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小池良次 米国発、ITトレンド

− 第53回 −

先端通信技術で次世代の電力システムをめざす
本格化する米国スマート・グリッド市場とテレコミュニケーション

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 2003年に米国北東部を襲った大停電などにも見られるように、米国の発電・配電システムは大きな問題を抱えており、これまでも改善が叫ばれてきた。その解決策として期待されるスマート・グリッド(1)は2006年頃から動きだし、今年、ノーベル学者のスティーブン・チュー氏がエネルギー省のトップについて大きな注目を集めている。スマート・グリッドとは通信技術を使って『需要にあった供給』と『無駄な消費を抑制』する次世代の電力システムだ。 また、今後広がる太陽光発電や風力発電を有効に利用したり、普及が予想される電気自動車への対応などもスマート・グリッドの重要な課題となっている。米国電力業界の研究機関 EPRI(Electric Power Research Institute)によれば、向こう20年間で米国がスマート・グリッドに投じる資金は1,650億ドル(約15兆3000億円)に達する。年間で80億ドル(約7,400億円)という巨大投資だが、もっとも重要な部分は“各家庭や事業所”と“電力会社”を結ぶ広域な通信ネットワーク(FAN、Field Area Network(2))の構築だ。今米国の大手通信会社や通信機器ベンダーはスマート・グリッドに熱い視線を送っている。

3倍の市場に70倍の事業者がひしめく米国

 最初に、スマート・グリッドの背景となる米国の電力業界が抱える問題について簡単に見ておこう。

 日本では地域別に分かれた9大電力会社が、発電から小売りまで一貫して電力事業を行っているが、停電もほとんどなく、バースト・ノイズなどの障害も見かけない。また、夏のピーク時も、安定した電力供給を確保している。今後、太陽光発電や風力発電など再生可能エネルギー(Renewable Energy)の導入や電気自動車の普及などが進むが、その土台となる発電・送電システムは米国に比べると健全だ。

 一方、米国の電力業界は日本の約3倍という市場規模を持つが、システムの近代化では大きく遅れをとっている。 “多数の事業者に断片化された市場構造”という米国特有の状況が、電力システムの近代化を阻んできた。アメリカでは、伝統的に多数の小規模電力会社が各地に散在していることに加え、発電、送電、小売という分業を導入している点が一層断片化を促進している。

 たとえば、PURPA(the Public Utility Regulatory Policies Act of 1978(3))法にもとづく電力事業者のリスト(2008年8月(4))を見ると、民間企業約190社、共同事業体(Cooperatives)約240団体、地方自治体(Municipals)約160団体、そして州政府や地方自治体36団体の約640団体がリストアップされている。それぞれの事業者や団体は、配電や小売などの分野に分かれて電力事業を展開しており、システムの互換性や協調管理などは十分に確保されていない。大雑把にいえば、米国の電力業界は、日本の3倍という市場に約60から70倍の事業者や団体がひしめいていることになる。

米電力市場の地域分類

 こうした地方自治体や協同組合などの小さな事業者は、発電や送電設備を整備する巨大投資に耐え切れず、民間企業も日本に比べるとその事業規模は小さく、投資意欲に欠けている。しかも電力料金の低減を狙った市場自由化は、こうした中小電力事業者の経営を圧迫してきた。

日本と米国の電力業界比較

スマート・グリッドに必要な7つの特徴

 米国政府が電力業界に厳しい眼を向けたのは、電力小売自由化にともなって急成長したエンロン社が2001年12月に不正会計問題で破綻したことが契機といわれる(5)。その後アメリカ北東部を襲った大停電(2003年8月)や超大型台風カトリーナ(2005年8月)による電力システムの破綻などの問題が続いた。こうした大惨事だけでなく、一般家庭での停電は頻繁に起こっている(6)。スマート・グリッドは、こうした米国の苦しい状況の打開策として期待されている。

 さて、本稿ではすでにスマート・グリッドという言葉を使っているが、その定義についてもう一度考えてみよう。実は、納得できる定義を探すことはなかなか難しい。まず、米国エネルギー省が発行している小冊子「The Smart Grid: An Introduction」では、スマートグリッドを次のように述べている。

PART 1 : WHAT IT IS.

 この定義ではスマート・グリッドを「電力会社が集中制御している電力システム(電力網)を消費者との通信によって、より分散型のシステムに変えること」「電力システムの近代化を実現する手段であること」としている。ただ、これではあまりに概念的すぎて具体性に欠ける。

 一方、ネット百科事典のWikipedia(英語版)の定義は次のようになっている。

SMART GRID

 ここでは「情報通信気技術を使って、省エネルギー、コストダウン、信頼性の向上、透明性の高い電力網」と述べている。

 このようにスマート・グリッドには様々な定義づけがあり、それぞれの定義には微妙な違いがある。そこで本稿では、仮に次のように定義づけをしてみたい。

 スマート・グリッドとは高度な情報処理システムと通信ネットワークを利用して、電力需要と電力供給をリアルタイムに一致させ、電力供給の平準化、電力の効率的な利用、電力需要の削減、電力料金の低下、信頼性の向上などを実現する次世代の電力システム(網)をさす。また、スマート・グリッドは、再生可能エネルギーを使った分散発電や電気自動車などの新しいビジネスをサポートする。

 定義についてはこの程度として、つぎにスマート・グリッドの狙いや現在の発電・送電システムとの違いについて考えてみよう。米エネルギー省傘下の研究所NETL(National Energy Technology Laboratory)のレポート(7)には、スマート・グリッドの特徴として7つの項目を挙げている。

スマート・グリッドの7つの特徴

 現在の電力網は、発電所から消費者に一方向で電気を送るため、消費側の電力需要に対応するきめ細かな制御はできない。ピーク時には大口消費者に電話などでコンタクトをとって消費量を減らしてもらうといったことをせざるを得ない状況だ。

 7つの特徴に示されるように、スマート・グリッドでは、発電設備から一般消費者までの送電網に高度な通信機能や監視機能を付け加える。これにより需要にあったきめ細かな給電を行うだけでなく、消費者が電力システムに関与して、ピーク時に需要削減を促すといったことも期待されている。また、電力事業者間でシステムの協調制御能力の向上なども狙っている。

 将来的には、分散発電や蓄電機能を付け加える研究も進んでいる。現在の給電は、消費地から離れた山間部や湾岸沿いに大型発電所を設置し、巨大な送電網で電力を送る集中システムを採用している。一方、スマート・グリッドでは、環境にやさしい風力発電や太陽光発電設備など再生可能エネルギーの活用を狙っている。こうした分散発電システムで作った電力は、自家消費であまった電力を送電設備を通じて別の消費者に提供する。また、超伝導蓄電設備や今後普及が見込まれる電気自動車を蓄電に利用し、消費地の近くに設置することで送電ロスを減らすことができる。このほか、ピーク時に電力消費を抑える消費者システムとして、ホーム・グリッドやビルディング・グリッドなどの研究もすすんでいる。




(1) グリッドは格子模様の意味。電力の送電網が網の目のように結びついていることから、こう呼びならわされた。

(2) FANには様々な解釈があるが、本稿ではFANを電力ネットワークを監視するセンサー網や各家庭の電力メーターとの交信を行うネットワークと定義づける。

(3) PURPAは米国エネルギー法(National Energy Act)の一部。1978年に成立し、市場開放や再生可能エネルギー利用環境の整備など様々な施策が盛り込まれた。

(4) このリストはエネルギー省のWebサイト(http://www.oe.energy.gov/DocumentsandMedia/PURPA_2008.pdf)からダウンロードできる。

(5) ちなみに、翌2002年に通信業界でワールドコム社が不正会計で破綻した。エンロンの負債総額はワールドコム破綻まで、米国史上最大規模だった。なお、2008年のリーマン・ブラザーズ証券の破綻まで、ワールドコムの負債額は史上最高だった。

(6) ベイエリア(サンフランシスコ湾岸地域)でも、停電はたびたびある。私の住んでいる地区では2008年の新年に吹き荒れた嵐のために24時間以上も停電した。そのときは真冬の停電で、近所のスーパー・マーケットから暖炉用の薪が姿を消した。また、1秒程度の瞬断現象は日常茶飯事といっても良い。そのほか電力線を経由したバースト・ノイズなども多く、家電製品の誤動作や故障の原因となっている。

(7) レポート名:A Systems View of the Modern Grid (2007年1月)なお、同レポートではスマート・グリッドをモダン・グリッドと呼んでいる。


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執筆者 : 小池 良次(こいけ りょうじ)
京都外国語大学卒業後、ブラジルのサンパウロ新聞社に入社、社会面・経済面を担当。その後、帰国し民間調査会社に就職、リサーチャーとして技術動向調査、技術出版など300プロジェクト以上を企画運営する。



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