− 第46回 −
来年2月のアナログ放送打ち切りを前に
混乱深まる米デジタル・テレビ移行問題
CATVや衛星放送に警戒感を強める地上波テレビ局
現在、デジタル・テレビ放送へのスムーズな移行を進めるためFCCや連邦議会は様々な努力を続けている。しかし、市民の混乱をまったくなくすことはむずかしい。特に地方テレビ局は、デジタル化の混乱で“地上波TV離れ”が促進するのではないかと心配している。
これは「来年2月から地上波テレビは映らなくなる」と勘違いしてCATVや衛星TV放送に加入する市民が出てくることへの懸念だ。また、そうした誤解を利用して加入者を増やそうとする動きがないとは言えない。FCCやFTC(連邦取引委員会(8))は、こうした不当勧誘に目を光らせている。
こうした不当行為とは別にしても、デジタル放送への移行はCATVや衛星テレビに有利に働くと分析する専門家もいる。たとえば、資産マネジメント(投資会社)のSanford C. Bernstein & Co.は、デジタル放送への移行後、CATVや衛星放送は大幅に視聴者を伸ばすと予想している。同社の予想によれば、移行のおかげで衛星放送のDirecTVは、2008年で7万3600加入、2009年は13万2500加入の加入者上乗せ効果が期待できるとしている。両業界全体では、2008年で50万、2009年では90万の上乗せ効果を見込んでいる。
アナログ停波にともなう有料放送の加入者上乗せ効果
一方、FCCはCATV業界の混乱についても、事態収拾を迫られている。たとえば、FCCは2007年9月、CATV事業者がその地域の地方テレビ局放送を必ず放送しなければならない“マスト・キャリー規制”について義務を拡大している。
同法律の解釈によれば、地上波TV局がアナログ放送を停止すれば、CATV事業者もアナログ放送を提供する義務はない。つまり、CATVのアナログ番組から地方TV局がなくなってしまう。この混乱を避けるため、拡大マスト・キャリー法では、地方TV局のデジタル放送をアナログに変換して提供するようにCATV事業者に義務づけている。なお、同義務は、3年間の限定処置(2012年に再度見直し予定)となっている。
本来であれば、アナログ放送停波にともないCATV事業者はデジタル放送だけを配信すればマスト・キャリー義務を履行することになる。CATV事業者は自社ネットワークの効率利用を狙って、順次アナログ放送チャンネルを減らす計画を練ってきた。しかし、義務延長によりCATV事業者にとって効率化計画の繰り延べとなり、逆にアナログとデジタルの二重放送を負担する立場に追い込まれた。特に、システム容量に余裕のない中小CATV事業者は「地上波放送の混乱収拾を自分たちが背負わされている」との不満を高めた。
こうした不満に対応し、FCCは2007年11月、中小CATV事業者に対して柔軟な対応を発表している。これは中小CATV事業者に二重放送義務の履行義務を厳しく求めないという内容だ。
一方、今年に入って地上波業界は、FCCに対してCATV事業者への二重放送義務の履行を厳しく行うように求めたほか、HD(高精細放送)のアナログ・ダウングレードで不適切な処理をCATVが行わないように要請している。
このようにCATV業界と地上波放送業界とは、様々な点で利害対立を起こしており、FCCは両者の間にはさまれ、デジタル放送への移行処理は難航している。
◇◇◇
一方で、地方テレビ局は、デジタル放送への完全移行を前に、新たなビジネス・チャンスの模索を進めている。アナログ時代の1局1波体制から、デジタル時代には1局多波体制(4波程度)へと移ることができる。そのため地元に密着した交通情報や天気予報、ニュース専門チャンネルの開局が相次いでいる。これらの番組はCATV網に同様のプログラムを提供している各専門チャンネル(ウェザー・チャンネルやCNNなど)との摩擦を生み出している。地方局は、マスト・キャリー規制を楯に複数の番組をCATV網に乗せようとする一方、CATV側は地上波チャンネルの増加にともなう広告収入の減少、伝送帯域への圧迫などに難色を示している。
また、日本のワンセグ放送と同じように、携帯電話向けのモバイル放送にも地方TV局は関心が高い。しかし、デジタル・テレビ規格をまとめるATSC(Advanced Television Systems Committee)内では、Samsung Groupが押すA-VSB(Advanced Vestigial Sideband Modulation)方式、LG Electronics/Harris陣営が提唱するMPH(Multimedia Home Platform)方式、そしてATSC独自のATSC-M/H方式の3つが規格争いを繰り広げており、収拾のめどが立たない。そのため2009年2月のアナログ停波に相前後して携帯向けモバイル放送を始めようというテレビ局の狙いは実現できそうにない。
こうした様々な問題を抱える米国では、来年2月に迫ったアナログ放送停波をまえに混迷が深まっている。
(2008年4月14日公開)
(8) 日本の公正取引委員会にあたり、消費者保護を行う政府機関。

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執筆者 : 小池 良次(こいけ りょうじ)
京都外国語大学卒業後、ブラジルのサンパウロ新聞社に入社、社会面・経済面を担当。その後、帰国し民間調査会社に就職、リサーチャーとして技術動向調査、技術出版など300プロジェクト以上を企画運営する。









