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未来授業~明日の日本人たちへ 松田卓也さん~人工知能の未来と私たちはどのように向き合うべきか

2014年12月12日

 今回の講師は、宇宙物理学者・理学博士の松田卓也さん。神戸大学名誉教授、NPO法人あいんしゅたいん副理事長。国立天文台客員教授、日本天文学会理事長などを歴任され、Japan Skeptics会長、ハードSF研究所客員研究員でもあります。著書に『これからの宇宙論 宇宙・ブラックホール・知性』『人間原理の宇宙論 人間は宇宙の中心か』『2045年問題 コンピュータが人類を超える日』など。

 人工知能の発達によって、将来的に人間の仕事が減るといわれています。テクノロジーがどんどん進歩していくなか、私たちはそのような状況とどのように向き合っていくべきなのでしょうか?

人工知能が人間を超える日

 2045年問題というのは、「Technological Singularity(技術的特異点)」を意味します。ここでいう特異点とは、コンピューターや人工知能が、全人類の知能を超える時期のこと。アメリカの有名な未来学者であるレイ・カーツワイルは2012年の著作『How to Create a Mind: The Secret of Human Thought Revealed』において、「人間と同じレベルの人工知能が登場するのは、いまから15年後の2029年」だといっています。

 ものごとの変化、進歩、進化は「指数関数的」だといわれています。たとえば次の日に2倍になり、その次の日に4倍になる。さらに、次は8倍になる。つまり16なら32、64と、2をかけていく。これを「指数関数的変化」というのです。線形的な変化と指数関数的変化には、最初の時点で大差はないのですが、ある時点で急に大きく増えるのです。

 1960年代にゴードン・ムーアが、「ムーアの法則」を唱えました。半導体チップの集積度、つまり「チップの上にどれだけトランジスタが載っているか」について、約1年半から2年後に倍になるという法則を発見したのです。そして結果的には、当時から50年経っている現在も、その法則は成り立っています。コンピューターの能力は、そういう意味で倍々になっているのです。

 いちばん進歩した人工知能は「ワトソン」といわれるものです。2011年にお披露目され、アメリカの「ジョパディ!」というクイズ番組で、ふたりのチャンピオンと対戦して勝ったのです。ワトソンのすごいところは、英語でなされた質問に対し、答えが声で出てくること。しかも質問は、すごく細かいアメリカの常識です。たとえば「日露戦争時におけるアメリカの大統領は誰か」というような質問があり、早くボタンを押したほうが勝ち。ワトソンはインターネットにつながっていないのですが、自分のなかに膨大な量の辞書を持っているので、それを読み込んだわけです。

 いま、ワトソンはおもに医学に注力しています。医学の世界では、毎日大量の文献が発表されているのですが、多忙な医者にはそれらを読んでいる暇はありません。ところが、ワトソンはすべてを読んでしまえるのです。そこでいま試験的に、お医者さんの横にワトソンがいる状態でのガンの診断が進められています。お医者さんが患者さんにいろいろ話すと、ワトソンは複数の治療法を提示し、「この治療方法なら有効度は70%」などと伝えるのです。10万~100万冊の本や論文を“いま”読んだ状態で答えを引き出すわけですが、そんなことは人間にはできませんね。

チューリング・テストの意義

 人工知能は「株専門」「法律専門」「教育専門」など、狭い特定目的のものに特化して研究が進められています。たとえば東京大学の試験を突破することが目的なら、ただ突破するだけで、それ以外のことはできない。いま、ほとんどの研究がそういう方向で進んでいるのですが、一部では「人間をつくり出そう」「人間の意識をつくり出そう」という研究も行われています。これは、怖いといえば怖い話です。

 意識とは、複雑なシステムのなかにボッと浮かび上がるようなものだと思います。たとえば脳。人間は意識を持っているわけですが、大脳だけでも数100億のニューロンがあります。その個々のニューロンが意識を持っているわけではありませんが、ニューロンの「かたまり」が意識を持っている。つまり、将来コンピューターのネットワークが複雑になったとき、そのシステムのなかに意識がボッと浮かび上がってくるのではないかと考えているということです。

 しかし人間には、喜びや恐怖などの感情があります。その元となっているのは、目で見るとか、皮膚で痛みを感じるということ。ところが、そういうものが欠けた知能は「理性だけ」だということになります。人間には理性と感性の部分があるので、感性を欠いた人工知能と話し合えるのかについては疑問が残ります。

 ところで、意識とはなんでしょうか? 実は、このことについては答えが出ていません。ただし、いろんな立場があり、なかでも有名なのが、英国のアラン・チューリングという数学者の「チューリング・テスト」。人工知能が意識を持つかどうか、テストしてみようというものです。試験官が、壁の向こうにいる人間や人工知能と会話をしたとき、どちらが人間でどちらが人工知能かわからなければ、人工知能は人間と同じであるとみなそう、というものです。現時点では人工知能やコンピューターの発声は特徴的でわかりやすいので、キーボード、つまり文章だけでやりとりしているのですが。

 今年、人工知能が「チューリング・テスト」をパスしたといわれているのですが、多くの研究者はこれを認めていません。英国のロイヤル・ソサエティが開催したコンテストに通ったのですが、それは「ロシア人が“ウクライナの13才の少年”という触れ込みでつくった人工知能と5分間だけ会話し、審査員の30%が騙されればよい」というものだったからです。「まだ少年なのだからこんなものだろう」と思わせるような部分があったわけで、多くの学者はそんなものを認めませんでした。カーツワイルも「それではだめだ、2時間くらいじっくり話してみないとわからない」と主張しました。

 意識の問題は実に不確定です。デカルトは、「我思う故に我あり」といいました。いわば、自分は意識を持っているということは確実。しかしだからといって、「あなたが意識を持っている」とわかるのでしょうか? 話をしてなにか質問をした際の、もっともらしい応答があります。それを聞いて、「あ、だから人間だな」と認識するわけです。たとえば声だけで人間と猫を区別するとき、人間がまともな返答をするのに対し、猫なら「ニャー」というから猫だとわかる。つまり会話をして、もっともらしい返答をすれば意識があるということになる。これがチューリング・テストなのです。



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【松田卓也(まつだ・たくや)】
宇宙物理学者・理学博士。神戸大学名誉教授。元日本天文学会理事長。
コンピューター創世記である1960年代から、大型コンピューターを駆使した数値シミュレーションを行い、京都大学や神戸大学でコンピューター関連施設の運営委員を歴任するなど、コンピューターの最先端事情に詳しい。



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