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小池良次 米国発、ITトレンド

− 第46回 −

来年2月のアナログ放送打ち切りを前に
混乱深まる米デジタル・テレビ移行問題

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 日本に先駆けて、米国はアナログ・テレビ放送を来年2月で終了し、いち早くデジタル・テレビ放送時代に足を踏み入れる。移行後、アナログ・テレビ受信機でテレビを見るためにはデジタル・コンバータが必要になり、“約1300万人の視聴者がトラブルに見舞われる”と有識者は警告している。しかし、アナログ停波まで10ヶ月ほどに迫った現在も、市民の認知度はまだまだ低い。主管官庁のFCC(連邦通信委員会)や商務省、連邦議会は焦りの色を隠せず“移行は緊急課題”と対策に奔走している。今回は、混乱する米国のデジタル放送への移行について見てみよう。

深刻度を増すアナログ・テレビ停波の告知問題

オバマ氏のテクノロジー公約

FCCのデジタルテレビ告知サイト

 デジタル・テレビ放送への完全移行が近づき、米国では様々なトラブルが表面化している。中でも、緊急課題と言われているのが“アナログ停波の告知”問題だ。

 米国では、1億1227万世帯(2007年9月(1))にテレビが普及している。その58%はCATV受信者で、そのほか衛星放送などを含めると8割前後の世帯が有料放送を利用しているが、有料放送を受信している家庭でも、約600万世帯はアナログ地上波テレビを併用している(2)

 視聴率調査で有名なNielsen Media Research社は、アナログ地上波だけを受信している家庭のうち“約1300万世帯強”がなんらかのアナログ停波のトラブルに見舞われると推定している。このうち「テレビがまったく見ることができなくなる」といった深刻な問題に直面するのは、約600万世帯と予想されている(3)

 つまり、全テレビ視聴世帯の約11.5%、約10軒に1軒は何らかの弊害を受けることになる。もちろん、このトラブル世帯数は日本に比べると遙かに少ない。米国では、CATVや衛星放送を利用しているため、大多数の受信者は直接的なトラブルには見舞われないからだ。そのせいか、米国におけるアナログ・テレビ放送の停止について、新聞や雑誌での取り扱いは少なく、市民の認知度も低い。

 ただ、深刻なトラブルに見舞われる世帯は、低所得者層あるいはアナログ放送しか届かない過疎地の居住者であり、社会的弱者に問題が集中する可能性が高い。そのため政治的な重要度は高い。

アナログ停波への対応状況

大統領候補選の経緯

 移行プログラムは、こうした深刻なトラブルに見舞われる世帯に状況を十分に理解してもらう「告知」と、コンバータを購入するための「財政支援」が重要な柱となっている。

 この2つは表裏一体で、1)アナログ・テレビ放送が2009年2月17日(午後11時59分)に終了すること、2)デジ-アナ・コンバータの購入を支援するため、1世帯あたり2枚まで(1枚で40ドル相当)クーポンを申し込めること、を広く知ってもらうというものだ。

 ただ、ブッシュ政権が告知活動用に用意した予算は2,000万ドル(約20億円)に過ぎない。この予算枠では、広告料が高い全米テレビ・ネットワークや大手新聞・雑誌にCMを打つことはできない。事実上、連邦政府およびFCCは地上波テレビ局自身が“自主的に行う認知広告”に依存している。こうした対応を批判する声は多く、特に上院エネルギー・コマース委員会(House Energy and Commerce Committee)のジョン・デンジル(John Dingell)委員長は“ブッシュ政権の用意した予算はあまりに少なすぎる”との批判を再三述べている。

デジタル・テレビ移行は大きな課題と述べるケビン・マーチンFCC委員長

デジタル・テレビ移行は大きな課題と述べる
ケビン・マーチンFCC委員長
(2008年1月CES会議で筆者撮影)

 もちろん、今年に入ってからはCATVや衛星放送も含め、テレビではアナログ放送終了に関するコマーシャルが流れている。また、一部のテレビ局は「停波1年前」をテーマに特集番組を制作・放映した。業界団体NAB(全米放送事業者協会)は、各テレビ局が額にして10億ドル(約1000億円)相当の告知広告を無償で放映していると主張している。そのほか家電業界団体のCEA(Consumer Electronics Association)などの関連団体は、Webサイトなどを通じて告知活動を行っている。それでも、一般市民が告知を目にする回数は少なく、「活発なPRが行われている」とは言い難い。また、告知内容も不十分だ。来年2月にアナログ放送が終わることはわかっても、どうすれば、デジタル放送を見ることができるのか、クーポンはどのようにすれば手に入るのか、と言った具体的な説明は少ない。

 こうした状況から、議会およびFCCは、テレビ局、家電メーカーなどに「告知活動を活発化」させるように求めている。たとえば、前述の上院エネルギー・コマース委員会は、地上波TV局などに1日数回の告知広告を強制する促進法案を検討しているほか、ブッシュ大統領に書簡を送り、政府関連機関(商務省、連邦通信委員会など)をまとめた特別作業部会の設立(4) を求めている。また、上下院の放送関連委員会では、たびたびケビン・マーチンFCC委員長の報告を求めて、FCCへの圧力を強めている。



(1) 出典:NCTA(National Cable & Telecommunications Association)調べ

(2) 出典:Meidaweek、2008年2月15日号

(3) 出典:Centris社、New York Times 紙2008年2月11日号

(4) 特別作業部会の設立についてはFCCなどが強く反対している。



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執筆者 : 小池 良次(こいけ りょうじ)
京都外国語大学卒業後、ブラジルのサンパウロ新聞社に入社、社会面・経済面を担当。その後、帰国し民間調査会社に就職、リサーチャーとして技術動向調査、技術出版など300プロジェクト以上を企画運営する。



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