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未来授業~明日の日本人たちへ 渡辺佑基氏  ~バイオロギングが明らかにする野生動物と環境~

2013年05月10日

今回の講師は、国立極地研究所・助教の渡辺佑基さん。先日、権威ある科学雑誌「アメリカ科学アカデミー紀要」に、「南極のペンギンにカメラを取り付けて、ペンギンのエサ取りを観察した」という内容の論文が掲載され話題を呼びました。 いまも世界各地を飛び回り、野生動物にカメラと記録計を取り付け、『バイオロギング』という手法によって観察と研究を行なっています。

バイオロギングとは

 従来の動物の研究では、まず双眼鏡などを通して目で見て、「いま、なにをしているのか」をノートに記していました。しかしペンギンなどの海の動物の場合、氷の上にいるときの状態は確認できても、海に入ってしまうと、なにをしているのかわからなくなります。そこで動物の体に計測機械を取り付け、動物自身に行動を測ってきてもらうという手段が生まれたわけです。それがバイオロギングです。

 つまりバイオロギングは、実験環境や双眼鏡に頼らず、自然動物のありのままの行動を調べるという研究なのです。私はいまは南極のアデリーペンギンがメインの研究対象になっています。今回のアデリーペンギンの研究では、長さ8cm、重さ30gの円筒形ビデオカメラを用いました。それで1時間半程度のビデオが記録できるんです。それからもうひとつは、長さ4cmの、やはり筒状の形状をした「データロガー」という小さな計測器。これだと、2~3日分の深さと温度と加速度の記録がとれます。

 これらを束ねてペンギンの背中に取り付け、ビデオを通じてペンギンの視点で確認しながら、データロガーで行動をモニタリングしたんです。また、同じペンギンの頭にもデータロガーを取り付けました。ペンギンはエサを取るときに頭を強く振りますので、その動きをとれば、どこでどんなエサを食べているのかわかるのではと考えたわけです。ちなみに南極に行くときはデータロガーを40~50羽くらいに取り付けるのですが、今回カメラを取り付けたのは全部で14羽でした。

 私が一番興奮したのは、ペンギンが水中でエサをパクパク食べている姿がはっきり映っていたことです(ペンギンは動きがはやいのでなかなかついていけませんし、どこでどんなエサを取っているのかについては、他の方法ではなかなか調べられないのです)。彼らはオキアミという、すごく小さな2~3cmくらいのエビに似た甲殻類を一匹ずつつまむようにして食べていました。それからボウズハゲギスという、ちょっとおかしな和名のついた魚も。その魚は南極の氷のすぐ下に張り付くようにして暮らしている変わった性質の持ち主なんですが、ペンギンは氷のすぐ下を泳ぎ、ボウズハゲギスを探しまわり、一匹ずつ捕まえて食べていることがわかったんです。

カメラが捕えた知られざる生態

 野生動物のエサ取りの行動をモニタリングできたことが一番大きな成果だと思います。いままでは野生動物がどこでどんなエサを食べていたかを測る術がなく、エネルギー計算から推定したり、間接的な情報から想像していたんです。ですから、ビデオとデータロガーを動物に取り付けて直接調べるという手法を確立できたのは大きな進歩なんです。またペンギンの生態に関していうと、エサ取りの素早さが、シンプルな驚きとしてありました。ペンギンがオキアミの群れの中に入っていって、1秒に2匹というとんでもないスピードで、しかも一匹ずつつまんで食べていたんです。恐るべき運動能力を持っているということがわかり、大きな発見でしたね。

 それからペンギンのエサ取りは、当たるときは大当たりするものの、ハズレるときはひたすらハズレが続くことがわかりました。これが、人の食事とは全然違うところ。人間なら一日3食安定して食べられますが、考えてみれば動物って全然そんな状況にないんですよね。食べられるときにはこれでもかというくらいの量を食べられるのですが、ないときはなにも食べられない日がずっと続く。そういうバリエーションの大きな世界に生きているということが、ペンギンのデータで証明できたんです。そうだとするとエサを探す動きのパターンも、おそらくその環境に適応している気がするんです。たとえば動物の動きをGPSで測定すれば、どこにあるかもわからないエサを探すときにどう動くのが効率的かという、自然界のバリエーションの大きさに対応した動きが見えてきます。動物の食事は、平均値で語れないバリエーションの大きな世界。動物がそのバリエーションの大きな環境に適応するためにいろいろな工夫をして、生き残るために必死になっている様子が見えてきたのです。

 動物は生き延びるために、ありとあらゆることをしています。ペンギンもそうで、天敵は巣のあたりにはあまりいないのですが、ペンギン同士の競争が猛烈に激しい。お互いにつつき合って、追い出したりするんです。子どもはすぐに野垂れ死んでしまうし、トウゾクカモメという獰猛な鳥にさらわれることもある。そういう厳しい環境にいる動物たちを見ていると、毎日3食ありつける人間は幸せだなと痛感します。人間は快適な生活に慣れてしまっているので、動物のようにいつ次のエサにありつけるかわからないような環境にはもう戻れない気がします。ただ人間の行動は、単純に生存のためではなく、モチベーションなり個性なり、いろいろな要素に影響されますので、研究対象としては難しすぎますね。鳥とか動物の方が本能のままに、遺伝子にインプットされたマシンのように振舞うので解釈は楽です。




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【渡辺佑基】 プロフィール
1978年4月12日生 岐阜県岐阜市出身。
国立極地研究所 生物圏研究グループ 助教。



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  • naokisanさん

    面白い研究だと思う。人間は自殺する人もいるけど、動物にはそんなことをするものはいない、生きていくのに必死で、人間は少し贅沢になりすぎているのかも。なんとなくわかるような気がする。

    2013年05月22日 10:06

  • 弁慶さん

    参考になります。

    2013年05月13日 16:35

  • genchan20さん

    オキアミをペンギンが食べているなんて初めて知りました。また3食食べられる人間であってよかったです。空腹に弱いgenchanより

    2013年05月13日 16:19

  • まるこぼさん

    生物の複雑な生態系を 単純化しない というのはとても大切な事だと思います。人間には解明できない事のほうが多く 人間自身のことさえ判らないのですから もっと謙虚に自然に教えてもらう姿勢がたいせつなのだと思えます。。人間も 複雑なままの存在として 認めていってほしいように思ったりしました。。

    2013年05月13日 10:35



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