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小池良次 米国発、ITトレンド

− 第54回 −

GoogleがTwitterを追いかける理由
サービスから考えるクラウド・ビジネス

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盛況だったDreamforce 2009(筆者撮影)

 シリコンバレーを見渡したとき、クラウドで本当に儲けている企業は“Google”も含めてほとんど見あたらない。例外的な存在がSalesforce.com社だろう。11月に開催された同社のプライベート・ショー Dreamforce 2009には、世界60ヶ国以上から約2万人が集まる盛況ぶりで、業績も右肩あがりに伸び続けている。その同社が“今年最大の新サービス”としてソーシャル・コンピューティングの“Chatter”を発表した。同サービスは企業版Twitterだ。

 エンタープライズ・クラウドのトップランナーが、なぜソーシャル・サービスのTwitterを追いかけるのだろうか。いや、Twitterに追従するのはSalesforce.comだけではない。IBMやMicrosoftも、そしてGoogleも追いかけている。その理由は単純だ。Googleなどが苦戦しているクラウドの壁をTwitterが超えようとしているからだ。

クラウドは単なるコストダウンの手段だろうか

 冒頭でTwitterがクラウドの壁を超えようとしている──と書いた。しかし「Twitterはクラウドなのか」という疑問をもつ読者も多いだろう。その点について簡単に触れたい。

 日本でも米国でも、いまやすごいクラウド・ブームになっている。シリコンバレーにも日本から続々とクラウドの調査グループがきており、私も面談させていただく機会が増えている。歓談は楽しいが、クラウドの議論になると日本から来られた方と話が通じないことが多い。

 シリコンバレーを訪れる方がよく口にするのは「クラウドは結局、(サーバーやアプリケーションを統合する)コストダウンの手法に過ぎない」「クラウド・ベンチャーのアイデアは単純で、技術的に学ぶところがない」という間違った評価だ。こうした発言が繰り返されてしまうのは、クラウドのハードウェア部分、つまりデータセンター構築や開発環境にばかり眼を向け、肝心の「サービス」を忘れているためではないだろうか。冒頭で述べたように、いまクラウドで利益を出しているSalesforce.comは、安くて良いサービスで人気を集めている。中小企業や個人がこれまで手を出せなかった高度な顧客管理機能を、同社は月々数千円ほどの支払いで提供している。

 もう少しクラウドをサービスという観点から説明してみよう。

 私の家族はSNSのFacebook(1)をみんなで使っている。ある時から、妻に電話すると、彼女の携帯電話のディスプレイに僕の顔写真が現れるようになった。彼女は携帯にFacebookのアプリケーションをのせているものの、もちろん携帯電話に変更を加えていない。にも関わらず、携帯が勝手に顔写真を出すようになった。しばらくすると携帯のカレンダーに家族や友人の誕生日が自動的に入っている。もちろん、彼女は誕生日の入力を一切していない。つまり、携帯電話が自分で勝手に便利なサービスを付け加えている。

 このカラクリはFacebookアプリにある。妻はRIM(Research In Motion)社のBlackBerry端末を使っているのだが、RIM社がFacebookと提携し、Facebookアプリが情報を自動的にBlackBerryで同期させているのだ。

 Facebookの情報を使えば、関連情報から僕であることがわかり、僕がFacebookに登録した写真をBlackBerryに転送することで顔写真を表示できる。誕生日の表示もFacebookの情報を同期したからだ。機械同士が勝手に情報のやり取りをしているので、「セキュリティはどうなっているのか」と心配になる。しかし、Facebookでは個人情報の公開を家族、知人、一般と段階を分けて設定しているので、その範囲を超えた同期は行われない。

 Facebookのユーザーは、パソコンだけを使っているわけではない。携帯電話でも同じようにサービスを利用したいと考えている。一方、RIM社は3億5,000万人のユーザーを抱えるFacebookと提携することで、端末に付加価値をつけた。もちろん、このサービスは無料である。FacebookとRIMのサーバーをAPIで結びつけることは簡単で、たいした投資ではないのだ。

 これはクラウドを使ったサービスの好例だ。クラウドの意義は「アプリケーションのインストールや設定、ウィルス対策などの煩わしさを“雲”の向こうに隠し、ユーザーがのびのびとサービスを楽しむこと」だったはずだ。しかし、仮想データセンターや構築環境などのハードに眼を奪われると、この「楽しく価値あるサービスを提供する」という出発点を忘れてしまいがちだ。RIM&Amp;Facebookの事例は、まさにこの原点に立ったサービスといえる。また、クラウドはパソコン以外の端末を区別なしに取り扱えることも大きな特徴だ。この事例ではクラウドの中にあるFacebookと携帯端末のBlackBerryがサービスで結びつけられている。

 ここまでの話を整理してみよう。クラウド・ビジネスは、大きくクラウド・コンピューティングとクラウド・デバイスの組み合わせ(2)からなる。前者は、仮想化データセンターとSaaS/PaaS(3)環境でなりたつ。一方、後者は“脱パソコンの潮流”、特にモバイル端末が中心となる。このことを私はクラウドにおける「超集中と超分散」と呼んでいる。

 前者であるクラウド・コンピューティングは、アプリケーションとハードウェアの統合を強力にすすめる技術だ。現在の企業ITシステムにおいて、アイドル時間は85%と言われ、投資コストの7割は既存システムの保守に費やされている(4)。こうした膨大な無駄を減らす意味で、クラウド・コンピューティングは大きな貢献が期待されている。しかし、これだけであれば、これまでコンピュータ業界で提唱されてきたグリッド・コンピューティングやオン・デマンド・コンピューティング、ユーティリティ・コンピューティングなどとかわらない。クラウドは「超集中と超分散」が同時並行的に進むことで、ユーザーがどこにいようとサービスだけを届けるビジネスモデルだ。

 米国を追いかけることに急ぐあまり、日本のクラウドでは「とりあえず、わかりやすいデータセンターの仮想化から始めよう」という風潮が顕著で、クラウド・コンピューティングにばかり力が入っている。しかし、それではクラウドの本質である“便利なサービス”は生まれない。米国では、クラウドをサービスから考えてiPhoneが生まれ、Intel社はMID(Mobile Internet Device)の開発に邁進している。また、FacebookやTwitterといったWeb2.0系ツールなどを組み合わせることで、新たなビジネスを創造しようとしている。だからこそ米国のクラウドでは「端末の多様化」や「Web2.0」と表裏一体の関係にある。

 Salesforce.comやIBM、Microsoft、Googleなどのクラウド・ランナー達がTwitterを追いかける理由はここに潜んでいる。




(1) FacebookはSNS(Social Networking Service)の大手。Facebookのユーザー数は3億5,000万人で、SNS内アプリケーション・サービスでは先頭を走っている。

(2) 実は、これにクラウド・ネットワークを加えなければクラウド・ビジネスは成立しない。クラウド・ネットワークについては、別の機会に紹介する。

(3) SaaSはSoftware as a Serviceの略で、ネットワーク経由でソフトウェアの機能をサービスとして提供するアプリケーション。PaaSはPlatform as a Serviceの略で、SaaSやコンテンツ、マッシュアップと呼ばれる自動化ツールなどを組み合わせるためにプラットフォームを指す。

(4) 出典:IBM


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執筆者 : 小池 良次(こいけ りょうじ)
京都外国語大学卒業後、ブラジルのサンパウロ新聞社に入社、社会面・経済面を担当。その後、帰国し民間調査会社に就職、リサーチャーとして技術動向調査、技術出版など300プロジェクト以上を企画運営する。



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