− 第55回 −
ブロードバンド規制に乗り出す米国政府
ナショナル・ブロードバンド・プランを分析する
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【2010年4月12日(月) 16時締め切り】
オバマ政権の放送通信政策がいよいよ具体化してきた。過去1年、オバマ大統領は雇用促進対策、金融業界再生、医療保険改革など経済政策に奔走してきた。そのため同政権の表看板だった「Federal CTO(国家最高技術責任者)」などのインターネットおよびハイテク行政は市民の意識から遠ざかっている。しかし、これから夏にかけて、再びこうしたテーマが表舞台に戻ってきそうだ。その起爆剤となるのが、FCC(連邦通信委員会)が立案し、3月16日に連邦議会へ提出されたNBP(ナショナル・ブロードバンド・プラン)だ。今回はNBPに関するトピックを追いながら、大きく変わろうとする米国放送通信行政の行方を分析してみよう。
NBPとジュリアス・ゲナコウスキー新委員長
新たな通信行政を模索するジュリアス・ゲナコウスキーFCC委員長(2010年CESにて筆者撮影)
まず最初に、NBPとは何かを説明しておこう。2009年2月に成立した米国の『景気対策法(American Recovery and Reinvestment Act of 2009)』の一部(1)として、FCCはブロードバンド普及に関する施策プランを作成し、連邦議会に提出することが義務づけられた。今回紹介するNBPがそれにあたる。当初、同プランは「僻地や低所得者層へのブロードバンド・サービス整備計画」が主体だろうと、テレコミュニケーション業界では考えられていた。しかし予想に反してその対象分野は広く、従来の放送通信政策を大きく方向修正する内容(2)となっている。
景気対策法ではNBPの立案期間を1年と定めており、2010年の2月がその期限となっていた。しかし、連邦議会でFCC委員長の承認作業が遅れたため、ジュリアス・ゲナコウスキー(Julius Genachowski)氏が新委員長に就任したのは2009年6月29日(3)で、FCCが同プランの本格準備に入ったのは2009年7月だった。作業期間が1年から半年になったためFCCは相当の無理を強いられ、結局、今年に入って期限が1ヶ月延期された。
承認が遅れたとはいえ、ジュリアス・ゲナコウスキー氏の就任は確実視されていたため、就任前からその言動には大きな関心が集まっていた。同氏はFCCのリフォーム(構造改革)を主張しており、中でも関心が集中したのはネットワーク中立性(以下、ネット中立性と略)に対する姿勢だった。
就任後、新委員長は予想通りネット中立性の分野で積極的に動き出す。7月にはウォールストリートジャーナル紙(7月20日版)のインタビューに応じて「インターネットのオープン性(The Openness of the Internet)」を主張していたが、その後、AppleとAT&TのGoogle Voiceアプリケーションに関しての調査を進めた。
新生FCC、最初の生け贄はAppleとAT&Tだった
当時、無料VoIPサービス「Google Voice」のiPhone用アプリケーションをGoogleや個人デベロッパーが開発したにもかかわらず、AppleはApp Storeへの登録に難色(4)を示し、ネット業界で大きな話題となっていた。米国のニュースメディアは一斉に「AT&Tの音声通話収入に悪影響を与えるとの懸念からAppleが拒否している」と騒いだ。FCCは、特定のアプリケーションを拒絶することはネット中立性に反するとして、Apple、AT&Tに釈明を求めるとともに、Googleから事情を聞いた。その後、新委員長の態度に懸念を深めたAT&TはAppleに対し「VoIPアプリケーションを認めてもよいと通知した」旨を発表し事態の解決に動いた(5)。
また、7月末にはゲナコウスキー委員長は大手通信社ロイター社のインタビュー(7月31日版)で「携帯電話会社と携帯端末メーカーの独占契約により、大手携帯電話会社がカバーしていない地方のユーザがAppleの『iPhone』やPalm社の『Pre』などの人気スマートフォンを購入できない点に強い不満」を示し、大手携帯電話会社に圧力をかけている(6)。
このほか以前から問題となっていた携帯の高額な早期解約費やCATV、衛星放送業界の営業慣行(複雑で実効性に乏しい割引サービスなど)をとりあげ、8月27日「通信業界の営業慣行に関する調査(notice of inquiry(7))」を実施している。こうして電話業界やCATV業界では「新委員長はネット中立性を橋頭堡に本格的なブロードバンド規制を狙っている」との風評が広がった。インターネットを育成するために規制を行わない、という前政権までのブロードバンド政策が覆ったというわけだ。特に携帯電話会社には「携帯データ網におけるVoIPサービス、ネットワークのオープン化などが義務づけられる」との憂慮が広がった。
FCCへの警戒感が広がる通信大手やCATV
ゲナコウスキーFCC委員長はCTIAの基調講演でトーンを和らげた(2009年CTIA、写真提供:海部美知)
そうした雰囲気の中、ゲナコウスキー委員長は10月7日に携帯電話業界の祭典“International CTIA Wireless I.T. & Entertainment 2009”でAT&Tのトップなどと共に基調講演をおこなった。この初顔合わせは大きな注目を集めたが、新委員長は「モバイル・ブロードバンド用周波数の確保」を約束するなどトーンをやわらげた講演を行い、予想された激しいつばぜり合いはなかった。
しかし、その後10月8日にFCCは「ミドルおよびセカンドマイルに関する市場状況のパブリックコメント」を募集し、ふたたび電話業界に圧力をかけている。ミドルマイルとはセントラル・オフィス(central office)やケーブル・ヘッドエンド、無線交換局(wireless switching station)などからインターネット接続ポイントまでを結ぶデータ回線を指す。また、セカンドマイルとはミドルマイルの接続ポイントから無線基地局などのエッジ(first point of aggregation)までの回線を指す。これらは大手電話会社の寡占市場となっている。FCCは、僻地・未整備地域でのブロードバンド整備において、適正で効率的なミドル/セカンドマイルサービス(価格や選択肢)が重要な役割を担うと考えており、将来、この市場への規制強化が行われるのではないかと電話会社は心配している。
こうした一連の動きは、新委員長がNBPを立案する上での重要な駆け引きだった。ゲナコウスキー委員長は個別問題をぶつけながら大手電話会社やCATV事業者の反応を確かめ、NBPに盛り込む規制内容の落としどころを探っていたと考えられる。
(1) 正確には同法案のSection 6001、(k)、(2)の部分。
(2) 景気対策法で、NBPは雇用促進や電子医療、エネルギー、国家安全保障などのサービスについて考慮することになっている。その意味でNBPが本稿後半で解説しているような広範なテーマを含むのは当たり前とも言える。しかし、これらの分野は本来FCCの管轄領域ではないので、他省庁に配慮して深入りしないだろうと業界関係者は考えていた。
(3) 連邦議会が委員長の承認を行ったのは6月25日。就任は4日後の29日だった。前任のケビン・マーチンFCC委員長は新政権発足とともに辞任したため、2009年1月から6月までは、それまでFCC委員を務めていた民主党のマイケル・コップス(Michael Copps)委員が委員長代理を務めていた。
(4) この件ではニュースやApple、AT&Tの説明が錯綜している。個人デベロッパーが開発したGoogle Voiceアプリケーションは、前身サービスであるGrandCentral社のサービスを含め、いくつか登録されていたが、Appleは明確な理由を示さずに削除したらしい。また、AppleはFCCへの回答として、Google社が開発したアプリケーションについては「拒否したわけではなく検討に時間がかかっている」と回答している。
(5) なお、AT&TはVoIPアプリケーションを承認しても良いと通知したが、本稿執筆段階では、3Gで使えるGoogle Voice for iPhoneのアプリケーションは登録されていない。なお、GoogleはiPhone向けにブラウザベースのGoogle Voiceサービスを提供している。
(6) 7月17日、Verizon Wireless社は連邦議会テレコム系委員会の質問状に回答する形で、携帯端末メーカーと取り交わす独占販売期間を6ヶ月に短縮し、50万加入以下の小規模携帯事業者への提供を認めるポリシー変更を発表している 。当時、地方携帯電話ユーザの救済を狙ってFCCは携帯電話業界の端末独占契約について調査を進めていた。ロイターでのFCC委員長の指摘は、AT&TやSprint Nextel社など他の大手にも暗黙の追従を促すメッセージととらえることができる。
(7) Notice of inquiryは特定のテーマを決めるが、一般から広く意見を求めること。これを元に政策の方向性やルールの土台を検討してゆく。一方、Public Commentは政府がまとめた政策やルールについて意見を求めること。

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執筆者 : 小池 良次(こいけ りょうじ)
通信業界を得意とする在米ITジャーナリスト。京都外国語大学卒業後、ブラジルのサンパウロ新聞社に入社、社会面・経済面を担当。その後、帰国し民間調査会社に就職、リサーチャーとして技術動向調査、技術出版など300プロジェクト以上を企画運営する。









