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未来授業~明日の日本人たちへ 藤田紘一郎氏  ~脳と腸~

2013年03月29日

 今回の講師は、東京医科歯科大学名誉教授の藤田紘一郎さん。寄生虫学、感染免疫学などをご専門とする、免疫と伝染病研究の第一人者です。

 藤田さんは先日、『脳はバカ、腸はかしこい』(三五館)という著書を発表されました。人間の腸の持つ優れた機能と、心と体の健康に与える影響をわかりやすく解説した書籍です。「腸は第二の脳である」といわれますが、藤田さんは本書のなかで「腸は、脳よりも優れた“考える臓器”である」と唱えています。理由は、腸が複雑な生体機能をつかさどる臓器だから。そして、人間の脳はもともと腸から派生したものだと考えられるから、というのがその根拠です。

 今回は、私たちのおなかにある「腸」について考えていきます。

脳と腸の関係性

 生物には最初、脳がありませんでした。地球上に生物が誕生した約40億年前。最初に備わった器官は腸で、脳ができたのは5億年ぐらい前なのです。つまり、脳はまだこの生体にフィットしていないというわけです。

 脳に幸福を感じさせる物質はドーパミンやセロトニンだといわれていますが、それらはもともと腸内細菌の伝達物質でした。脳ができたから、一部を脳に渡しただけなのです。ですからいまでも、脳内伝達物質といわれるセロトニンやドーパミンはみんな腸で作られています。セロトニンはいまでも腸のなかに90%ぐらいありますが、脳にはたった2%しかありません。その2%のセロトニンが少なくなると、鬱病になるわけです。

 腸を大事にしないと、セロトニンやドーパミンは脳に行きません。腸に存在するセロトニンは、悪い菌が来たらワァッと反応を起こし、下痢やおならを通じて体外に出そうとするのです。しかし脳は、自分の報酬系(自身に快楽を感じさせる神経系)さえ満足すれば、体に悪いものでもなんでも入れてしまおうとしてしまいます。

 ですから、脳をだますのは簡単です。たとえばストレスを受けたとき、甘いものが食べたくなりますよね。本来は、ストレスを受けたらそれに対抗しなくてはいけません。つまりストレスホルモンや腸の免疫を出す必要があるのですが、その役割を腸が担っているのです。けれども脳は、一次的にストレスを取るために快楽を求めてしまいます。脳はいったん報酬系を刺激されると、もう止まらなくなります。たとえばポテトチップスなどを食べると快楽系、報酬系が刺激され、快感を感じます。脳から快楽物質が出て、ストレスが取れたように感じるわけです。

 けれども、それだと腸はうまく機能しません。腸はそういうものの摂取をやめて免疫を高め、ストレスを取るようなたんぱく質とか、野菜などを食べてほしがっているのです。けれども脳は、上辺のことに反応してしまいます。ですから脳と腸が同じストレスを受けても、脳は一次的な快楽で逃げてしまう。しかし腸は、それを処理しようと一生懸命働く。そこで反応が違ってくるわけですね。

赤ちゃんが、なんでも口に入れたがる理由

 腸内細菌を調べるとき、これまでは培養できる腸内細菌ばかりを調べていました。そして乳酸菌はいい菌、ビフィズス菌もいい菌、大腸菌は悪い菌、ウェルシュ菌も悪い菌などと分け、それぞれを善玉菌、悪玉菌と呼んでいたのです。

 ところが現在では培養できない菌にも、どういう腸内細菌がいるのかがわかるようになりました。そして従来、腸内細菌は100種類、100兆個だといわれていたのですが、培養できない腸内細菌がその10倍以上いることがわかりました。さらには、その大部分が土壌菌、土の菌でした。つまり数からいうと土壌菌がいちばん多く、その後に善玉菌と悪玉菌がいることになるわけです。それがどういう役割をしているかはわかりませんが、たとえば納豆を食べると免疫が上がって元気になります。納豆はほとんどが、納豆菌と土壌菌です。

 ところで赤ちゃんはなんでもなめたがりますが、この行動に重要な意味があることがわかりました。赤ちゃんの腸内細菌を調べると、生まれたばかりのころは無菌なのですが、その後は大腸菌が急速に増え、つまり悪玉菌が急激に増えるのです。しかし、おっぱいを飲んでいると、ビフィズス菌や善玉菌が増えていきます。

 赤ちゃんは、お母さんの胎内では無菌状態、免疫ゼロで過ごします。しかし外界に出ると、インフルエンザ菌やさまざまな悪い菌がたくさんいるため、対抗できる体を作らなければなりません。そこで、「ちょいワル菌」を体内に取り込むのです。いい菌を入れても免疫は発達しませんから、それがいろいろなものをなめることに関わっているというわけです。

 ですから生まれてすぐ、おっぱいも哺乳瓶も消毒して無菌室のような部屋に入れてしまうと、赤ちゃんの腸はきちんと発達しません。事実、生まれたばかりでアトピーになっている赤ちゃんの便を調べたら、半分近くは大腸菌が一匹もいませんでした。ということは、アトピーになっても治らない。成人になったら、卵も牛乳も受けつけない体になってしまうのです。ですから赤ちゃんには自然にそのまま、好きになめさせたらいいのです。不潔なように見えますが、本当は必要なことなのです。菌の力を借りて、人間の力を強めようとしているわけです。つまり体を強めるためには、「ちょいワル菌」と付き合わなければいけない。いいやつと付き合うだけではだめなのです。それは、動物もやっていることです。

 動物はまず腸を大事にし、腸を発達させます。具体的にいえば、腸内細菌を増やすために、生まれたらすぐに土をなめるのです。たとえばパンダ、笹を消化する酵素を自分では持っていません。笹を消化する酵素は、腸内細菌が持っているのです。コアラもまた、ユーカリを無毒化する酵素は腸内細菌が持っています。つまり腸内細菌がいないと、我々は生きられないのです。



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【藤田紘一郎】 プロフィール
東京医科歯科大学名誉教授。人間総合科学大学教授。
寄生虫学、感染免疫学などが専門で、免疫と伝染病研究の第一人者です。
『脳はバカ、腸はかしこい』『笑うカイチュウ』『清潔はビョーキだ』など著書多数。



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  • ムンタさん

    腸の話と通じて、体は元より、社会生活のあり方まで教わり、大変勉強になりました。今まで以上に腸の調子を意識して、心身共に健康な人生を送れる様、努めて行きたいと思いました。

    2016年08月17日 11:23

  • アルフママさん

    読みながら思わず笑っちゃいました。本来は医学的で難しいことが、とてもわかりやすく、思わず誰かに話したくなる内容でした。

    2013年04月25日 11:25

  • hallyさん

    ウイルス、細菌を含め生き物である以上、人間だって例外じゃなく、
    他者を認める寛容性が大切という事でしょうか
    『衆縁和合』という仏教の教えをを実感したしだいです。

    2013年04月06日 10:14

  • keng3kitaさん

    藤田先生のお話は、我が意を得たり、という感じです。 赤ちゃんを無菌状態にしようと躍起になって親御さんがいらっしゃいますが、丈夫な子に育てようとするなら、むしろ逆ですね。 赤ちゃんの時に馬や牛の藁小屋に連れて行くと良い、という話を聞いた亊が有ります。藁に居る菌が良いのでしょう。 赤ちゃんの為に良かれと思って無菌状態を作るのはダメですね。 何事も極端に不自然なのは良くないのかも知れませんね。

    2013年04月02日 15:32

  • ピョコタンさん

    判りやすくてためになりました。

    2013年04月02日 15:24

  • gansanさん

    ある程度の認識はありましたが整然とした説明でしっかち理解できました。72歳の小生には大いなる教訓で学んだことを活かしたいと思います。

    2013年04月02日 09:57

  • takeさん

    素晴らしい記事です。人体の神秘に感銘を受けました。
    今までの個人的な経験も踏まえ、記事が伝えている内容に賛意を覚えます。

    2013年04月01日 14:48

  • トモ兄さん

     人には、「解糖エンジン」と「ミトコンドリアエンジン」という、2つのエネルギー製造装置があって、中高年になるとエネルギー系は、解糖系からミトコンドリア系へと移行する。解糖エンジンは、糖をエンジンに伝えてエネルギーにしているので、食べ方を変えなければならない。つまり、エネルギー源も移行。だから、中高年になると、炭水化物をやめなくてはいけない。

     目から鱗です。

    2013年04月01日 10:02



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