飛騨ミート農業協同組合のセンサタグへの取り組み
株式会社グッドテーブルズ
代表取締役社長
山本謙治氏
撮影:宮濱祐美子
時代は確実に、「安全・安心」のテーマから、その先の世界へと遷移しつつあるようだ。今後のICタグには、単純な物の移動記録としてのトレーサビリティだけではなく、「品質保持」や「美味しさの創出」といった、価値を創出する機能が求められていくだろう。その兆しを、今回の実験に見た気がする。
私は以前、大分県のJA大分ひたで行われた、ナシの輸送中の温度・湿度・そして衝撃を記録するRFIDセンサーの実験に対してこうコメントした。(お客様事例「JA大分ひた/JA全農おおいた 様」)
今後は、温度・湿度・衝撃という品質面でのセンサーに加え、位置情報を把握できたり、アクティブに自分の居場所を発信するタグ機能を持った商品が出てくることを望む。これは、常温帯の在庫品に必要なものだ。大手物流センターが悩む、庫内の最適配置問題に大きく寄与すると思われる。
センサタグの可能性は限りなく大きい。RFIDはすでに、トレーサビリティという問題を飛び越え、最適流通の実現のためのツールとなったのではないだろうか。
当時は食品の安全・安心の文脈でのトレーサビリティシステムの構築という側面ばかりが取りざたされていた。しかし、安心・安全という価値に消費者はそれほどコストをかけないということが、その後にわかってきた。そうなると、トレーサビリティはただのコストアップ要因になってしまう。
だから、RFIDには、安心・安全以上の価値を創出する仕組が求められるぞ、という結論だった。しかし、実はそのJA大分ひたのプロジェクトの裏で、すでにその回答担っていると言えるプロジェクトが動いていたのだ。
穏やかで暖かい人々が起居する飛騨高山で、案内された飛騨ミート農業協同組合の食肉センターは、飛騨牛を屠畜・解体し、これをセリ販売するための施設だった。事業部長の牛丸さんによれば、
「おそらくここまで肉の温度管理をキッチリやっている施設はそう多くないだろう。」
とのことだった。
実は工場内のどこに置くか、そしてどの部位がどれくらいの高さにあるか、などで冷却風の効き方が変わる。つまり温度にムラが出る可能性がある。今回の実験では、IPv6を搭載したICタグに温度センサーが組み入れられ、これが解体し冷却され肉の各部位に取り付けられ、肉の温度をセンシングしている。複数台のタグが連携しつつ、情報を管理しているわけだ。
温度変化が肉に及ぼす影響は大きい。部位の変色や、急速な冷却による"灼け"の状態など、冷蔵庫に入れた後にも、きめ細かい温度調節をしなければならないのである。それはよくわかる。しかし、解体された牛の半身があまりに大きく、その部位ごとにきちんと管理しなければ意味がないということまでは思い至らなかった。
それだけではない。農畜産物には様々なスケールがある。牛は「大型家畜」である。ちなみに豚や鶏は「中小家畜」と呼ばれる。牛は豚や鶏に比べて大きいだけではない、様々な要素を持つ。屠体を10度程度に冷却するのにも一晩かかり、精肉にするための熟成にかかる時間は豚より数日長い。この期間中に最適な管理をできるかどうか、で品質が決まってくる。
「庫内の温度変化や牛の大きさの違いによるムラについて、なんとなく感覚的にわかっていたということが、データとしてきちんと出てきたのがよかったね。」
意外なことに、こうした管理の部分にセンサー技術が介在することはあまりなかったと思う。職人の勘の世界だったということだろう。しかし飛騨ミート農業協同組合は、なんとISO22000、ISO9001を取得した強者だ。職人仕事に支えられた部分と、見事にシステマイズされた管理体制が両立しているのだ。だからこそ、タグの利用という未知のステップへと足を進めることが出来たのではないか。
今回のタグは、IPv6の搭載等が機能のメインであり、温度以外の重要な指標の管理機能は持っていないという。しかしもうこれで、次のステップが見えてきた。
冒頭に述べたように、今後必要となるのは「価値を創出するセンサタグ」である。
精肉においては、その衛生・熟度管理による美味しさの追求と、急激な温度変化等を感知し、管理者に通報し危機を回避させる等の機能が求められるだろう。
そして、それがフードチェーンを通じて実現するということが極めて重要である。
飛騨ミートの工場内ではきちんと管理されていたのに、川下の流通に乗せられる途上でいきなり温度が上がったり下がったりという変化にさらされてしまっては、意味がない。そうなると、センサタグは特定の場所で機能するだけではなく、フードチェーンの中で情報を常に放ち、現状をモニタリングする仕組みとならなければならない。そうした意味も込めて、今回のシステムがIPv6という新世代のプロトコルで組まれているのではないか、と夢想する。
現地視察の夜、高山市内の飛騨牛専門店で極上の焼肉に舌鼓を打ちながら、私は思ったのだ。早く、この近い未来のシステムによってしっとり柔らかく熟成管理された飛騨牛を食べてみたいと。「日本の牛肉ほど品質が高いものは世界にない」と言う人が多いが、私から見れば、アメリカやフランスには脂の乗らない赤身肉を熟成させ、旨みを存分に乗せたものを供する文化がある。日本もサシが入っているということを追求するのみならず、味わいを深める世界へと突き進んで欲しい。このプロジェクトが、その端緒たり得ることを祈っている。
(2007年8月1日公開)










