− 第2回 −
グリッドコンピューティングの現状と将来性

大規模な企業情報システムに関するここ数年のトレンドを最もよく表すキーワードといえば、「バーチャライゼーション(仮想化)」が、やはり、筆頭にあげられるのではないだろうか。各サーバやPC端末に散在するメモリ、ストレージ、CPUといったデバイスを、あたかも一つのコンピュータであるかのように「仮想」して取り扱うことを可能にする技術。これが大規模情報システムを革新していく大きな核となっているように見える。
21世紀に入ってから、米国を筆頭に、企業情報システムの根本的な見直しが進んできた。その中心となっていた課題は、1990年代にインターネットとクライアントサーバ方式が普及することによって始まった「システムの爆発的な肥大化をどう食い止めるか」というテーマである。
事業所のいたるところに散在するサーバ群を少数のデータセンターに集約する「リセンタライゼーション」、あるいは、ブレードサーバ・システムに代表される「モジュラーデータセンター」。近年話題になったこれらのシステム基盤に関する議論は、企業システムにいかにバーチャライゼーション技術を導入し、システムの柔軟で効率的な運用を達成するかというところにポイントがあった。
この延長線上にある最新のブームが、米国で昨年から始まった「エンタープライズ・グリッド」である。エンタープライズ・グリッドの考え方には、上述した一連のコンセプトを包括する射程が含まれている。
今回は、このエンタープライズ・グリッドの現在と想定される将来像を考えていくこととしたい。
サイエンス・グリッドからエンタープライズ・グリッドへ
「グリッド」と言う言葉は、電力業界からやってきた。余剰電力を売電するために作られた配電ネットワークが、まるで格子(グリッド)のように見えるため、グリッドと名づけられたのだ。
一方、コンピュータ業界では、LANやWANを使って複数のコンピュータを集積し、極めて大規模なコンピューティングをおこなう技術にグリッドという言葉を使ってきた。使っていないCPUやメモリなどのリソースを集めて来るという点が、あたかも、余剰電力を融通しあう電力業界のグリッドのようであったからである。
グリッドコンピューティングで最初に確立されたのは「サイエンス・グリッド」と呼ばれる分野で、SETI@homeが代表例だろう。
地球外生命を探査するSETI@homeは、電波望遠鏡で集めた宇宙のノイズから人工的なパターンを見つけるために巨大なコンピュータ・パワーを必要とする。そこでグリッド技術を使って大量のサーバをインターネットで結び、作業を分担させて処理を行う。
インターネットを通じてSETI@homeに参加しているPCは、既に500万台以上になり、その処理能力は50テラFLOPSを上回る。
こうした巨大なパワーを必要とする作業を、安いコンピュータに分散処理させる事例は、様々な企業分野ですでに実用化されている。たとえば、ライフサイエンス分野では、アバキ(Avaki)社のシステムがよく知られているおり、また、金融業界では、データ・シナップス(Data Synapse)社が有名だ。PCベースでのグリッドコンピューティングに特化したPCグリッドのエントロピア(Entropia)社もある。
俗にブティック系グリッド・ベンダーと呼ばれるこうしたベンダーは90年代後半から、専用システムをベースにグリッド技術の企業利用を開拓してきた。実際、デスクトップの余剰パワーを使って保険や金融商品を開発するための統計処理を行うデータ・シナップス社の例は、現在もグリッド技術の代表例として紹介されている。
ただ、最近のグリッドは、巨大なコンピュータ・パワーを求めるより、IT資源を効率的に利用するための「バーチャライゼーション」を求める傾向へと進んでいる。科学技術計算に匹敵する莫大なコンピューティング・パワーを必要とする企業は、実のところ、そう多くない。それよりも、安く、柔軟に、安全にシステムを運用できるかどうかの方が、ビジネス利用ということでいえば、はるかに重要である。
グリッドコンピューティングの技術を、こうした企業情報システムの効率化に使おうというのが、先に述べたエンタープライズ・グリッドの考え方である。












