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小池良次 米国発、ITトレンド

− 第47回 −

空前のスケールをめざす
姿を見せ始めたGoogleのクラウド・コンピューティング戦略

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Googleのクラウド・コンピューティング戦略

 2008年4月にGoogleが発表したApp Engine(ベータ)は現在、500Mbyte、月間500万ページビューという制限(3)をおいているが、基本的にはAmazon EC2と同様のサービスを無料で提供している。ユーザーは、希望するウェブ・アプリケーションをApp Engineにアップロードすれば、すぐに利用できる。

GoogleはG-Appsの営業に力を入れている(Spring Interop 2008で筆者撮影)

GoogleはG-Appsの営業に力を入れている(Spring Interop 2008で筆者撮影)

 ただ、Amazon EC2に比べると、Google App Engineの戦略的位置は格段に重い。同社はこれまでGmailやGoogle-Docs、Google Calendarなど様々な汎用アプリケーションをウェブ・ベースで提供してきた。このGoogle Apps(G-Apps)は、個人や中小企業を中心に広がっており利用企業は50万社(全世界)を超えるといわれている。すでに、G-Appsを自社基幹アプリケーションに統合する動きが広がっており、Google社も中堅から大企業向けにG-Appsの有料販売に力を入れ始めた。G-Appsは企業市場の98%を押さえるといわれるMicrosoft Office市場を、いよいよ浸食しようとしている。

 ただ、そのアプローチは、Microsoft Officeのようなパッケージ・ベースではなく、ウェブ・アプリケーションを軸とする。つまり、データセンターやアプリケーション・ベンダーに煩わされることなく、すべてのサービスをネットワークを通じてグーグルが提供する。やや極端な表現をすれば、エリック・シュミットCEOが提唱するクラウド・コンピューティングのCloudとは、まさにGoogle自身にほかならない。そのためのプラットフォームがGoogle App Engineであり、ユーザーがG-Appsを自社アプリケーションと統合するための基盤となる。Googleの狙いは、データセンターの構築やIT運用に苦労する企業に“Googleがすべてのサービス/アプリケーションを提供する”ことにある。

 そう考えれば、海底ケーブル建設に参加したり、全世界でダーク・ファイバーを買い漁って、大手電話会社並のコア・ネットワークを構築している同社の動きと、ぴったりツジツマがあってくる。また、Googleのクラウド・コンピューティング構想は、コンピュータ端末だけを対象としていない。実際、Google関係者にインタビューすると、Android OS(4)をベースに携帯電話などの各種モバイル端末と「将来的にはG-AppsやApp Engineが結びつくのは自然だ」と述べている。Googleのクラウド・コンピューティング構想は実に野心的で、かつてマイクロソフト社が“すべてのIT産業をウィンドウズOSで網羅しよう”としたウィンドウズ戦略と肩をならべるほどスケールが大きい。



クラウド・コンピューティング開発に力をいれるMicrosoft

 Microsoft社は、Google社のクラウド・コンピューティング構想に危機感を募らせている。同社の難しさは、Microsoft OfficeやWindows Mobile(携帯OS)などが同社の重要な収入源となっており、安易にウェブ・アプリケーションへと舵を切れないところにある。とはいえ、着々と進むGoogleの浸食に対抗し、同社もクラウド・コンピューティング分野で開発を加速させている。

 たとえば4月22日、Microsoftはサンフランシスコで開催されたWeb2.0ExpoでLive Meshを発表した。これは、登録したパソコン間で写真やビデオ、ドキュメントなどを自動的に同期させるアプリケーションだが、単純なファイル共有とは違い、クラウド・コンピューティング的な2つのアプローチがひそんでいる。ひとつは、Mesh Operating Environment(MOE)という実行環境を使って、携帯電話やSTB(Set-Top-Box)などパソコン以外の端末とも同期できる点だ(5)。もう一つは単純なデータだけでなく、アプリケーション・レベルでの同期も実現している。MeshFX(REST-base API)に従ってアプリケーションを書けば、一カ所のアプリケーションを変更すると、ほかのアプリケーションも変更できる。たとえば、写真共有のアプリケーションでは、追加した写真だけでなく、レイアウトや並べ替え方、各写真の説明など細かい機能面も同期する。

 このようにLive Meshを使えばCloud(広域網)につながったコンピュータばかりでなく、モバイル・デバイスでも利用できるウェブ・アプリケーションを提供できる。Google App EngineはSaaS系アプリケーションにフォーカスしているが、Live Meshはモバイル系アプリケーションに焦点を当てている。このほか、Microsoft社のCIS(Cloud Infrastructure Services)チームは、Google App Engineと競合する“Red Dog”(開発コード名)も準備している。クラウド・コンピューティング分野でGoogleとMicrosoftが競争を展開するのは間近と予想される。

◇◇◇

 Amazon EC2やGoogle App Engineは当面、ITインフラが弱い中小企業をベースにするが、IBMやHP(Hewlett-Packard)、SAPなどは、大企業向けのクラウド・コンピューティングを狙っている。たとえば、IBMは2007年11月、ブルー・クラウド(Blue Cloud)構想を発表し大きな注目を集めた。これは同社のブレード・サーバにXen、PowerVMを活用して高度なバーチャライゼーションを行うもので、既存の大手クライアント向けに「オンデマンド・サービスからクラウドへ」という提案を繰り広げようとしている。これに対抗し、HPは2008年3月に“Data Center-as-a-Service”を発表し、同様にクラウド・コンピューティング・サービスを開始している。同サービスは、基本的にHPのデータセンター・ユーザーを対象にしているが、SAP6.0などの大型基幹アプリケーションをサポートしている点がAmazonなどと大きく違う。

 日本ではSalesForce.com社のサービスが、ようやく広がり始めたばかりだが、米国では次世代サービスを狙ってクラウド・コンピューティングの商業化に力をいれている。2009年の米国はクラウド・ベンチャーやSaaSプロバイダーが業界のブームになるだろう。その中で、どこまでGoogleが勢力をのばせるか。また、Microsoftはクラウド企業に変身し、Googleを阻止できるか。これから1〜2年の間、クラウドは注目のキーワードに違いない。

(2008年6月23日公開)





(3) ベータ版のユーザーは、申し込み順で1万デベロッパーまで。

(4) Androidは、Googleが2007年11月に発表した携帯電話用のオープンソースOS。携帯関連企業34社が参加するOpen Handset Allianceというオープンソース団体が管理するが、実際の開発はGoogleが中心になって進めている。Apple社のiPhoneに対抗する次世代携帯OSと期待されている。

(5) 残念ながら、Mobile MOEはまだ公開されておらず、実際の機能は確認できていない。


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執筆者 : 小池 良次(こいけ りょうじ)
京都外国語大学卒業後、ブラジルのサンパウロ新聞社に入社、社会面・経済面を担当。その後、帰国し民間調査会社に就職、リサーチャーとして技術動向調査、技術出版など300プロジェクト以上を企画運営する。



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