− 第39回 −
NGNのミッシング・リンク
〜次世代企業テレフォニーを追う〜
このところ通信業界ではNGN(次世代通信基盤)議論が盛んだ。欧米や日本では、携帯テレビ放送やIPTVなど「放送と通信の融合」に注目があつまる一方、そうした新サービスの担い手としてNGNが持て囃(はや)されている。しかし、NGNにはもうひとつの重要な側面がある。それがWebサービスを基調とする「通信とアプリケーション」の融合だが、この側面はあまり注目されない。本コラムでも以前、NTTのNGNプロジェクトを分析したが、その際も「Webサービスに関する議論が欲しい」と述べた(第28回「日米比較によるNTTの次世代ネットワークを分析」)。やや大げさに表現すれば、通信とアプリケーションの融合サービスは『NGNのミッシング・リンク(死角)』となっている。そこで今回は、企業テレフォニーの最近状況を追いながら、NGNと企業コミュニケーションの融合を追ってみたい。
企業システムにおける次世代IP電話
2006年2月、米国の企業テレフォニー大手Avaya社と中堅のSphere Communications社(1)が相次いでSOTAs製品を発表し、米IP-PBX業界ではWebサービス旋風がにわかに巻き起こった。SOTAsとは『service oriented telephony architectures』の略称で、その名が示すとおり、WebサービスやSOA(サービス指向アーキテクチャー)を使ってデータ系と通信系アプリケーションを融合させる次世代アーキテクチャーだ。これはまた、NGNと企業コミュニケーションを結びつける重要な役割も担っている。本稿ではこの動きを追って、企業ネットワークにおけるNGNの役割を考えるわけだが、まず、その前提となる企業テレフォニーの流れを押さえてみよう。
企業テレフォニーは1980年代から約20年間、PBX(構内交換機)とタンデム交換機(2)の時代が続いた。当時、電話と言えば、各拠点にPBXを設置し、音声通話のために専用線を利用するのが一般的で、大企業のテレフォン・ルームはカラフルなケーブルが「ところ狭し」とうねり、PBXのファンの音がうるさかった。
また、1990年代に入るとサーバやデスクトップから電話機器を操作するコンピュータ・テレフォニーが隆盛した。これは、Microsoft社のTAPI(Telephony API)やNovell社およびLucent社のTASPI(Telephony Server API)、Sun MicrosystemsのJTAPI(Java Telephony API)など各社がそれぞれ独自のインタフェース(Local API)を使っていたため不便ではあったが、それでも電子メールやボイスメールと留守録やファックスの統合が注目を浴び、グループウェアの多機能化も促した。しかし、通信事業者側から見ると、音声信号は基本的に公衆電話網(PSTN)に依存しており、電話網とコンピュータ網は別々のシステムとして扱われた。

今世紀にはいるとCisco Systems社やAvaya社などがVoIP(Voice over IP)技術を使ったIPフォンを積極的に売り始め、データ網で音声信号を処理するIP電話時代にはいる。この第1世代IP-PBXは、電話用専用線や固定電話網を迂回し、企業の通信コスト削減に大きく貢献した。TAPIやTASPIなどと違い、プラットフォームに依存しないH.323、MGCP、SIPといった標準規格をベースに、Cisco社のSCCP(Skinny Call Connection Protocol)や、Avaya社のCMAPI(Communications Manager API)などが開発され、PBX並の高度な企業電話サービスが実現できるようになった。特に、軽量で汎用性に富むSIP(Session Initiation Protocol)は、ビデオ会議システムやIPTVなど通信サービスのマルチメディア化に大きく貢献した。
ちなみに、多くの企業は2000年問題を憂慮して旧世代のPBXを1990年代末に購入したため、IP-PBXへの移行が遅れたが、更新期(2004年移行)に入るとIP-PBXが急速に普及している。
ただ、この第1世代は各拠点にIP-PBXを設置し、VoIPで相互通話をおこなう形式であり、システム・トポロジー的には従来のPBXシステムとかわらない。電話番号やディレクトリ、メッセージング機能は各拠点のIP-PBXに分散し、全社的な統一サービスを提供するには高度な管理技術が必要になる。また、運営管理や保守サービスも拠点毎に行う必要がある。こうして見ると、第1世代IP-PBXは、安いデータ回線(VPNなど)を使って通信料金の削減には成功したが、運用効率面では旧PBXシステムと本質的には変わらなかった。

(1) Sphere社は2007年6月、NECに買収されている。
(2) クラス4交換機とも呼ぶ。電話網の幹線を結ぶために利用される交換機のこと。

-
NEC Business Solution News (毎週水曜日配信)
NECのイベント・セミナーやプレスリリースなど、最新情報を、メールでお届けします。

-
お客様が語る導入事例、仕事に役立つビジネス用語解説、NECの製品・ソリューションに関する最新情報を、メールでお届けします。

執筆者 : 小池 良次(こいけ りょうじ)
京都外国語大学卒業後、ブラジルのサンパウロ新聞社に入社、社会面・経済面を担当。その後、帰国し民間調査会社に就職、リサーチャーとして技術動向調査、技術出版など300プロジェクト以上を企画運営する。









