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小池良次 米国発、ITトレンド

− 第44回 −

新たなサービス開発モデルをめざし
放送・通信のオープン化にゆれ動く米国CATV、携帯業界

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激しい言葉を浴びせるケビン・マーチンFCC委員長

CATV業界に対して厳しい言葉を浴びせるケビン・マーチンFCC委員長(CES2008、筆者撮影)

 では、なぜCATV業界はネットワークのオープン化に向かって歩み出したのだろうか。米国政府、つまりFCC(連邦通信委員会)の厳しい行政指導(Open Cable政策)が直接的な理由だろう。

 FCCは2007年後半、ネットワークのオープン化や番組販売方式の柔軟化(アラカルト方式導入)など、CATV業界に対する一連の行政指導を強化している。皮肉にも、ブライアン・ロバーツ会長がオープン宣言をした同じ全米家電ショーで、FCCのケビン・マーチン委員長はCATV業界に改善を求めている。

 同氏は、CATVのオープン化、通称"Open Cable"政策に関して「昨年(2007)、CATV業界がようやく同規制に対応する重い腰をあげた」と指摘し、今後も積極的にオープン化を指導すると明言した。その理由について「電話にせよインターネットにせよ、あるいは情報家電にせよ、技術改革と競争のおかげで料金は安くなった。唯一の例外がCATVだ。通信法が改正(1997年)された時から比べると平均利用額は2倍にも達している。これは異常な状況だ」と厳しい口調で述べている。

 このOpen Cable政策は、1996年に改正された米国通信法に端を発する。同法は629条(Section 629 )(3)で、マルチチャンネル・ビデオ・プログラミング(CATV、IPTV、衛星放送など)に対して端末の開放を定めている。そのためFCCはケーブルカード(CableCARD (4))の導入などを過去10年にわたって指導してきた。しかし、CATV業界は、技術的・財政的な問題を訴え、Open Cable政策に激しく抵抗した。その一方で、CATVの平均料金はインフレ率を超えるペースであがったため、消費者団体を中心に同業界への非難が高まっている。FCCもしびれを切らし、昨年夏(5)を期限に大手CATVに対しOCAP(OpenCable Application Platform (6))などの開放規格実施をせまっている。

 ちなみに、ネットワークの開放と平行して、FCCは番組の販売方法についても改善を求めている。現在、CATV各社は基本契約に加えて、スポーツ・パッケージなどいくつかの番組を抱き合わせたプランを販売している。消費者は、見たいチャンネルがひとつでも複数のチャンネルを購入しなければならず、割高となる。このパッケージ・プランはCATVの利用料金上昇を促しているとして、消費者は不満を示している。FCCは、好きな番組だけを購入できる「アラカルト・プラン」の導入をCATV各社に求めている。(7)



オープン化へ、苦渋の選択をしたベライゾン・ワイヤレス

 一方、2007年11月27日、携帯業界第2位のベライゾン・ワイヤレス(6,571万加入、2007年Q4現在)も、同社ネットワークのオープン化を宣言した。もっとも閉鎖性が高いといわれる同社はオープン化に至るまで二転三転と態度を変えており、このオープン化が苦渋の決断だったことを推測させる。

 米国では、アナログTV跡地(700MHz)の無線事業免許を交付するため、2008年1月からオークションが始まっている。このオークションルールで連邦通信委員会(FCC)は、一部の免許(Cブロック)にネットワークのオープン化を義務づけた。これは携帯電話におけるネットワークのオープン化をめざすものだ。


700MHzアナログTV跡地の競売マップ

 オークションルール発表当初、オープン化に賛同していたベライゾン・ワイヤレスは、2007年9月に態度をひるがえし「同義務はFCCの越権行為だ」として、ルール修正を求める裁判を起こしている。しかし、そのすぐ後で「法廷闘争によるオークション実施の遅れは好ましくない」として、裁判を取り下げた。そして11月末、今度は逆に、携帯ネットワークのオープン化を発表した。

 なぜ、ベライゾン・ワイヤレスは態度をなんども変更したのだろうか。おそらく、同社内で「閉鎖的な戦略グループ」と「オープンな戦略グループ」が激しい主導権争いを展開したためだろう。オープン化はそれほど、同社の戦略にとって大きな決断だった。

 米国の携帯電話会社は、コンテンツやサービスを自社だけで囲い込む"ウォールド・ガーデン"戦略を得意としてきた。日本の携帯業界では勝手サイトによるサービスが、オフィシャル・サイトよりもはるかに多い。一方、米国では勝手サイトを認めず、プロバイダーが公式サイトにサービスを供給することも難しい。実際、日本では以前から可能だった携帯による銀行口座照会などが、米国では最近ようやく実現されている。

 これは競争力の強いコンテンツ・プロバイダーが勝手サイトでサービスを展開すると、携帯電話会社の収入がへるためだ。携帯電話はネットワークに巨大な投資を続けており、"ネットワークのただ乗りは許さない"という根強い意識があるためだ。反面、こうした戦略は携帯サービスの充実・普及を阻害した。

 ウォールド・ガーデン戦略をゆるがす転機は、RIM(Research In Motion)社Pearl(ブラックベリー・シリーズ)やアップル社iPhoneのヒットとともにやってきた。Pearlは、企業向けに用途が限られてきたスマートフォンを、一般大衆向け商品に変え、一般消費者が高度なメールやブラウザを求めていることを証明した。

 また、アップル社のiTunes/iPod/iPhone戦略はコンテンツの調達から携帯端末までを統合する新しいビジネスモデルを提供し、従来の音楽携帯を"不便で格好悪いサービス"に追いやった。皮肉なことだが、AT&Tがベライゾン・ワイヤレスとの競争に勝つため、iPhone販売でアップルと提携した賭けは「オープン端末・オープンアプリケーション」というパンドラの箱を開けたことになる。AT&Tはいまや、iPhone以外の端末でもオープン化を求められている。

 では、オープン化によって、ベライゾン・ワイヤレスのビジネスはどう変わるのだろうか。ユーザは、ベライゾン・ワイヤレス社の認証試験に通った端末であれば、どこで入手したかに関係なく携帯電話契約を結ぶことができる。これは携帯電話だけでなく、パソコンや電子ブックなどでも構わない。


パナソニックのWi-Fi内蔵デジタルカメラ LUMIX (CES2008、筆者撮影)

 こうした組込みデバイスの例としては、最近アマゾン社が発売した電子ブック"Kindle"が有名だ。これはスプリント・ネクステル社(米携帯第3位)の携帯データ・サービスが組み込まれており、簡単な操作でアマゾン社のサーバに接続し、電子書籍をダウンロードできるようになっている。また、今年の全米家電ショーでは、パナソニックがWi-Fi対応デジカメLUMIXを展示した。これは、T-Mobile USAのホットスポットやWi-Fiホームネットワーク経由で写真をグーグル社のPicasa Web Albums(写真共有サービス)に直接投稿できる試作機だ。ベライゾン・ワイヤレスは、ネットワークの開放によって、多彩な組込み端末の開発促進を狙っている。

 一方、携帯アプリケーションで競争力強化が求められている同社は一般のソフト・デベロッパが自由に携帯アプリケーションを開発・搭載できるようにする。たとえば、アップルのiPhoneが登場し、ベライゾン・ワイヤレスが独占的にサービスを提供している音楽携帯は競争力を失った。オープン化すれば、マイクロソフトやMTVなど様々な企業が、優秀な音楽アプリケーションを提供するだろう。そうなれば競争効果によって、サービスの質も上がり、価格も下がる。その中にはiPhoneを超えるサービスも生まれる可能性がある。

 同社は、オープン化にともない"Open Development Initiative"を設立、2008年3月にはニューヨーク市でオープン・デベロップメント会議を開催してアプリケーション開発者への支援を強化している。また、先頃、グーグル社が発表したオープンソースの携帯OS(8)“アンドロイド(Android)”に同社は大きな期待を寄せている(9)。同OSはオープンソースで、非常に廉価な開発環境を広く提供しようとしているためだ。



グーグル社が発表したオープンソースの携帯OS“アンドロイド(Android)”


(3) 同条項では、ネットワークのオープン化と双方向サービスの実施を求めている。

(4) ケーブルカードはSTBやDVR、テレビなどに取り付けるPCMCIAカード。同カードのなかにユーザ承認機能やサービス・グレードなどの顧客情報をのせ、CATVネットワーク側から認証できるようにする。

(5) 2007年7月にOCAPなどの実施をFCCは求めた。FCCはコムキャストに対して非常に厳しい態度を取る一方で、ベライゾン・コミュニケーションズなどいくつかの事業者に猶予期間を与える決定もおこなっている。

(6) OCAPはCableLabsが定める双方向サービスに関する規格。端末の認証なども含んでいる。

(7) アラカルト・プランが導入されれば、番組料金の値段はさがる。CATV各社は、それを補うため広告付きVODの拡張など、様々な対策を検討している。

(8) 携帯電話には、ハードやソフトを管理するためのOSが乗っている。これは組込み式と汎用タイプに分かれる。多くの端末は組込み式で、自由にアプリケーションを開発して載せることができない。一方、携帯OSと呼ばれる汎用OSは開発ツールを使って、自由にアプリケーションを開発して携帯端末にのせることができる。

(9) もちろん、シンビアンやブルーといった従来の携帯OSもサポートしている。


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