ページの先頭です
本文へジャンプする
ビジネスに役立つ「次の一手」をあなたに
Wisdomブログ
ビジネス用語辞典

ここからサイト内共通メニューです

ここから本文です
サイト内の現在位置を表示しています

小池良次 米国発、ITトレンド

− 第42回 −

空前の規模でケータイ業界に挑戦する
アンドロイドとグーグルの通信事業戦略

4/4ページ     << 前のページへ     1  2  3  4      

全文を印刷


G-Phoneと広告モデル

 グーグルがネット広告の覇者として君臨しているため、ちまたではG-Phoneが「広告ベースの無料端末」になるのではないかと騒がれている。これはテレビのように、広告を見る代わりに無料でサービス(この場合は通話やデータ)を受けるビジネスモデルだ。一方、アンドロイドの生みの親でもあり、グーグルのモバイルプラットフォーム部門を統括するアンディ・ルビン(Andrew Rubin)氏はこうした方向性を否定する。彼は各種媒体のインタビューやブログなどで「広告ベースの無料端末は現実的でない」と繰り返し述べている。

 筆者も、広告ベースの無料端末の経済性には疑問を持っている。これは、ちょっと数字のお遊びをすればわかる。業界団体CTIAの集計によれば、米携帯業界(2006年)の売上げは約1254億ドル(約14兆円)、総加入者数は2億3300万人、1ユーザーあたりの月額平均料金は50.56ドルとなっている。では、グーグルの携帯加入者(2010年前後)をAT&Tモビリティ(業界トップ)の約半分と想定すると、約3000万契約、年間売上げは、

業界平均利用料x12ヶ月x3000万加入= 182億ドル

 となる。日本円にして約2兆円だ。また、荒利率をAT&T並(約7%)に考えた場合、売上げの93%は人件費、運営費、設備投資、販促費用、税金などに飛んでゆく。つまり、3000万契約のネットワークを維持するには、ざっと年間170億ドルぐらいは費用が掛かる計算になる。

 一方、モバイル広告市場はこうした出費を支えられるほど大きくはない。調査会社Ovum Ltd.のレポートによれば、同市場は4500万ドル(2005年)から将来12.6億ドル(2009年)程度に成長すると予想している。また、比較的大きな数字を出しているKelsey Groupでも14億ドル(2012年)程度と推定している。

 このように事業規模と広告規模の数字がひと桁違うことを考えれば、携帯広告だけでグーグルが目指すような「ブラウザ機能をフルに生かした次世代携帯サービス」は実現できないことがわかる。

 しかし、広告による“無料化”は無理があるとしても、グーグルがG-Phoneで携帯広告を活発に展開することは間違いない。それは、グーグルが「Image-based Contextual Advertisement Method and Branded Barcodes」「Advertisements for Devices with Call Functionality Such as Mobile Phones」「Image Base Inquiry Systems for Search Engines for Mobile Telephones with Integrated Cameras」など次々とモバイル広告関連の特許申請を行っているからだ。

 穏便なビジネスモデルを考えれば、つぎのようなプランが予想できる。

  •  1. オープンソースである『アンドロイド』により、スマートフォンの開発費を押さえ、端末を安く提供する。
  •  2. 広告ベースで、月額の通話料金を安くし、加入者の増加をねらう。
  •  3. 資金援助を通じて、アンドロイド上で動くアプリケーションを増やし、G-Phoneで多用なサービスを実現する。
  •  4. グーグル自身は、サービスプラットフォームを支配して、G-Phoneベースの有料サービスを提供し、サービス収入の拡大を狙う。

 つまり、(1) 広告収入、(2) 月額利用料、(3)サービス収入、という3本立てがもっとも妥当な線と思える。

 しかし、グーグルは常に意表を突くビジネスを展開してきた。携帯ビジネスでも、最初は極端に安い端末や料金を提示するなど、収支的にあわなくても話題作りを行うかも知れない。だが、そうした奇策を続ければ、収益がさがり、株主や証券アナリストたちからの厳しい批判を受けるだろう。長期的に見た場合、3本柱の安定路線は重要度を増すに違いない。

 この3本柱のうち、もっとも興味をそそられるのが、サービス収入だ。グーグルは最近、様々な通信ベンチャーを買収している。たとえば、同社は今年に入ってグランドセントラル社(GrandCentral、7月)やジャイク(Jaiku、10月)を買収している。「生涯ひとつの電話番号」サービスとして有名なグランドセントラルは、IP-PBXサービスを一般向けネットサービスとして提供しているユニークな会社だ。同社の買収は、携帯ビジネスだけでなく、インターネット電話(VoIP/SIP)の分野にもグーグルが関心を持っていることを示している。つまり、携帯と固定電話の抱き合わせサービスを模索しているように見える。また、ジャイクは、携帯向けマイクロブログィング(8)を提供しており、典型的なオープンプラットフォーム型サービスと言える。

 グーグルが携帯ビジネスに広告を持ち込むことは、当初から予想されたことだ。逆に、グーグルの通信戦略がおもしろいのは、従来の「通話していくら」という課金モデルをこえて、インターネットが様々なサービスで華盛りなように、携帯ビジネスでも、サービスビジネスを拡大させようとしている点だ。通信業界の流行語で言えば「プラットフォームビジネス」を狙っているということになるのだろうか。グーグルの狙いは、アンドロイドというMobile OSをベースにした「サービスプラットフォーム(サービス基盤)ビジネス」を押さえることにある。アンドロイドが普及し、そのサービス基盤を押さえれば、キャリアや端末メーカーに大きな影響力を行使することができるだろう。(9)

 次に、アンドロイド端末の展開戦術に触れてみよう。グーグルは米国内と米国外では違う戦略をとるかも知れない。オープンハンドセットアライアンスのメンバーには、米国最大手のAT&Tモビリティとベライゾン・ワイヤレスが参加していない。両社は、クローズドプラットフォームを堅持するため、当面はアンドロイドの普及状況を静観するだろう。一方、トップ2社を追う立場のスプリント・ネクステルとティー・モバイルは、アンドロイドを突破口としたいだろう。2008年下半期に登場するG-Phone(アンドロイド端末)では「AT&Tモビリティ/ベライゾン・ワイヤレス」対「スプリント・ネクステル/ティー・モバイル」という端末競争が展開されるだろう。

 その一方で、グーグルは、様々なテレコム・ベンチャーの買収を積極化させて、アンドロイドを展開するためのサービスプラットフォーム支配権を狙うはずだ。携帯だけでなく、インターネット電話などにまで広げ、有線・無線通信の両方をサービス面で統合する一方、ユーチューブなどのビデオ資産をテコに、ネットテレビでのサービスも模索する可能性がある。皮肉な話だが、マイクロソフトがWindowsOSでパソコン業界における独占的な地位を確立したように、グーグルがサービスプラットフォームビジネスを支配すれば、独占的な地位を築くことになる。

 米国以外の市場を見ると、まず日本はKDDIとNTTドコモがオープンハンドセットアライアンスのメンバーになっている関係から、両社とも既存端末と並行してG-Phoneも提供すると予想できる。興味深いのは、ソフトバンクモバイルがメンバーに入っていないことだろう。その真意はわからないが、筆者の憶測では「グーグル対ヤフー」というネットビジネスでの競合関係が影響しているように思える。ソフトバンクモバイルは大きくふたつの選択肢がある。単純な対策としては、当面静観し、アンドロイドが人気を呼べばG-Phoneの提供に踏みきる方向だ。逆に、本家ヤフーと組んで、G-Phone端末の対抗版を開発し、投入するということも考えられる。そうなれば「ドコモ/KDDI」対「ソフトバンクモバイル」という対決構図もあり得る。

 なお、オープンハンドセットアライアンスのメンバーには、テレコム・イタリアとテレフォニカが顔をそろえている。両社とも、ラテンアメリカ諸国(スペイン語圏)に強いキャリアなので、南欧・中南米などでG-Phoneの普及が進む可能性は高いだろう。欧州の携帯事業者がG-Phoneにどう反応するか、その動向はまだ見えていない。欧州の大手であるボーダフォン、オレンジなどが、メンバーになっていないからだ。

 話をまとめよう。グーグルは当面、米国内で業界3位および4位と提携してG-Phoneの販売・普及を進める一方、アンドロイドを通じてサービスプラットフォーム部分の覇権を狙う。700MHz無線免許の取得に成功すれば2010年あたりのサービス開始を狙って、独自のオープンプラットフォーム網整備を進める。もし、2010年あたりまで、グーグルの業績が悪化していなければ、どこかの時点でスプリント・ネクステル社を買収して、携帯ビジネスを一気に拡大するという可能性も高まるだろう。そうなればヤフーやマイクロソフトなどを巻き込み、米国のネット・携帯業界は再編の動きが加速するだろう。

 一方、グーグルは欧州・アジアの主要キャリアと提携し、G-Phoneの普及を進めるだろう。将来的には、世界中でG-Phoneのサービスプラットフォームを支配し、キャリアや端末メーカーに対して優位な立場を築くことを狙うだろう。

◇◇◇

 ここまで、アンドロイドを通じて、グーグルの通信戦略を分析したが、忘れてはならない『懸念』もある。

 現在のインターネットが、スパムメールやバイラス、マルウェアなどにあふれ、その弊害に企業も個人も相当の時間と損失を被っている。グーグルがオープンプラットフォームを携帯業界に持ち込めば、スパムやバイラスに悩まされる日々が携帯電話にも広がるだろう。グーグルによって“パンドラの箱が開く”ことになる。また、グーグルの携帯事業に対して批判的な意見もある。同社は消費者団体や一般市民から「個人情報を収集し、広告主に売り渡す」スパイ企業という根強い不信感をもたれている。バイラス問題などが表面化すれば、こうした抵抗は強まると思われる。

 もうひとつは、グーグルが凋落する可能性だ。通信事業は長期的に安定した企業が生き残ってきた。今は、その業績に一片の陰りもないグーグルだが、電話事業者の長い歴史に比べれば、長期的に安定した企業というレベルにはない。

 一方、米国では「大統領選挙の年に不況なし!」と言われる。不況になれば、選挙戦で現役大統領陣営が苦戦するからだ。しかし、現在の米国経済は、サブプライム問題と巨大な財政赤字という爆弾を抱えている。これに大統領選挙の後は、戦後処理(中東からの米軍撤退問題)も絡んでくる。そのため、2009年あたりに米国経済が失速することを多くの専門家が懸念している。そうなれば、2000年から2004年の経済不況が、多くのネット事業者を廃業に追い込んだように、グーグルにも大きな打撃が襲うだろう。そうしたときに、携帯網の建設という長期的な投資プロジェクトは、グーグルの命取りになるかも知れない。

 本稿では、ユニークなグーグル社を分析するということもあり、やや誇張された表現があることをお許し願いたい。とはいえ、アンドロイドを発表し、グーグルは一世一代の賭けに踏みきったことは確かだろう。さて、これが“吉”と出るか“凶”と出るか。結果がわかるには2年〜3年の歳月が必要だ。


(8) マイクロブログィングのパイオニアはTwitter社。つぶやくような、ショートメッセージを入力すると知人や友人に届くサービス。ジャイク社のサービスは、携帯版で『Mova Twitter』にあたる。

(9) グーグルは2007年11月12日に、アンドロイド開発チャレンジ(Android Developer Challenge)を発表している。総予算は1000万ドル(約11億5000万円)。アンドロイドをベースに優れたモバイルアプリケーションを開発する企業や個人に2万5000ドルから27万5000ドルまでの賞金を提供する。こうしてグーグルは、オープンソースの力を利用しながら、モバイルアプリケーションの充実をはかっている。

関連情報

モバイル活用ソリューション

ユビキタス社会では、市場の変化が一層加速するため、経営のスピードが求められます・・・続きを読む


4/4ページ     << 前のページへ     1  2  3  4      

全文を印刷


ID・パスワードをお忘れの方

記事のご意見を聞かせてください。

この記事はいかがでしたか?


ご意見・ご感想などをお気軽にお寄せください。

注意個人情報保護』、投稿に関する『要綱』に同意の上、送信ください。
注意お返事は差し上げておりません。
注意ご提供いただいた情報は、弊社における個人情報保護に準じた取り扱いをいたします。

このページで入力された内容は、暗号により保護された通信(SSL)でサーバに送られます。

ここまで本文です
ページの終わりです