− 第45回 −
オバマか、クリントンか。
白熱する米プレジデンシャル・レースにみる次期大統領候補のIT戦略
バラク・オバマ氏の快進撃で米国民主党の統一候補選びが白熱している。プレジデンシャル・レースは通例、各州の予備選挙が集中するスーパー・チューズデー(今回は2月5日(1))を山場にして、党内統一候補が固まる。しかし今回は"盤石の準備"を進めてきたヒラリー・クリントン候補を"新旋風を巻き起こした"バラク・オバマ氏が追撃し、民主党内では今も激戦が続いている。そうした中、シリコンバレーではオバマ熱が上昇している。情報通信政策に配慮を示さない大統領候補が多い中、もっとも積極的なハイテク政策を表明しているからだ。今回は、オバマ候補を中心に選挙戦を追いながら、米ハイテク政策の課題や2009年以後の情報通信行政を占ってみたい。
大統領選挙の概要、主要候補者
大統領選挙は、党の統一候補を選ぶ"予備選"と大統領を決める"本選"に分かれる。予備選は、秋に開催される全米統一の党集会に向けて、統一候補を決めるためのレース。予備選はもっとも多くの代議員数を獲得した候補が勝つ。代議員の数は、州の人口によって割り振られており、代議員の獲得方法は勝ったものがすべての代議員を総取りする州もあれば、得票数に応じて各候補に割り振る州もある。代議員数の決定を、党員大会の議論で行うか、党員選挙でおこなうかも州によって違う。そのほか、党員や上下両院議員から構成される特別代議員もいる。
予備選は、このように複雑なシステムとなっているために、報道機関は州単位で、どの候補がトップに立ったか、2番手の候補とどの程度の差があるかなどを見ながら、各候補の優劣を報道する。代議員数の推定は不確定要素があるため、集計する団体(報道機関や民間団体など)によって、どの候補がどれだけ優位かは違いがある。一般的には、予備選で劣勢に立った候補が次々と「出馬取り消し宣言」を行うので、自然と候補者が一人に絞り込まれる。
候補者レースの山場は予備選が集中する『スーパー・チューズデー』で、今年は2月5日に24州で一斉に予備選が開催された。一般に、ここで得票数を稼げなかった候補は辞退を表明し、主要候補が決まる。予備選挙が長く続くと党内にしこりを残し、本選で党一体の選挙戦が展開できないからだ。
異例ともいえる早いスタートを切った大統領候補選だが、2007年末段階で共和党はミット・ロムニー氏、マイク・ハッカビー氏、ジョン・マケイン氏の3候補に、民主党はバラク・オバマ氏、ヒラリー・クリントン氏、ジョン・エドワーズ氏の3候補に絞り込まれていた。そして迎えたスーパー・チューズデーだが、民主党はクリントン候補とオバマ候補が全く互角の戦いを展開し決着がつかなかった。一方、共和党はロムニー氏(7州)を、マケイン氏(9州)が制して、抜け出した。

大統領候補選の経緯
こうして現在、ロムニー氏が選挙戦から撤退(2月7日)し、共和党はマケイン候補へとまとまり始めている。一方、オバマ氏は2月9日にワシントン、ネブラスカ、ルイジアナの3州で圧勝、10日にはメーン州でも勝利し、代議員総数で先行するクリントン候補に数名差まで迫った。そして、史上最長を記録している民主党の指名戦は、勝利確実と言われていたヒラリー・クリントン議員をバラク・オバマ氏が東部3州選(2月12日)で逆転し、白熱の展開となっている。
各候補のハイテク政策温度差
インターネット業界やシリコンバレーは、今回のプレジデンシャル・レースに焦燥感を隠せない。昨年までは、好景気を背景に情報通信が論争の上位に入ってくることを期待していた。しかし、サブプライム問題は実体経済へ波及し、景気は急速に悪化した。ブロードバンド整備や知的所有権・特許制度の改革、ネット中立性問題、学術関係の研究開発費不足、ネット・プライバシー問題など、ハイテク業界が抱える政治的な問題は多いが、統一候補選の焦点は"景気浮揚策"に移り、ハイテク政策どころか、年金・医療問題さえも、影が薄れてしまった。
期待したほど議論は弾まないが、勝ち残ってきたオバマ候補、クリントン候補、マケイン候補は、ハイテク政策でそれなりの発言をおこなっている。一方、エドワーズ氏やロムニー氏などその他の候補は、そもそも具体的なハイテク政策を示しておらず、勝ち残り組との温度差は大きい。たとえば、エドワーズ氏はエネルギー政策や科学教育、ブロードバンド整備などを提唱しているが、一般的な見解を述べているに過ぎない。また、ハッカビー氏(2)やロムニー氏に至っては、情報通信政策への見解は見られない。
では、共和党の統一候補でトップを走るジョン・マケイン氏はどのような見解を持っているのだろうか。最高齢のマケイン議員は、上院通商委員会(Senate Commerce Committee)で長く活躍してきた。同委員会は、米国の技術政策を取り扱っており、その意味でもっともハイテク分野に経験豊富な人物といえるだろう。ベトナム戦争で捕虜になった経験を持ち、保守右派的な色彩を持つ同氏はIT政策でも、そうした傾向を示す。
たとえば、現在進んでいる"アナログ跡地競売"では、パブリック・セーフティ・ネットワーク(公安網)整備を熱心に推進してきた。米国では2009年2月にデジタル放送へと移行し、アナログ放送に使っていた700MHz帯が政府に返還される。アナログ跡地競売は、この帯域を携帯電話やブロードバンド無線に再割り当てするための競売で、2008年1月から行われている。グーグルが参加して話題を呼んでいる同競売では、全米の消防・警察・湾岸警備など公安機関が利用する公安網整備のプロジェクトも含まれている。マケイン議員は、この公安網プロジェクトのルール作りに熱心だった。
また、ハイテク関連の税制優遇では、インターネット・フリー・タックス(ネット取引の課税免除)の恒久化(現在は時限立法)、携帯電話への課税撤廃を表明している。また、企業における研究開発費への税制優遇も言及している。そのほか、インターネットで問題となっているスパム問題の解決をFTC(連邦取引委員会)に促している。
一方、ネット中立性問題(3)については慎重な態度を示している。不当なアクセス制限がないようにすることは重要だが、大手企業のネットワーク投資が回収できなければ、ブロードバンドの整備は進まないとして、中立性法案からは距離を置いている。これまでブッシュ政権が進めてきた政策を同氏も議会で支援してきた立場にあり、いずれの提案も当然の発言で、特に目新しいことはない。
同氏は、政府の研究開発強化を重視し、予算の拡大を訴えているほか、ハイテク業界ではシスコ・システムズのジョン・チェンバーズ会長やマイクロソフトのスティーブ・バルマーCEOとも親しい。
ジョン・マケイン氏は、共和党のなかでは情報通信放送業界に明るいが、基本的にはブッシュ/共和党政権のハイテク行政を踏襲する。その意味で、大手電話会社やCATV事業者に好ましい政策運営者といえるだろう。
(1) スーパー・チューズデーは火曜日に行われるので、このように名前がついており、筆者は、火曜日以外の開催は聞いたことがない。ただ、毎回の大統領選挙で、スーパー・チューズデーの日にちは変わる。文献を調べる限り、ほかの曜日になる可能性があるかないかは不明。
(2) ハッカビー氏は科学者に人気がない。同氏は進化論を否定しているためだ。その背景には、同氏がキリスト教プロテスタント、バプテスト派の牧師であり、神の存在を否定する進化論に同意できない立場にあるため。全米科学アカデミーは、同氏が大統領になると「学校で進化論を教えられなくなる」との懸念を表明している。ただ、同氏は最近、反進化論の主張を和らげている。
(3) 特定のサイトやアプリケーションをブロードバンド・プロバイダーが制限することに反対する動き。ネットワーク中立論は、ブロードバンド事業者の不当アクセス制限と、コンテンツ・プロバイダーのただ乗り論という二つの側面がある。












