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小池良次 米国発、ITトレンド

− 第45回 −

オバマか、クリントンか。
白熱する米プレジデンシャル・レースにみる次期大統領候補のIT戦略

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具体的なハイテク政策論を展開するクリントン議員

 次に民主党のクリントン議員を見てみよう。同議員のハイテク政策はトーマス・カリル(Thomas Kalil)(4)氏がアドバイサリーを行っている。同氏の肝いりで作成されたハイテク政策"Innovation Agenda(改革のための課題)"は、ハイテク産業全般の競争力強化を目的にしている。具体的な対策は500億ドル(5兆3500億円)のエネルギー基金創設(温暖化対策など)からNIH(National Institute of Health、国立衛生研究所)の予算拡大など9項目にわたる。

ヒラリー・クリントン氏、イノベーション・アジェンダ

ヒラリー・クリントン氏、イノベーション・アジェンダ

 情報通信関連では、NSF(米国国立科学財団)やDARPA(Defense Advance Research Project Agency、国防総省高等研究計画局)の予算拡大を提言しているほか、"イー・サイエンス(e-science)"の振興をあげている。イー・サイエンスはスーパー・コンピュータ網をベースとしたシミュレーションや仮想化技術、超高速ネットワークの開発などネットワーク技術をベースとした科学研究を指す。クリントン議員はNSF予算の3%あるいは年間2億ドルをイー・サイエンス分野に投じると公約している。また、ブロードバンド整備では、地方自治体によるネットワーク整備を支援するとともに、ネットワーク建設に対する優遇税制を提案している。

 また、ブッシュ政権が"場当たり的"な科学技術政策を展開してきたと批判し、長期的な展望を持った科学技術政策を行うと、クリントン議員は述べている。

 このInnovation Agenda(改革のための議事)は、どの分野にどの程度の予算を配分するかが、概ね見えており、マニフェスト(選挙公約)として良くまとまっている。長年の政策経験を十分に感じさせる内容といえる。また、バラマキ行政との批判もあるが、政府助成金に寛容なところは伝統的な民主党の政策運営を踏襲している。

新鮮なハイテク政策を提案するオバマ議員

オバマ氏のテクノロジー公約

オバマ氏のテクノロジー公約

 バラク・オバマ上院議員は、大統領候補では最年少の46歳だ。イリノイ州選出の上院議員も第1期目で、ほかの候補に比べればワシントンでの実績はほとんどない。しかし、そのキャラクターはユニークだ。オバマ氏はアフリカン・アメリカン層だけでなく、白人(高齢層をのぞく)や女性など広い層から支持を得ている。また、イラク戦争には一貫して反対の立場を貫いており、政治腐敗を厳しく非難する。スピーチは将来への希望を人々にあたえ感動的と言われている。そうした理想主義的な雰囲気は、暗殺された故ジョン・F・ケネディ大統領を彷彿させ、今回の大統領選では、テッド・ケネディ上院議員やキャロライン・ケネディ(J.F.ケネディの娘)氏の支援を取り付けている。

 オバマ氏は、ワシントンの新人であるが故に、人々に潔白な政治家という印象を与える。権力欲が強く、政治的駆け引きが巧妙なヒラリー・クリントン議員とまったく正反対の大統領候補と言えるだろう。

 そうした面はオバマ氏のハイテク政策にも色濃く反映している。IT面に絞って紹介すると、インターネットのオープン化を指示し、ある意味でネット中立性の急先鋒という印象を与える。また、メディアの資本集中排除規制(メディア・オーナーシップ問題(5))では、FCCの緩和政策を批判している。

 また、"Public Media 2.0"と称して、公共放送(6)の改革(双方向性の追求など)を提唱する一方、子供を有害情報から守る点では、インターネットの有害コンテンツに対するフィルタリング、テレビなどへのペアレンタル・コントロール(7)義務、不適切な広告の排除など細かい提案を行っている。

 ブッシュ共和党政権は、テロ対策を優先し、ハイテク技術を使った盗聴などのプライバシー侵害を公的に認める施策を行ってきた。オバマ氏は、こうした政府のプライバシー侵害を行き過ぎと厳しく非難している。インターネットでもそうした主張は強く、スパムメールなどへの法的規制強化を求めている。

 もっともユニークな主張は、電子政府に関する施策だろう。同氏は、行政機関の情報公開をより広く・深く行うために、より中立的なフォーマット(8)を採用すべきだと主張し、また、政府にもCTO(最高技術責任者)を設置して、統括的な情報システムの整備を行うべきだと述べる。

 このほか、医療分野では電子カルテなど情報システムの普及を求めるほか、著作権問題やパテント制度の見直しも提唱している。

 こうした一連の細かいIT政策は、ジュリアス・ゲナコウィスキー氏(Julius Genachowski)のアドバイスにもとづいている。同氏は、オバマ候補とはロー・スクール(法学校)時代からの友人でベンチャー・キャピタリストとして活躍している人物だ。つまり、ワシントンの技術系ロビーストなどではなく、民間人が市民の立場から立案している。

 ワシントンの古参から言えば、このハイテク政策はマニフェスト(選挙公約)として失格だろう。しかし、とかく曖昧でわかりにくい政治公約とは違い、市民、特にハイテク系企業人にはわかりやすい内容だ。政府にCTOを置くのは「突拍子もない」といった異論があるにせよ、そうした率直なメッセージはオバマ氏の清廉潔白なイメージに結びついている。



(4) 同氏はCAP(Center for American Progress)のフェローで、カリフォルニア州立大バークレー校の科学技術系アシスタント(Special Assistant to the Chancellor for Science and Technology at the University of California at Berkeley)でもある。

(5) 新聞、テレビ、ラジオは、大手による買収・寡占化が進みすぎると公平な言論や報道ができなくなる。そのため地域やメディアに応じて買収できるテレビ局数などを制限する。これをメディアの資本集中排除規制と呼んでいる。米国では、民主党が同規制の運用を厳しく行う一方、共和党は緩和を指向する。

(6) NHKの受信料支払いは法律で義務づけられている。そのため日本では公共放送に不満があっても、支払い拒否は法律違反となる。一方、米国の公共放送は一般市民からの募金で運営されている。そのため地域市民は募金という形で、公共放送の運営に一定の影響を与えることができる。

(7) ペアレンタル・コントロールとは、パスワードを設定して子供が自由に有害番組を視聴できなくするシステム。CATVや衛星放送ではSTBに、地上波ではTV受信機にセットされる。ただ、認知度は低く、広く利用されているとは言い難い。

(8) これは、マイクロソフトのワードやエクセルなどのフォームではなく、ODF(Open Document Format)などを指していると推定される。


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