− 第54回 −
GoogleがTwitterを追いかける理由
サービスから考えるクラウド・ビジネス
人とマシンをつなぐTwitter
Chatterを発表するMarc Benioff会長(Dreamforce 2009で筆者撮影)
Twitterが切り開いた速報性、偶発性、嗜好性は、ネットを人間らしく使う方法を与えてくれた。その意味で「人をフィルターにしてネット世界を把握する」ツールという分析が成り立つ。しかし、Twitterの可能性は“人”に限らない。たとえば、エンタープライズ・クラウドのトップランナーSalesforce.com社が11月のDreamforce会議で発表した“Chatter”は、より広い可能性を示唆している
Chatterの目的は、社内コミュニケーションの円滑化にある。従業員はChatterを使って自由につぶやきをおこなう。たとえば、営業担当のA氏が取引先から製品についてのクレームを受けたが解決方法が見つからない。そこで「こんなクレームを受けた」とChatterでつぶやいたとする。A氏をフォローしていた同僚が「その問題なら関西の支店で解決済み。Bさんにコンタクトしてみては」と勧める──といった具合だ。誰に問い合わせて良いかわからないことでも“つぶやき”形式なら気軽にだせる。また、上司は部下が、部下は上司がどんなことを考え、どんなことに悩んでいるかをスムーズに理解するきっかけを与えてくれるだろう。
しかし、Salesforce.com社はChatterにクラウドらしい付加価値をつけている。同社が提供しているCRM(Customer Relationship Management、顧客管理アプリケーション)やSFA(Sales Force Automation、営業支援システム)、CMS(Contents Management System、コンテンツ管理アプリケーション)などにChatterの機能を搭載した。つまり、人と同じようにアプリケーションもChatterを使って“つぶやく”ことができる。
簡単なロジックを書くことで、たとえばCRMアプリが「A社との会議は明日に変更となりました」とか、CMSアプリが「S商品のカタログ資料が最新版に更新されました」などと“つぶやいて”くれる。わざわざメールで日程の確認を行ったり、最新資料を問い合わせなくても、従業員は携帯電話などでChatterをフォローしておけばよい。つまり、機械が“つぶやき”を通じて、人に便利なサービスを提供しているわけだ。これは前述のRIM&Amp;Facebook連係と同じ典型的なクラウド・サービスの例といえる。
Chatterのブースに集まる人々 (Dreamforce 2009で筆者撮影
Twitterが切り開いた“つぶやきツール”は、速報性、偶然性、嗜好性を求められる場面で利用が進むだろう。一方、Googleも“Google Wave” という新サービスでTwitterを追いかけている。2009年5月28日のGoogle I/O(グーグル開発者会議)で発表したGoogle Waveは、Google Mapsの開発で有名なRasmussen兄弟が「電子メールのあり方を考え直す」ことから出発して開発された。
郵便と同じように、電子メールはメッセージに宛先をつけて、ユーザー間で情報の発信や受信を繰り返す。おかげで宛先さえわかれば、相手に迷惑メールも送ることができる。ホームページと並んで、電子メールはインターネットが産んだ素晴らしい通信ツールだが、スパム・メールのおかげで多くの迷惑をユーザーに与える不便な道具となっている。
Google Waveでは「メッセージを相手に送る」という発想をやめ、サーバーにみんなが集まってやり取りする方法をとっている。つまり、会議室に集まって黒板を使って話し合うような状況が作り出される。ユーザーは参加者を自分で指名でき、自分の書いたメッセージは参加者全員の画面に同時に表示される。また、写真共有やGoogle Mapsなどのマッシュアップもできる。そのほかRibbit(13)社のVoIPプラグインを使えば、電話や音声会議も実現できる。
Google Waveの画面 (出典:Google)
おかげでGoogle Waveを使うと、いくつもの話が同時に進行する。たとえば、Google Waveの画面を黒板に見立ててみよう。AさんとBさんが右側で夕食の場所を打ち合わせていると、Cさんがそれに割り込んできたり、A、B、Cさんが夕食の話を続けている間に、新しく入ってきたDさんとAさんは黒板の左側で時候の挨拶をしている──といった使い方(14)ができる。私も利用しているが、予想以上に快適に動いている。なお、Google Waveは10万人限定のベータ・テストをおこなっており、広く一般ユーザーが利用できる状況にはない。
また、GoogleはWaveを電子メールに代わるコミュニケーション・ツールとして普及させようとしている。そのため、Google Wave Federation Protocolを通じて相互接続性の確保やプロトコルの公開を進めている。つまり、Google WaveはGoogle社の独占的なサービスではなく、個人や団体、ソフト・ベンダーが、それぞれのWaveを開発(15)して普及してゆくことを望んでいる。また、Waveはエージェントやロボットとの会話も準備している。たとえば、FAQなどを使って、CRMアプリケーションがWaveの問い合わせメッセージに自動的に回答を返すことができる。
Google Waveの説明はここまでとして、TwitterとWaveを比較してみよう。
Twitterはインスタント・メッセージやSMSの見直しから生まれた。一方、Waveは電子メールに代わるコミュニケーション・ツールを狙っている。いずれも、既存ツールの不便さが開発の動機となっている。また、両者は速報性・同時性を追求している点でも一致している。しかも、人と人だけでなく、機械と人のコミュニケーションに対応していることでも同じ発想といえる。ただ、Google Waveでは発信者が参加者を指定する。Twitterでは逆に受信者が発信者を指定する。こののアプローチの違いが両者をまったく別のツールにしている。
また、このアプローチの違いから、Waveはメッセージをやり取りする共有の場に人々が集まる様式を採用したが、Twitterは共有場を置かず“新聞の号外(16)”のように自由に配布する形式を選んだ。また、Waveはメッセージのやり取りに加えて、プラグインやマッシュアップなど多種多様な機能を搭載することで汎用性を出そうとしている。逆に、Twitterは書き込みと購読という極限まで機能を絞り込むことで、高い汎用性を生み出している。
両者は機械と人が渾然一体となるWeb2.0を狙うクラウド・サービスだが、アプローチは大きく違う。両者は用途に応じて使い分けられることになるだろう。しかし、両者の共通部分である“速報性・同時性”、“人と機械の対話”がクラウド・サービスの重要な要件であることは間違いない。
◇◇◇
ブログにせよ、Wikiにせよ、ソーシャル・ツールは大きなブームを巻き起こし、それが消費者や企業アプリケーションに広く定着すると沈静化することを繰り返してきた。もちろん、ブームが終わったからといって、その機能や効用がなくなるわけではない。米国では、これらのソーシャル・ツールを利用用途に応じて細かく使い分けるノウハウが発達し、活発に利用されている。たぶん、Twitterが切り開いた“つぶやき”機能も、数年を経て各種アプリケーションに取り込まれてゆくだろう。
逆に、こうしたコミュニケーション・ツールを次々と生み出してくるソーシャル・コンピューティングの発想こそ、クラウド・サービスを生み出す原動力といえるだろう。また、試行錯誤しながら様々なサービスを生み出すシリコンバレーのネット・ベンチャーを見ると「ネット内で情報を蓄積・加工・再生産するアルゴリズムやオートメーション、ロジックこそがクラウド・ビジネスの本質」であることがよくわかる。
(2009年12月21日公開)
(13) Ribbit社は通信ベンチャーとして有名。現在はBTに買収され、同社の事業部門としてビジネスをおこなっている。
(14) Google Waveでは、指定した相手が不在(ログオフ状態)でもメッセージを残すことはできる。相手がログオンするとメッセージが表示されるので、電子メールのような役割も果たす。
(15) Novell社のコミュニケーション・ツール“Novell Pulse”は、Google以外で初のWaveシステムかもしれない。NovellとGoogleはWave開発で協力関係を持っている。
(16) 号外は重要な出来事を伝えるために新聞社が特別に刷って配布するニュースのこと。駅などで無料で配布するスタイルが一般的。

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執筆者 : 小池 良次(こいけ りょうじ)
京都外国語大学卒業後、ブラジルのサンパウロ新聞社に入社、社会面・経済面を担当。その後、帰国し民間調査会社に就職、リサーチャーとして技術動向調査、技術出版など300プロジェクト以上を企画運営する。









