− 第42回 −
空前の規模でケータイ業界に挑戦する
アンドロイドとグーグルの通信事業戦略
アンドロイドはオープンプラットフォームを目指す
アンドロイドと他の大手Mobile OSを比較すると、そのきわだった違いは、オープンソース・プロジェクトを採用している点だろう。オープンソースであるため、開発者はアンドロイドをベースにネイティブなアプリケーションを開発することができる。また、アンドロイドの開発・管理をおこなうOHA(Open Handset Alliance)は、大手通信事業者、携帯端末メーカー、ソフト開発など有力な企業が顔をそろえている。こうした陣立てを見ると、グーグルは閉塞的な携帯ビジネス・モデルに大きな変化を持ち込もうとしている。狙いは、携帯ブロードバンド網のオープンプラットフォーム化に違いない。
現在の携帯電話網は、典型的なクローズドプラットフォーム(閉鎖的な網設計)になっている。NTTドコモにせよ、KDDIにせよ、ユーザーはその携帯事業者が指定した端末しか使えない。もちろん、携帯網にテレビや音楽端末などをつなぐこともできない。また、携帯電話網では一般企業が自由にサービスやアプリケーションを開発できない。写真付きメールのようなネットワーク・ネイティブなサービスを一般企業が発案しても、携帯事業者が同意しない限り実現しない。もちろん、好きなメーカーのブラウザやメールソフトを選ぶこともできない。携帯電話では、音楽ダウンロードやモバイルコマースなどのサービスが、制約だらけの携帯ホームページに閉じこめられている。

一方、オープンプラットフォームを実現したインターネットはどうだろうか。インターネットでは、パソコンやカーナビ、音楽端末、テレビなど様々なデバイスを自由につなぐことができる。(2) また、インターネットでは、企業や個人が自由にアプリケーションを開発し、様々なサービスを提供できる。もちろん、通信である以上IPプロトコルというルールは守らなければならないが、様々なプログラムコードを使って文字・写真・ビデオ・音声・ソフトウェア・ゲームなどあらゆるタイプの情報サービスが提供できる。
こうしたオープンプラットフォームの思想は、最近少しずつ携帯業界を浸食している。たとえば、アップルは「iPhoneの開発ツール(SDK)を2008年2月に公開する」と発表している。この開発ツールを使えば、プログラマーはiPhoneネイティブなアプリケーションを開発して搭載する(3) ことができる。また、携帯業界第3位のスプリント・ネクステル社は最近、カリフォルニア州のユーザーに対し、携帯端末のロック解除に応じる姿勢を見せている。これは同州のユーザー集団訴訟に対する和解案に盛り込まれている条件で、スプリント・ネクステルは解約するユーザーに対してロック解除に応じる。これによりユーザーは、端末を買い換えずに他社へ移る(4) ことができる。
グーグルは、このようなオープンプラットフォームという“インターネット的なネットワーク環境”を携帯に持ち込もうとしている。その先鋒がアンドロイドと言えるだろう。そう考えれば、アンドロイドをオープンソースとして公開し、誰でも自由に携帯アプリケーションを開発できるようにした理由がわかる。つまり、アンドロイドはインターネットと同じように好きなサービスを開発できるMobile OSとして世に送り出されたわけだ。
しかし、米国のどこをさがしても、オープンプラットフォーム的な携帯事業者は存在しない。逆に、AT&Tモビリティ(米携帯業界トップ)にせよ、ベライゾン・ワイヤレス(同2位)にせよ、クローズドプラットフォームを経営の基本にしている。では、どうやってグーグルは、アンドロイドに適したオープンプラットフォーム環境を実現するのだろうか。同社はどうやら「自分でオープンなネットワークを作ろう」と考えているようだ。それは現在米国で進行している700MHz無線免許オークションに関係したグーグルの動きと密接に結びついている。
グーグルは携帯電話会社になる?
今年、FCC(連邦通信委員会)や大手電話会社、CATV事業者は、700MHz無線免許の競売ルールでグーグルに振り回され続けた。米国では、無線事業免許を競売方式で交付する。2009年2月に停波するアナログテレビ周波数の跡地も、携帯ブロードバンド向けに競売(2008年1月実施予定)で再割り当てをおこなう。これを700MHz第2次競売と呼ぶが、3.9世代携帯データ(第4世代と呼ぶ場合もある)を実現するための重要な周波数帯と予想されている。

こうした背景から、この競売では大手携帯事業者やCATV事業者、衛星テレビ事業者が激しい競売戦を展開すると予想されてきた。ちなみに、米国では大手CATV事業者が携帯ビジネス(端末再販)に参入しているほか、衛星テレビ会社も携帯電話事業に関心を示している。
この流れに対して、グーグルは、「電話事業者やCATV事業者はすでにブロードバンド網(DSLや光ファイバー、ケーブルモデムなど)を持って」おり、彼らが700MHz免許を得てもブロードバンド市場の「競争は促進されない」だけでなく、ブロードバンドが大手に牛耳られ「ネットワークの中立性が脅かされる」と主張し、同競売から大手通信事業者を排除(5)するようにFCCに陳情したのだ。
また、新規参入者が広域サービスをできる“全米一括免許”や“オープンプラットフォーム(デバイス、アプリケーションの自由化)”を競売ルールに盛り込むように求めて活発にロビー活動を展開した。こうしたグーグルの主張に、大手電話会社やCATV会社は大慌てで反論をくりひろげ、FCCの競売ルール作りは大混乱となった。結局、大手の排除は実現しなかったが、2007年8月に発表された競売ルールでは、部分的に「全米一括免許」や「オープンプラットフォーム」義務が盛り込まれることになった。
グーグルは、自らオークションに参加する姿勢を示しながら、様々な注文をFCCに突きつけてきた。また、通信業界も、これだけの騒ぎを起こしていながら、グーグルが「オークションに参加しないのは不自然」と考えており、グーグルのエリック・シュミットCEOも競売参加を強く臭わせる発言をしている。本原稿を執筆している現時点で、グーグルはオークション参加を表明していない。しかし、FCCは、2007年11月28日から第2次700MHz免許の参加申請を受け付ける。グーグルの参加表明は時間の問題だろう。そうなれば、グーグルは検索エンジン・プロバイダーから携帯電話事業者へと一歩踏み出すことになる。
やや専門的になって恐縮だが、グーグルが狙っている周波数帯も予想できる。米国の無線免許は普通、地域と周波数を細かく分けて競売に掛けられる。グーグルは、第2次700MHz競売のなかでも、上位700MHzCブロック(746〜757/776〜787 MHz)に集中して応札するだろう。同ブロックはグーグルが主張したオープンプラットフォームが義務づけられており、しかも帯域が22MHzと広いため無線ブロードバンドに適している。このブロックの最低落札価格は46億ドル(約5,000億円)だが、業績好調のグーグルにとっては十分に調達できる金額だ。(6)

(2) これをネットワークにおける「端末開放」と呼んでいる。典型的な例が固定電話で、電話会社は壁に電話ジャックしか設置しない。ユーザーは、電話ジャックに電話機、ファックス、パソコンモデムなど好きな端末を取り付けることができる。
(3) これにより、iPhoneは通話機能付きPDAから、ようやくノキアやサムスン、RIMブラックベリーなどと肩を並べるスマートフォンに脱皮できるだろう。
(4) 移る先は、スプリント・ネクステルと同じ通信方式(CDMA)に限られる。米国でいえば、ベライゾン・ワイヤレス社やオールテル(Alltel)社など。
(5) ちなみに、日本の700MHz跡地*に関する免許交付ルールでは、3G事業者が排除された。これによりNTTドコモやKDDI、ソフトバンクは、直接免許申請をすることができず、それぞれパートナーを組んで免許申請を行っている。
*700MHz跡地と書いたのは誤りで、同記載は2.5GHz帯の誤りです。読者の皆様に誤解を与えたことを深くお詫びするとともに修正させて頂きます。小池良次(2008/1/10)
(6) 当初、グーグルは他社とパートナーを組んで競売に参加するだろうと噂されていたが、最近は単独で応札との観測が主流になっている。

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