    今話題の偽装問題にぴったりの無いようですね?ホテル業界だけでは無くて食材を納入していた業界にも問題があるのでは?

    2013年10月29日 09:44

  • かわやんさん

    不正の温床となる状態が理解できました。色んな要素の複合ですが、ひとづつ地道に日頃から目を光らせ、対処することが重要だと認識しました。

    2013年10月29日 09:14

  • shoh-channさん

    監査業務を担当しているのでとても役立った。

    2013年10月29日 08:59

  • yujiさん

    阪神ホテルの偽装はどうなのかをこの本で検証したいですね。

    2013年10月28日 22:55

  • イサムチカさん

    人の心には、良い部分と悪い部分があり、常に無意識に、又、意識を持って行動をしていると思います。社会のためにも自分自身のためにも高い倫理観を維持することが必要と思います。

    2013年10月28日 17:35

  • ヒデブーさん

    今般、日本公認不正検査士協会主催のセミナーに参加しました。「AIJ事件に見る不正」の題目で、元AIJ投資顧問企画部長が講演され、私を含め、聴衆は固唾を飲んで聞いておりました。「新不正リスク対応基準」が公開されており、最近マスコミをにぎわすほどの不正が何故起きるのか、また、どのように対応すべきか、今後大いに勉強する必要性をヒシヒシと感じております。

    2013年10月28日 16:27

  • まーちゃんさん

    「担当者の知識不足によるもので、だまして利益を得ようとしたわけではない」、「偽装ではなく誤表示」との会社の見解は、高級ホテルが材料の見分けもできない料理人を雇っていたと吐露した気がしました。

    2013年10月28日 14:02

  • たけさんさん

    不正のトライアングルに興味が持てた。

    2013年10月28日 13:37

  • ほりちゃんさん

    テーマに興味をもった

    2013年10月28日 12:24

  • みずやンさん

    不正のトライアングルみ納得

    2013年10月28日 11:04

  • MoRoさん

    不正根絶の基本の基本

    2013年10月27日 03:15

  • kemukemuさん

    不正の防止には、例外処理が起きない仕組みとクロスチェックが大事。

    2013年10月26日 16:16

  • りりももさん

    不正を憎む心を持ちたい

    2013年10月24日 14:08

  • tetsuさん

    組織防衛目的たる未然防止策と構成員個人に着目する人材教育指導施策とは比重に差異があろう。例えば、「3.姿勢・正当化」の観点で塞ぐ発想は、事後的組織抗弁と紙一重になりかねない。

    2013年10月23日 17:47

  • えるもさん

    自分がリスク要因とならないよう勉強したいと思います。

    2013年10月22日 23:40

  • manavさん

    高度情報化社会がもたらした、人員削減・ネットワーク社会・人付き合いの希薄化など
    今後ますます酷くなりそう。

    2013年10月22日 18:26

  • kirazhoさん

    友人の会社で横領が発覚したみたいです。同じ部署にいても気づかなかったといいますから、巧妙なんでしょうね。

    2013年10月22日 12:51

  • ポワロさん

    コミュニケーションの大切さを気づかされました。孤立させない、しないような職場環境を作れるようにしていきたいと思います。

    2013年10月22日 10:24

  • こうはくまんぼうさん

    「不正のトライアングル」なんて詳しく知りませんでした。もっと深く知りたいです。

    2013年10月22日 07:35

  • goldenboyさん

    不正の3要素、その原因、そして解決へのアプローチ。とても参考になりました。

    2013年10月21日 22:09

  • ジャックンさん

    不正を正当化する理由は、被疑者との面談でも出てくる主張です。
    内容を更に詳しく知りたくなりました。

    2013年10月21日 21:54

  • HiSuzuさん

    クライアントの会社の方に、「不正のトライアングル」の話をさせていただきました。とても参考になるとおっしゃっていただいて、会社の役員会でもプレゼンされた、と感謝されました。多謝!

    2013年10月21日 19:07

コラムニスト・プロフィール

赤松 育子あかまつ いくこ

公認会計士、公認不正検査士東京大学経済学部経済学科及び経営学科卒業監査法人勤務を経て、産業能率大学に入職現在は、不正リスクマネジメント、コンプライアンス、内部統制領域を中心に、女性のキャリ ...

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