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未来授業~明日の日本人たちへ 榎本幹朗さん~CD、ダウンロード、ストリーミング、そしてふたたびアナログへ。変わり続ける音楽サービス

2015年09月04日

 今回の講師は、音楽メディア、音楽ハードに関するコンサルタントの榎本幹朗さん。音楽配信に関して、豊富な知識をお持ちです。

 CDからダウンロード、そしてストリーミングへと音楽メディアが激動するなか、私たちはどのように音楽と向き合っていけばいいのでしょうか? 考え方をお聞きしました。

定額配信サービスの盛り上がり

 昨年、CDやライブ映像が収録されているDVD、ブルーレイディスクなどの「パッケージ売上」に対し、iTunesに代表される「ダウンロード販売」そしてSpotify、Apple Musicのような「定額制配信サービス」を合わせた「デジタル売上」は、ちょうど同じくらいでした。しかし今年は、デジタル売上がパッケージ売上を越えていくといわれています。デジタル売上の内訳を見てみると、半分以上がダウンロード販売ですが、もう半分の定額制配信サービスがものすごく伸びている。この勢いですと、あと3年もすれば世界のレコード産業における売り上げの中心は定額制配信サービスになりそうです。

 数年前までリスナーはCDを買っていたわけですが、やがて「1曲いくら」というかたちでiTunes Storeからダウンロード購入をするようになった。そして次に新しく出てきたのが、日本でいえば月額980円程度払えば音楽が聴き放題になる定額配信。今後はこのサービスに移りつつあるということです。

 定額制ストリーミングが世界的に有名になったのは、Spotifyの活躍があったおかげです。Spotifyはヨーロッパでは2009年ごろから話題になりはじめ、2011年にようやくアメリカへ上陸した。そして2014年には、有料会員が1000万人になったのです。スタートしたのが2008年なので、5年くらいかけて1000万人の大台にようやく乗せることができたことになります。しかし2015年に入って倍増し、あっという間に2000万人に増えたのです。いわば、Spotifyがいろんな業界を動かしはじめたわけです。

 でも、かつてiTunesを成功させた故スティーブ・ジョブズは、もともと定額制には反対していました。インターネットが普及したばかりのころにNapsterというファイル共有アプリがアメリカを中心に流行し、アメリカのレコード会社は「もう音楽コンテンツにはお金を払ってくれなくなるだろう」と考えた。そこで、「どうやったらお金を払ってもらえるのだろうか」と頭をひねったときに、「ファイル共有のようになんでも自由に聴けて、かつダウンロードよりもっと便利なサービスを創ったらお金を払ってもらえるんじゃないか」と考え、定額制ストリーミングサービスをはじめたのです。

 これがそもそものはじまりなのですが、しかしこのときはうまくいかなかった。理由はいろいろあるのですが、いちばん大きな要因はパソコンでしか聴けなかったことです。そして、定額制にある曲がビルボードチャートの3~13%程度と限られていた。Napsterのようなファイル共有を使えばどんな音楽でも無料で手に入るのに、なぜ有料サービスの方が音楽が少ないのか。この点に、ユーザー側は納得できなかったということです。そして「ストリーミングなんかうまくいくはずがない。でもダウンロード販売ならiPodに入れて運べるのだから、気軽に曲単位で買えるようにした方がいい」とスティーブ・ジョブズが提唱してはじまったのがiTunes Storeで、これはすごくうまくいったのです。

 初期のころ、iTunes Storeはぐんぐん売り上げを伸ばしていきましたが、2013年くらいになると、定額制ストリーミングはぐんぐん伸びているのにiTunes Storeの売り上げはどんどん下がっていくという逆転現象が起こったのです。

 そのきっかけになったのがスマートフォンの普及で、つまりiPhoneが登場してからSpotifyが外でも聴けるようになって、急に有料会員を獲得できるようになったわけです。そしてSpotifyの会員が増えてきたので、追いかけるようにApple Musicをはじめざるを得なかったということ。ですから6年くらいかかって、ようやくキャッチアップできたというのがApple Musicの実態です。その結果、AWAやLINE MUSICもいよいよ盛り上がってきたという感じですね。

自分の好みに合わせて聴ける

 日本に限っていうと、残念ながら若年層でも音楽離れが進みはじめていて、音楽を聴く時間自体が減っているようです。10代、20代でいうと、いままでは「無料で音楽を聴く人が増えている」ということが課題になってきたのですが、実際には無料でも音楽を聴かない人が増えてきているのです。具体的にいえば、YouTubeやファイル共有でダウンロードした曲しか聴かないという人が、10代のうち4人に1人程度になってきている。そして1割が、持っている曲しか聴かない。さらに、まったく音楽を聴かないという学生は、2009年の段階だと20人に1人くらいだったのですが、去年の段階では10人に1人くらいになっています。

 つまり「持っている楽曲しか聴かない人」と、「音楽をまったく聴かない人」、「音楽に興味がなくなっている人」を合わせると5人に1人。5年前は10人に1人だったので、音楽に対して消極的な人がかなり増えているという状況なのです。また、統計的には10年以上前から出ている傾向なのですが、人は結婚すると音楽を聴く時間や、音楽に払うお金が半分になるんです。ですから30歳を過ぎれば自動的に減っていきますし、いま音楽にお金も時間もたくさん使ってくれる大学生~20代の社会人にも、音楽離れが起こっているという状態です。

 音楽離れについて象徴的なのは、やはりチャートです。日本のチャートは海外と違って、CDの売り上げしか反映されていないんです。たとえばアメリカのビルボードチャートは、もともと音楽業界の人がトレンドを把握するためにつくりはじめたものなので、「音楽が実際に聴かれているシーンはすべて入れていこう」ということになっている。最初はラジオでのオンエア回数も反映されていたのですが、いまではダウンロード数も、定額制配信や動画共有で聴かれた回数も反映されるようになっている。だから、実際にどんな音楽が聴かれているかが目に見えてわかるんです。

 でも日本のようにCDの動きだけを見ていると、どうしてもアイドルが強くなってしまったりして、あたかもアイドルしか聴かれていないように見え、「あ、自分には関係ないな。自分は音楽には興味ないな」と思ってしまう。ところが動画共有やストリーミングなどで聴かれている実態を反映すると、また違ったチャートが出てくるのです。事実、最近はビルボードJAPANががんばってYouTubeや歌詞検索結果を反映するなど、ずいぶん違ったチャートを出したりしています。

 音楽配信については、「いろんな音楽をその人の趣味に合わせて聴ける」というのがトレンドです。自動プレイリストを生成し、その人の音楽の趣味を把握して、「この曲が好きなんじゃないですか」と、自動的にどんどんかけてくれるわけです。あるいは自分の好きなDJのプレイリストを聴いたときに知らない曲もいっぱい入っていたら、「なかなかいいね」となっていく。定額制配信が普及するにつれて、「実際に自分の好きな音楽もいっぱいあるんだな」ということが、音楽にあまり興味のない人や、音楽を探す時間がないという人も、自分の好きな、新しい音楽を発見しやすくなる。ですから、そこは変わってくるんじゃないかなと思っています。



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【榎本幹朗(えのもと・みきろう)】
1974年、東京都生まれ。京都精華大学非常勤講師。上智大学英文科中退後、制作活動を続け2000年、音楽テレビ局スペースシャワーネットワークの子会社ビートリップに入社しディレクターに。ライブストリーミングの草創期に深く関わる。2003年、チケット会社ぴあに移籍後、独立。エジソンのレコード発明から、iTunes、Pandora、Spotifyに至るまでを緻密に追った連載「未来は音楽が連れてくる」が音楽業界に衝撃を与え、音楽配信の第一人者と目されるようになった。現在、連載の書籍化が進んでいる。

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