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小池良次 米国発、ITトレンド

− 第56回 −

放送通信融合サービスの実現に挑む
インターネットと戦う米国ケーブルテレビ(CATV)の挑戦

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 オン・デマンド・ビデオの累積配信数は昨年140億回に達し、今年は150億回(1)を超えるだろう。映画のタイトル数は去年まで2,000本/月だったが、今年は1万1000本/月を目指している。(中略)今年から双方向広告やインタラクティブ・サービスにも力を入れてゆく──

オンディマンドの実績を語るブライアン・ロバーツ会長(The Cable Show 2010にて筆者撮影)

 これはインターネットとの戦いについてコムキャスト社(CATV最大手)のブライアン・ロバーツ(Brian Roberts)会長が語った言葉(2)だ。米国ではここ数年、ビデオ投稿サイトのYouTubeやインターネット・ビデオのHuluが着実に視聴数を伸ばし、CATVを脅かす存在となっている。たとえば、2009年7月、Huluの月間視聴者数(3,800万人)は、ついにCATV業界2位のタイム・ワーナー・ケーブル(月間3,400万人)を追い越した(3)。人気を高める一方のインターネット・ビデオ・プログラムに歩調を合わせるように、広告主のマス・メディア離れにも拍車が掛かっている。危機感を強める米国のCATV業界は、ビデオ・オン・デマンドや双方向番組などを投入し、融合サービスでインターネットと総力戦を展開している。

米国CATVの歴史

 日本と比べ、米国CATVの市場規模は大きい。業界団体NCTA(National Cable Telecommunications Association)の発表によれば、2009年12月現在、CATVのベーシック契約は6,210万加入で、テレビ所有世帯数に対するCATVの普及率は49.3%となっている。CATVの市場規模は過去最高の899億ドル(2009年、約8兆1,800億円(4))に達し、その約3割(243億ドル、約2兆2,000億円)が広告収入となっている(5)

 その規模から分かるとおり、CATVは米国の映像サービスをリードする存在だが、そこに至るまでには約半世紀の歴史がある。まず、読者の皆さんと一緒に、米国におけるCATVの歴史を簡単におさえておこう。その歴史を見ると、同業界が“地上波テレビ”や“衛星テレビ”、“IPTV”などとの競争を生き抜いてきたことがわかる。

−難視聴対策から独自サービスへ−

米国CATV業界ブロードバンド加入者
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 そもそも米国のテレビ(地上波)放送は、アナログ放送規格のNTSC(National Television System Committee(6))が制定された1941年にさかのぼる。その7年後には、はやくもペンシルバニア州でCATVシステムが建設されたと言われている。1950年に入ると、難視聴対策としてCATVシステムがあちこちで建設されるようになり、米国のCATV時代が始まった。

 1960年代に入るとCATVは次第に人気を集め1963年には加入者数が100万世帯を超える。しかし、地方テレビ局からの圧力も強まり、CATVは「地上波同時再送信」だけに限定され、独自番組が流せない時代が続いた。そして、60年代終わりになるとCATV市場の成長速度は急速に落ちた。難視聴の解消では成長が望めなくなったからだ。

 1970年代に入ると、CATVへの規制が徐々に緩和されるとともに、衛星配信技術が70年代半ばに登場した。同技術を使えば、配信衛星からセントラル・ヘッドエンド(受信局)へ直接番組を伝送できるため、独自番組を自由に、しかも各地に配信できる。CATVの多チャンネル化、地上波テレビとの差別化が、ここから始まる。

 また、70年代後半には、大規模CATV事業者MSO(Multiple System Operator)も出現した。CATVは地域に密着したサービスであるため事業承認(ビデオ・フランチャイズ免許)は州や市町村の公益事業委員会がおこなう(7)。当時、地域独占を認める代わりに、料金は認可制で、地域の隅々までサービスを提供(=ユニバーサル・サービス)しなければならない。地方自治体にとって、免許費用は重要な収入源であったし、CATV側も免許を得るため自治体専用のチャンネルやスタジオを提供するといった便宜供与をおこなった。

 こうした地域フランチャイズ免許を中心とする認可事業でありながら、現在の米国CATV業界は番組編成と番組配信を兼ねた巨大企業が牛耳っている。これは衛星で番組が配信できるようになったため、たとえ飛び地(8)であっても自由に大規模なCATV事業が展開できるためだ。番組の共同仕入れ、会計システムの共有などの合理化メリットは大きく、1970年代後半のCATV業界は買収に明け暮れる時代だった。こうして各地の地域フランチャイズを買収して大きくなったケーブル・オペレータをMSOと呼ぶ。

 ちなみに、その後もMSOは成長を続け、ジョン・マローン氏(John Malone、当時会長)を筆頭とするTCI(テレ・コミュニケーションズ・インク)と、ジェラルド・レビン氏(Gerald Levin、当時会長)を筆頭とするタイムワーナー・インクの1部門であるタイム・ワーナー・ケーブルが業界上位に君臨する。両社とも加入世帯数1,000万を越える(1996年頃)までに成長し、この2大勢力の後にコンチネンタル・ケーブルビジョン、コムキャスト、コックス・ケーブルなどが続いた。

 



(1) コムキャスト社のオン・デマンド配信数は、だいたい月間3億5000万回、年間で42億回ぐらいのペースに達している。ちなみに、今年は既に累積で150億回を超えた。

(2) これは2010年5月にロサンゼルスで開催されたNCTAの年次総会、The Cable Showでの発言

(3) 出典:comScore調べ。なお、comScore社はCATVの視聴者を積算する上で、6月末の契約者数に米国国勢調査の平均世帯人数を掛け合わせている。

(4) 2009年末現在、円ドル換算は 1ドル=91円で計算

(5) 現在もCATVは米国の映像サービスを牽引しているが、好調だった2001年頃に比べるとCATVの置かれた状況は厳しい。たとえば、NCTAが発表した2001年の数字と比較すると、ベーシック契約は約480万世帯減少している。

(6) 文献によってはNational Television Standards Committeeという記述もあり。

(7) 2000年代後半に入って、電話会社によるIPTVの展開でも、フランチャイズ免許の断片化(地方自治体に細かく分かれていること)問題が議論となった。いくつかの州では、州政府が一括してビデオ・フランチャイズ免許を発行する法律を成立させ、IPTV普及促進を行った。

(8) 衛星配信が出てくるまで、CATVの営業地域が離れていると幹線網を整備しなければならず、コストが掛かるため、離れた地域のオペレータを買収することにメリットがなかった。しかし衛星を使えば、距離に関係なく番組を配信できるので、営業地域が各地に散在する“飛び地”状態でも関係なくなった。これが買収促進の背景となった。


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執筆者 : 小池 良次(こいけ りょうじ)
通信業界を得意とする在米ITジャーナリスト。京都外国語大学卒業後、ブラジルのサンパウロ新聞社に入社、社会面・経済面を担当。その後、帰国し民間調査会社に就職、リサーチャーとして技術動向調査、技術出版など300プロジェクト以上を企画運営する。



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