− 第20回 −
AOL騒動の顛末に見る
米ネットビジネスの光と陰
必死の反撃にでるグーグル
9月中旬、AOLの重役、ジョナサン・ミラーの電話が鳴った。電話の主はグーグルの最高経営者エリック・シュミット。「今、ニューヨークに来ているんだが、ちょっと会えるかな」とシュミット氏は切り出した。こうしてグーグルの反撃が始まった。(注1)
もちろん、同氏がニューヨークにやってきたのは、マイクロソフトとの交渉をつぶすためだ。マイクロソフトとの交渉を聞きつけた同氏は、ジェットを飛ばしてニューヨークに駆けつけミラー氏を捕まえると、すぐさま魅力的な提案を突きつけた。それは、グーグルの検索エンジンを使って、AOLが検索広告を販売するという内容だ。この提案は“グーグルから検索広告を買う”という従来の常識を大きく破るものだ。同社は、検索広告の優位を保つため、広告主を独占してきた。ところが、新提案ではグーグルが黒子となり、 AOLの営業担当者が検索広告を売る。
現在、多くのユーザーがAOLホームページで検索を行っている。実際には、グーグルのサービスを利用してるわけだが、検索結果とともに表示される広告もグーグル社が営業・管理している。グーグルで検索しても、AOLで検索しても同じ広告主のリンクが現れる。今回の契約では、AOLがそれぞれのキーワードを販売し、広告管理も自社で行う。たとえば、"DVD player"と言う単語をAOLで検索すると、これからはグーグルの販売した広告ではなく、AOLが独自に売った広告が現れる。広告主から見れば、グーグル、ヤフー、MSNと言う3大検索広告サイトに、AOLが加わることになる。
一方、グループ内だけでも新聞・雑誌から映画まで多種多様なメディアを持つタイムワーナーだけに、自社の広告営業力に定評がある。AOLが自前で広告営業を展開できれば、大幅な増収がねらえる。こうしてマイクロソフトとグーグルの戦いは、意外な展開を見せてゆく。
10 月になると、AOLを巡るマイクロソフトとグーグルの戦いをメディアが取り上げる一方、ヤフーがAOLのコンテンツを買いたいと交渉を求めてきた。だが、タイムワーナーは、ヤフーが代金として株式による支払いを提案してきたことに懸念をもった。合併後、AOL不振で巨額の損金処理をしたタイムワーナーは、ネット株による支払いに不安を覚えたからだ。ヤフーの提案を断る一方、タイムワーナー経営陣は10月末に、マイクロソフトとの交渉を役員会の議題として取り上げた。役員の一人であるスティーブ・ケイス氏は、この動きに大きく反発した。AOLの共同設立者であるケイス氏は、日頃からAOL部門の経営に不満を抱いており、すぐさま役員を辞任する一方、ワシントンポスト紙にタイムワーナー批判の意見を掲載した。合併後、業績不振を理由にタイムワーナーの経営陣は次々とAOL生え抜きの経営者を更迭あるいは退陣に追い込んできた。ケイス氏は、こうした動きに不満を持つ一方、AOLの行く末を案じて、タイムワーナーをCATV、AOLなど4社に分社することを提案し、経営陣から拒絶されている。このケイス氏の批判は、マイクロソフトにとって大きな懸念となった。
一方、グーグルの追い上げにマイクロソフトも対抗する。合併に意欲を失ったタイムワーナーを相手に、規模を縮小した提案など様々な条件を提示して交渉の打開を図ってゆく。12月に入るとマイクロソフトとグーグルの交渉チームが活発に動き、タイムワーナーは結論を急いだ。この時点で、タイムワーナーのトップは、批判も多く、複雑なマイクロソフト案を嫌う一方、より具体的な成果を示すグーグル案に傾倒していったという。そして、クリスマスを翌週に控える12月 15日、タイムワーナーはグーグルを選ぶ決断をくだした。
グーグルは株式の5%にあたる10億ドルを出資する一方、AOLはグーグルの技術を使って自前の検索広告を展開する。また、グーグルは検索広告を使って AOLコンテンツのプロモーションする。マイクロソフトに競り勝ったとはいえ、5年の独占契約を獲得するため、グーグルは大きな代償をしはらった。











