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小池良次 米国発、ITトレンド

− 第55回 −

ブロードバンド規制に乗り出す米国政府
ナショナル・ブロードバンド・プランを分析する

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ブロードバンドを規制することの是非

 3月16日に発表されたNBP(ナショナル・ブロードバンド・プラン)は米国の放送通信行政における大きな節目となるだろう。そのインパクトは1996年改正通信法と並ぶことになるかもしれない。

 1990年代後半は、アナログ電話網やアナログ・ケーブル・テレビなどの古いネットワーク・サービスから、インターネットなどのデジタル・ネットワーク・サービスへと移り変わる時期だった。そのため、古い法制度や規制が新サービスや新技術に適応できず、制度的なゆがみが露呈していた。1996年改正通信法の狙いは、そうしたゆがみを修正し、デジタル時代へ舵を向けることだった。

 今回のNBPは、TC96と同様の役割を担っている。その主たる目的は、ブロードバンドの恩恵が少ない僻地や過疎地、低所得者層の救済であり、医療や教育、エネルギーなどICT未整備分野の活性化にある。しかし、行政的な観点から見ると、NBPはTC96に並ぶほどの大きな方向の転換を試みている。

 それは、本格的なブロードバンド規制の導入だ。インターネットやブロードバンドは“育成のための非規制領域”から飛び出そうとしている。FCCは電話事業や公共放送などと同様に、ブロードバンドを公益サービスとして“監督規制すべき対象”にしようとしているが、これは長短両面をもつ。

 「公平なブロードバンド・アクセスを確保する」「アプリケーションに区別をつけない」「自由に機器を選べる」というネット中立性をFCCが積極的に展開する意味でNBPは重要な役割を担う。消費者にとっても、こうした要件が確保されれば大きなメリットとなる。

 建前上、ブロードバンド規制としてネット中立性の推進はすばらしい。しかし、実際の現場では同規制の運用は多くの課題を抱えることになるだろう。弊害としてよく指摘されるのは、中立性に関する判断をFCCが一手に握ることだ。

 たとえば、Googleが提供しているGoogle Voiceの無料通話では「コストの高い地域や接続相手に着信拒否の処置」を行っている。つまり、電話サービスと言いながら、Googleに都合の悪い(コストが高い)相手にはつながらない。従来の通信規制では、このような一方的な制限は許されない。しかし、Google Voiceの電話サービスは「無料でついてくるおまけ」的な意味合いがあり、従来の通信サービスの概念には入らない。Googleは古い通信規制を「Google Voiceのようなサービスに適用すべきではない」と反論している。現在はブロードバンドが規制対象ではないので、Google Voiceのような“曖昧なサービス”も展開できる。しかし、正式な規制対象としてFCCが管轄することになれば、こうした曖昧なサービスはFCCの「さじ加減」次第で評価が変わる。

 逆に、AppleはiPhoneで、自社のコア・ビジネスに関わるアプリケーション(たとえばロケーション広告アプリ)の販売を拒否している。従来の端末ビジネスでは、こうした慣行は問題ない。しかし、ネット中立性の規制が実施されれば、それに抵触する可能性が高い。もし、FCCがAppleにコンテンツ制限の撤廃を求めれば、デベロッパーやユーザーにとっては大きなメリットだが、Appleの事業運営にとっては大きな問題となるだろう。

 これまでブロードバンドは規制対象外との建前から、問題が発生した段階でFCCは個別に調査して改善してきた。しかし、個別対応と法的規制は大きく違う。規制となれば、AppleにせよGoogleにせよ、一般ベンチャーにせよ「問題が発生しなくても」規制遵守を懸念しなければならなくなる。ネット・ビジネスの自由度は以前に比べ低いものになるだろう。また、長期的には規制を遵守できるシステムやアプリを構築できる大手プレーヤーが有利な状況にもなりかねない。

 FCCが考えるとおり、将来、電話やテレビは電話網やCATVといった専用ネットワークではなく、一般ブロードバンド上のサービスになるだろう。そうなれば、電話業界やCATV業界に対するFCCの管轄権限は縮小してゆく。もし、ネット中立性を唱えるFCCがブロードバンドをてこに“管轄権限の拡大”を狙っているのであれば困ったものだ。あくまで自由なビジネスの場としてブロードバンドを育成する立場にFCCはとどまっていなければならない。そう考えるとネット中立性の推進とブロードバンド規制は、読者にとって大きく意見の分かれるところだろう。

◇◇◇

 もうひとつは、情報通信技術に対するFCCの役割変化だ。これまでコンピュータの普及やブロードバンドの整備は、それ自体が大きな産業として急成長し、経済の牽引車だった。しかし、これからは医療や教育、環境や電力など様々な業種を支える基盤技術としての役割が重視されることになる。今回のNBPは“産業基盤としてのブロードバンド行政”という新たな面を生み出す。FCCという行政機関が省庁の壁を越えて、ブロードバンドの経済効果を拡大させることができるのか、それにはどのような政策手法や制度設計が必要なのか──という大きな課題をNBPは問いかけている。

(2010年3月29日公開)

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執筆者 : 小池 良次(こいけ りょうじ)
通信業界を得意とする在米ITジャーナリスト。京都外国語大学卒業後、ブラジルのサンパウロ新聞社に入社、社会面・経済面を担当。その後、帰国し民間調査会社に就職、リサーチャーとして技術動向調査、技術出版など300プロジェクト以上を企画運営する。



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