− 第52回 −
ダークサイド・オブ・クラウド −クラウドの暗部−
その難関に立ち向かう米国IT業界(後編)
アプリケーションの高速化を担うCaaS
アプリケーション・スイッチの大手F5社のJohn McAdam氏(CEO)Interop Las Vegasにて筆者撮影
CaaS分野では、アプリケーション業界と通信機器業界が主なプレーヤーになっている。通信機器業界では、従来からアプリケーション・スイッチ(6)が存在したが、SAPやOracle、Microsoft、VMwareなどのアプリケーション・ベンダーは、ルータやスイッチなどの通信分野に配慮しなかった。しかしパフォーマンス問題が深刻化するにつれ、こうしたネットワーク機器との連係なしには解決できない状況に至り、大手アプリベンダーもスイッチやルータ向けのAPI(7)を整備するようになった。こうして生まれたのが、ADC(Application Delivery Controller)と呼ばれる機器/技術だ。
今後、データセンターの次世代化にともない、ロードバランサーをADCに置き換える動きが広がってゆく。今のところ、データセンターになくてはならないロードバランサーだが、その機能はトラフィックの単純な平準・最適化に限定される。各種SaaSを同時に取り扱うクラウドでは、アプリケーション・パフォーマンスを十分に確保できない。
ADCはネットワーク上の情報がどのようなアプリケーションであるかを認識して、プロトコルの簡素化や優先制御を行うため、通信業界やアプリケーション業界で注目を浴びている。また、ADCのバーチャライゼーションはBrocade Communications Systems社やCisco Systems社、Juniper Networks社、Citrix Systems社などが研究開発を進めており、ここ数年のうちに本格的な仮想ADCが登場すると言われている。情報やアプリケーションを分散・蓄積するクラウドでADCは、アプリケーションをベースにしたアクセス管理が企業コンプライアンスを実現するための重要な役割を担うことになるだろう。
通信事業者系のクラウド
AT&T BusinessやVerizon Businessなど通信事業者系のクラウド・サービスも動きが活発化している。AT&Tは“Synaptic Data Center”を総称としてプライベート・クラウド分野に力を入れている。同社は欧州やカナダなど世界規模のIP幹線網を展開している強みを生かし、パフォーマンスやセキュリティの高いクラウド環境を目指している。一方、Verizon Businessも、通信事業者として国際幹線網の強みを生かし、セキュリティ・サービスを軸にプライベート・クラウドを展開している。
CDNの仕組み
興味深いのは、コンテンツ・デリバリー・ネットワーク(CDN)の最大手、Akamai Technologies社がクラウド分野への参入を狙っていることだ。ビデオやオーディオなどマルチメディア・コンテンツを配信する場合、“コンテンツ・サーバ”→“幹線網ISPの末端網”→“ユーザーのパソコン”と情報が流れる。しかし、幹線網は末端網ほど伝送能力がないため、大容量の映像ファイルがなかなか届かないといった問題が起こる。CDNでは、ISPのデータセンターにおいたエッジ・サーバにコンテンツを蓄積し、同じコンテンツを要求してきたユーザーには蓄積したコンテンツを提供する。これで幹線網を迂回できるので、すばやくコンテンツを受け取れる。
世界中に4万台以上のエッジ・サーバを保有するCDNの最大手のAkamai Technologiesは、このCDNネットワークを活用し、前述のパフォーマンス問題を解決するサービスを提供している。つまり、クラウド・コンピューティングの通信足回りに焦点を絞って参入しようとしている。
◇◇◇
新技術は一般に「注目期(潜在可能性に関心が集まる時期)」→「沈黙期(関心が醒め、商業化の課題を解決する時期)」、→「普及期(技術が成熟し普及が始まる)」→「成熟期」→「衰退期」というライフ・サイクルをたどる。
注目を集めて3年が経ち、クラウド・コンピューティングは注目期から沈黙期へと入ろうとしている。普通、沈黙期に入るとメディアやユーザーの関心はさめて、開発コミュニティ内だけでダークサイド・オブ・クラウドのような議論が行われるものだ。ところが、クラウドの場合は沈黙期にもかかわらずメディアやユーザーが高い関心を示している。そのライフ・サイクルはテンポが速いと多くの専門家が口をそろえている。米国の企業ユーザーが本格的にクラウド・データセンターを使うのは、そう遠い話でもなさそうだ。
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「小池良次氏が講演するセミナーのご招待券」をプレゼントは、2009年7月1日(水)16:00をもって締め切りました。
たくさんのご応募ありがとうございました。
(6)アプリケーション・スイッチ:IPパケットのヘッダーだけでなく、ペイロードまでチェックしながら、LANの情報をアプリケーション・レベルで管理し、高速化を狙うL4-L7スイッチ。
(7) API(アプリケーション・プログラミング・インタフェース、Application Programming Interface):アプリケーションから利用できる、オペレーティングシステムやプログラミング言語で用意されたライブラリなどの機能の入り口となるものである。主に、ファイル制御、ウインドウ制御、画像処理、文字制御などのための関数として提供されることが多い。つまり、簡単にいえば、アプリケーションをプログラムするにあたって、プログラムの手間を省くため、もっと簡潔にプログラムできるように設定されたインターフェースの事である。出典:ウィキペディア日本語版

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執筆者 : 小池 良次(こいけ りょうじ)
京都外国語大学卒業後、ブラジルのサンパウロ新聞社に入社、社会面・経済面を担当。その後、帰国し民間調査会社に就職、リサーチャーとして技術動向調査、技術出版など300プロジェクト以上を企画運営する。









