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小池良次 米国発、ITトレンド

− 第47回 −

空前のスケールをめざす
姿を見せ始めたGoogleのクラウド・コンピューティング戦略

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 雲の向こうからサービスがやってくる。サーバやアプリケーション、ネットワークにデータセンター、そんな煩わしいことを忘れて自由気ままにコンピュータを利用する──そんな夢のような環境をめざすのがクラウド・コンピューティング(Cloud Computing)だ。2006年、Google社のエリック・シュミットCEOが初めて提唱(1)したが、実際のサービス開発ではAmazonやHP、IBMなどが先行していた。そうした中、御本家GoogleはGoogle App Engine(ベータ)を4月から開始した。続く5月にはIBMと手を組んでクラウド・コンピューティング啓蒙プロジェクト “Virtual IT Lab”の具体的な内容(2)も発表している。一方Hewlett-Packard(HP)は、IBMとのクラウド・コンピューティング競争に備え、大手システム・インテグレーターのEDS社を買収した。また、MicrosoftもLive Meshなどクラウド分野を拡充しているほか、Google App Engineに対抗するRed Dog(開発コード名)の開発に拍車を掛けている。今回は、次世代コンピューティング・モデルの本命といわれるクラウド・コンピューティングにかけるGoogleの戦略を紹介してゆこう



クラウドは次世代サービスの象徴

 クラウド・コンピューティングにかぎらず、SaaS(Software-as-a-Service)、PaaS(Platform-as-a-Service)、マッシュアップス(Mash-ups )、ユーティリティ(Utility Computing)、オンデマンド(On-Demand Computing)、グリッド(Grid Computing)など米コンピュータ業界はここ数年、様々な提案を繰り返してきた。まず、そうした一連のモデルを整理整頓して、クラウド・コンピューティングの意味を明確にしてみたい。

 現在のコンピュータ利用、特にデータセンターに目を向けると、ふたつの大きな潮流がある。ひとつは、ハードウェア(サーバ、ストレージ、LANなど)の拡張性や柔軟性を従来では考えられないほど高める“仮想化(Virtualization)技術”の流れだ。これまで企業のシステム管理者は、アプリケーションが増えたり、ネットワーク・アクセスが増える毎に、サーバの増設や回線容量の拡大に奔走してきた。しかし、こうしたITハード資源の構築管理は時間と手間がかかる一方、実際の処理要求を超える過剰設備に悩まされてきた。こうした問題を解決し、必要なコンピューティング・パワーを適時提供する考え方がユーティリティやオンデマンド、グリッドなどのコンピューティング・モデルだ。

 その背景には、巨大なサーバやストレージ、ネットワークを適切なサイズに切り分け、バーチャル・サーバとして利用する仮想化技術の発達がある。仮想サーバを使えば、必要なOSやCPUパワー、ストレージ、ネットワーク機能などを適時利用できるようになってきた。一方、データセンター事業者は、これまで顧客別に構築してきたITシステムを、仮想システムに集約してコストダウンと運用の柔軟性を追求している。これがデータセンター業界における“Managed Hosting Service”から“On-Demand Service”への流れを生み出している。

急速な伸びを強調するセールスフォース社のマーク・ベニオフCEO(2007年Dreamfoce Expoで筆者撮影)

急速な伸びを強調するセールスフォース社のマーク・ベニオフCEO
(2007年Dreamfoce Expoで筆者撮影)

 一方、ソフトウェア分野ではウェブ・アプリケーションが台頭し、WAN(広域網、インターネットや専用線)を介して基幹アプリケーションを利用する動きが広がっている。従来のアプリケーションは、高速で信頼性の高いLAN(構内ネットワーク)をベースに設計されていたため、クライアント・サーバ間通信に特別な配慮は必要なかった。しかし、コスト削減の観点からITハード資源が各事業所からデータセンターに集約され、ユーザーが遠く離れたアプリケーション・サーバを利用するに従い、アプリケーションの広域化が定着してきた。また、広域化によりアプリケーションをサービスとして購入することも可能となってきた。こうした流れを象徴するのが、SaaS、PaaS、マッシュアップスといったアプリケーション環境における提案だった。

 ただ、アプリケーション間通信がLANからWANへ広がると、企業は応答が遅い、十分な処理速度がないといった“パフォーマンスの低下”に直面し、その解決策としてアプリケーションの加速化技術やSOA(Service Oriented Architecture)あるいはWOA(Web Oriented Architecture)といった新アーキテクチャの導入にも着手している。

 このように現在のコンピュータ利用環境は、ハード面、ソフト面でそれぞれ著しい発展を遂げているが、次世代サービスでは、この仮想化技術と広域アプリケーションというふたつの流れがより一体化する。この未来像を的確にイメージさせる言葉が、クラウド・コンピューティングにほかならない。コンピュータ業界ではインターネットなどの広域網を“雲(Cloud)”として描くことが多い。クラウド・コンピューティングは、ネットワーク(雲)から必要な情報や機能だけがやってきて、雲の向こうにあるサーバやストレージ、ネットワークやアプリケーションなどを意識することなく、コンピュータを利用できる。これがクラウド・コンピューティングの広い意味での定義(広義)となる。



SaaSからPaaS、そしてクラウド・コンピューティング

 一方、クラウド・コンピューティングはSaaSやPaaSのイネブラー(enabler)という狭い意味もある。イネブラーとは“利用するための基盤”といった意味で、その響きはSaaSやPaaSを動かすための“ハード的”なプラットフォームを連想させる。これはAmazon社のEC2やGoogle社のGoogle App EngineなどとSaaSやPaaSとの関係から導き出されるクラウド・コンピューティングの定義だ。

SaaS、PaaS、クラウド・コンピューティングの関係

 SaaS(Software-as-a-Service)は社に代表されるように、広域網(インターネットや専用線)を経由してアプリケーションを利用する。昔ブームになったASP(Application Service Provider)では、システム・インテグレータが企業の要望に応じてデータセンター上にハードやアプリケーションを構築し、広域網で提供していた。これは現在のマネージド・ホスティング・サービス(Managed Hosting Service)に結びついている。

 一方、SaaSはマルチ・テナント・アプリケーションを特徴とする。SalesForce.comの場合、CRM(顧客管理)などのシステムを複数のユーザー(マルチ・テナント)で共有するため、中小企業でも安く高度なサービスを利用できる。しかし、表示画面などのカスタマイズはできるが、アプリケーションを自社に最適化しようとして既存アプリケーションと統合する場合、大きな苦労をともなう。

 やや専門的になるが、このSaaS、PaaS、クラウド・コンピューティングの階層構造を図示すると左の図のようになる。

 緑色の部分が、SalesForce社に代表されるSaaS。一方、青色の部分は、クラウド・コンピューティングにあたる。また、PaaSは緑に灰色部分を加えた部分となる。

 SaaSは、アプリケーション共有(Multi-tenant DB)からアプリケーションの粗結合により、企業それぞれに適したカスタマイズ、独自構成ができる方向に進んでおり、そのためSalesForce.com社もPaaSへと移行を進めている。

 そこでアプリケーションを共有するマルチ・テナントではなく、ユーザーそれぞれが好きなアプリケーションを開発・統合できる環境(Platform)を提供しようとするのがPaaS(Platform-as-a-Service)の考え方だ。前述のSalesForce.com社も、AppExchangeを2005年に開始してPaaSへの対応を進めている。AppExchangeでは、約450社のソフトウェア・ベンダーが約800種類のアプリケーションをユーザーに提供している。また、ウェブ・サービス用のAPI整備も進め、Google MapのようなMash-upsや他社のSaaSも利用できる。ユーザー企業は、SalesForce.comの基盤をベースに様々なアプリケーションを組み合わせて、自社に最適なアプリケーションを構築する。

出典:Interop2008 Spring、Abhijit Dubey氏(Principal、McKinsey & Company)のプレゼンテーションより

出典:Interop2008 Spring、Abhijit Dubey氏(Principal、McKinsey & Company)のプレゼンテーションより

 やや専門的になるが、このSaaS、PaaS、クラウド・コンピューティングの階層構造を図示すると左の図のようになる。

 緑色の部分が、SalesForce社に代表されるSaaS。一方、青色の部分は、クラウド・コンピューティングにあたる。また、PaaSは緑に灰色部分を加えた部分となる。

 SaaSは、アプリケーション共有(Multi-tenant DB)からアプリケーションの粗結合により、企業それぞれに適したカスタマイズ、独自構成ができる方向に進んでおり、そのためSalesForce.com社もPaaSへと移行を進めている。

 

 


 このようにPaaSは、様々なウェブ・アプリケーションを構築するための統合プラットフォームだが、その環境はアプリケーション部分にとどまり、自分の好きなOSや開発ツール、必要なコンピューティング・パワーまではカバーしない。この部分を埋めるのがAmazon EC2(Elastic Compute Cloud)やGoogle App Engineといったクラウド・コンピューティング(狭義)となる。つまり、クラウド・コンピューティングはSaaSやPaaSに対してハードや開発基盤を提供する(enabler)という関係にある。

 米国企業は2010年以降、システムのコストダウンと柔軟性を求めて、従来のマネージド・ホスティング・サービスからPaaS/クラウドへ移行すると予想されている。



(1) クラウド・コンピューティングは、2006年8月9日に米国カリフォルニア州サンノゼ市(San Jose, CA)で開催された「検索エンジン戦略会議」(Search Engine Strategies Conference) でエリック・シュミットCEOが初めて提唱したといわれている。

(2) 同プロジェクトでは、米国のIT分野をリードするワシントン大学やMIT、カーネギーメロン大などにクラウド・コンピューティング環境提供し、同次世代技術の普及を狙っている。



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