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小池良次 米国発、ITトレンド

− 第34回 −

誰がディズニーを止められるのか
アイガー旋風に揺れる米デジタル・コンテンツ業界

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 ディズニーのロバート・アイガー(Robert Iger)社長は、俳優を思わせる端正な顔立ちにキッチリとスーツを着こなし、いかにも素直そうなジェントルマンの風貌をもつ。とても米メディア業界を圧倒する風雲児には見えないが、同氏が登場して以来、米4大テレビ・ネットワークはネットの番組配信で泥沼の戦いを繰り広げている。競争によって配給が拡大したおかげで、アップル、グーグル、ヤフー、アマゾンなどが競い合って映画やテレビ番組を販売する一方、ユーチューブでは人気番組を使った自作ビデオがあふれかえっている。その影響は、モバイル端末や携帯電話などパソコン以外にも拡大しており、FTTH放送など関連業界も巻き込まれている。今回は、既存メディアの常識を破る風雲児『アイガーCEO』を軸に米国メディア業界のデジタル・コンテンツ競争を追ってみよう。

アニメ再建にデジタル・コンテンツ戦略を活用

ディズニー・コンテンツを通信業界に紹介するアイガー社長(TelecomNext 2006基調講演)

ディズニー・コンテンツを通信業界に紹介する
アイガー社長(TelecomNext 2006基調講演)

 前任のマイケル・アイズナー氏に代わって、アイガー氏が社長兼最高経営責任者に就任したのは2005年10月のことだった。その当時、ディズニーはアニメーション部門の不振という深刻な問題を抱えていた。社内の制作体制はコンピュータグラフィックを駆使したCGアニメ時代に乗り遅れ、人気CG作品を連発するピクサー社との配信契約も終わりを迎えようとしていた。前任のアイズナーCEOとピクサーのスティーブ・ジョブスCEOは契約更新で対立、ジョブス氏がディズニー批判の記者会見を開くという"異例の事態"にまで発展していた。

 そのアイズナー氏が失脚し、トップに立ったアイガー氏はまずピクサー社との関係改善から動き出した。その当時、アップルは音楽のダウンロード販売からビデオへとビジネスの拡大を狙ってハリウッドや4大テレビ局と厳しい交渉を続けていた。アイガー氏は就任直後、子会社であるABCを口説き、アップルのiTunes Music Store(現在のiTunes Store)に人気番組『Lost』の提供を決める。これは大手ネットワークがゴールデンタイムの人気番組をiTunes Storeに供給する皮切りとなるわけだが、その背景には、ジョブス氏がCEOを兼任するアップルに好意的な姿勢を示し、ピクサー社と関係を改善する糸口を狙ったからだ。また、アイガー氏は1974年にABCに入社、1994年には同社の社長兼最高業務責任者に上り詰めた経歴をもち、古巣のABCなら無理がきくと言う読みもあった。

 その翌月、『Lost』につづきESPN、ABC News、Touchstone Television、the Disney Channelなどのグループ各社のコンテンツをアップルに供給する拡大策をディズニーは発表している。このディズニーの動きにつられて、競争相手のNBCも、『Law & Order』『the Office』『the Tonight Show with Jay Leno』『Late Night with Conan O'Brien』と言った人気番組をiTunesに供給(2005年12月)し始めた。こうしてアップルのiTunes Music Storeを舞台に大手メディア間でのコンテンツ供給競争が拡大していった。

 ちなみに、ジョブス氏との関係改善を切望したアイガー氏の意図はかなえられた。また、ピクサー社の主席クリエータ、ジョン・ラスター氏(John Lasseter)の橋渡しがあり、最終的にはディズニーによるピクサー社買収(74億ドル、2006年1月末)へと結びついていった。アイガー氏は同社の買収によってアニメーション部門再建を軌道に乗せたわけだが、新社長がデジタル配信に積極的との評判はグループ全体に浸透してゆき、各部門が競うようにデジタルコンテンツ戦略を拡大することとなってゆく。


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