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くねくね科学探検日記 第4回 庶民化された超絶技術社会

2016年09月23日

SF作家は携帯電話を予言できなかった?

 昔、小松左京は、「SF作家は携帯電話を予言できなかった。このことを反省しなければならない」というようなことを言っていた。
 今にして思うと、これは非常に深みのある言葉だったと思う。

 SF的な小道具として、携帯電話のような技術が全く予言できなかったかといえば、決してそんな事はない。
 たとえば、『ウルトラマン』(初放送1966年)に出てくる流星バッジや、『ウルトラセブン』の腕時計型テレビ電話などもあったし、アメリカでは『ディック・トレーシー』(1960年)が腕時計型通信機を使っていた。この種の、携帯電話的(というよりトランシーバーの延長ではあるが)なテクノロジーは様々な作品で古くから小道具として登場している。
 また、『スタートレック』のシリーズでは、原点の『宇宙大作戦』(初放送1966年)の時から、胸につけたバッジ(コミュニケーター)に向かって相手の名前を告げれば、相手のバッジや、宇宙船内の相手のそばにある壁面パネルを介して通信がつながるシステムが、当たり前の技術として登場していた。
 これは今で言うなら、携帯電話に、音声認識、場所認識、状況認識、インターネット機能があわさった、究極のコミュニケーション・デバイスだった。

 しかし、それでも、たしかにSFは、携帯電話を予言できていなかったと思う。
 なぜなら、それらの作品は、モバイルで遠隔通信できる技術は描いたものの、その超絶テクノロジーは、ごく一部の、選ばれたエリートだけが使うものでしかなかったからだ。
 現実はそれを、はるかに超えてしまった。
 今ではスマートフォンは、インターネットは、ありとあらゆる人が使う、ありふれた技術になっている。
 現実の世界で過去50年間に起きた最も目覚ましい変化は、超絶テクノロジーの民主化というか庶民化だった。

 SF作家たちは、現代に実現したテクノロジーと似たものを、独特の洞察力で描いてはいる。
 たとえば、アイザック・アシモフは、『はだかの太陽』(1956年)で、人間一人あたり2000台のロボットを所有する、ソラリアという世界を描いている。これは今で言うなら、IoT社会の先取りだ。また、この世界では、今で言うならAR的な通信技術が普及していて、誰とでも瞬時に会話できるものの、人間同士の実際の肉体的な接触は嫌うようになっている。
 今から振り返ると、こんな社会を60年前に空想できたことが驚きだが、それにしても、ソラリアでこの超絶技術文化を享受したのは、一種の貴族的なエリートたちだけだった。
 しかし、我々の現実では、そんな魔法のような技術を、人々は日々つまらないどうでも良いこと、にゃーんとかぽやしみーとかつぶやいたり、美味しそうなデザートを写真に撮って共有したりという事に使っている。

 現実がSFを超えてしまった原因は、ここ50年余りの技術の発達のしかたにあった。つまり、IC技術の指数関数的向上だ。
 IC技術は、ムーアの法則によって、10年から15年間で1000倍の性能向上というペースを50年間続けてきた。
 つまり、半世紀前のざっくり1兆倍。50年前なら1兆円出さなければ買えなかったものが、1円で手に入る時代が現代なのだ。

 我々は現実にそういう時代を経験してきたから、これほど凄い変化を、当然のこととして受け入れている。
 しかし、こんな変化を人間の想像力だけで思い描くことは不可能だった。それが、SFが携帯電話を予言できなかったことの理由だったのだろう。



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コラムニスト・プロフィール

鹿野 司しかの つかさ

1959年名古屋生れ。科学ライター。科学,コンピュータ,SF誌を中心に,コラム,インタービュー記事を執筆。映画,『ガメラ2』の科学考証なども手掛ける。現在,月刊ログイン,SFマガジン,など ...

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