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小池良次 米国発、ITトレンド

− 第13回 −

カーリー・フィオリーナ辞任にみる
ハイテク業界CEOレースの裏舞台

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 ヒューレット・パッカード社のフィオリーナCEOに“解雇”が言い渡されたのは、2005年2月4日の午後だった。カーリーの愛称で知られる彼女は、 1999年6月“ダウジョーンズ・トップ30社”で「初めての女性CEO」になって以来、業界を越えて注目を浴び続けてきた。その5年半の歳月は、突然の更迭という意外な結末で終わった。

 米国において、CEO(最高経営責任者)の交代は日常的なニュースに過ぎない。とはいえ、経営トップの交代は、それぞれの会社にとって、またその経営者にとって重要な出来事にちがいない。ましてや、初の女性トップとして“希有な存在”だったカーリーだけに、その辞任は米ハイテク業界で繰り広げられるCEO交代劇に大きな波紋を与えた。本稿ではカーリー・フィオリーナ元CEOを軸に、米国の最高経営責任者たちが繰り広げる人間模様を追ってみたい。

役員会とトップ・エグゼクティブの違い

2005年1月の全米家電ショーで引退講演をするインテルのバレットCEO

 米国のハイテク業界を見渡すと、クレイグ・バレット氏のように35年のインテル生活を終え、悠然と引退して行くCEOもいる。しかし、彼のような事例は、珍しいと言えるだろう。逆に、2005年第1四半期の決算発表で辞任を発表した、シーベル・システムズのマイケル・ローリエ氏ような事例が多いかもしれない。シーベル社は、CRM(顧客管理ソフト)ベンチャーとして1990年代に急成長し、一時は時価総額でIBMにつぐ巨大ソフトウェア会社にまで上り詰めた。しかし、CRMブームが過ぎると、業績は急速に悪化し破綻の危機にある。ローリエ氏は、CEOとして再建に奔走したが、業績は好転せず1年足らずで辞任に追い込まれた。

 実際、米国のハイテク業界では、最高経営責任者だけでなく、中堅管理職まで広く他社から人材を募集する。米国では、あまり長く同じ会社にいると「能力がないため、他社に移れない」と、逆に評価を下げることになる。一方、日本では経営幹部が会社を渡り歩きながら、昇進を繰り返すことあまりない。この違いは、どこから来るのだろうか。

 米国では会社の最終意志決定は“役員会(ボード)”が握っている。一方、CEO(最高経営責任者)やCFO(最高財務責任者)、COO(最高業務責任者)と言った経営幹部は、ボードの下で日々の業務をこなす“経営の専門家”と言う地位になる。役員会は、株主の利益を代表し、適切な経営者を社内に招いて、業績を伸ばすことが使命と言える。つまり、米国で会社を支配しているのは役員会であり、日頃、私たちが付き合う経営幹部は会社の運営を任された経営専門家に過ぎない。

 ちなみに、この役員会と経営幹部の意見は、しばしば対立する。たとえば、最近米国のメディアを賑わせている“MCI買収”が良い例だ。同買収では、大手電話会社のベライゾン・コミュニケーションズとクエスト・コミュニケーションズが数ヶ月に渡って争った。買収の過程で、MCIの経営幹部は、堅実な財務体質や相乗効果から、買収額は安くともベライゾンを望んだ。一方、役員会は、クエストが3割以上も高い買収額を示したため、経営幹部の意見を退けて、クエストと「優先的に交渉をする」決定(2005年4月23日)をくだした。これは買収額が高い方が、株主に直接メリットがあるためだ。そこで、ベライゾンは大手株主に巧妙な工作を行い、結局、勝利を手にした(2005年5月2日)。このように、経営的に合理的でも、株主に不利であれば役員会は経営的に不利な決定を行う。会社は「社員の物でも、経営者の物でもなく、株主の所有物である」と言う米国流資本主義は、こうした面に強く現れる。

 もちろん昔は米国でも、経営トップがCEOと役員会議長(Chairman of the Board)を兼任することが多かった。特に、テクノロジー・ベンチャーでは、技術的に高度な知識と判断力が必要なことから、こうした兼任が多い。しかし、バブル時代に不正会計などの不祥事が頻発したため、CEOと議長の兼任を否定する考えが広まっている。大型データベースの最大手、オラクルの創業者 “ラリー・エルソン”氏が、最近議長の肩書きを捨て、CEOだけとなった例は“両者を厳格に分ける”風潮の典型例だろう。

 年功序列制が根強い日本では、経営幹部から役員へと昇格するため、社内役員が中心だが、米国では“社外役員”を置くことで監視の公正さを重視する。特にハイテク業界では、MBA(経営修士)の肩書きを取った後、IBMやHP、アップルなどを数年おきに転職し、中間管理職から経営トップへと上り詰め、最後に役員に招聘されるという経営者のキャリア・スタイルが定着している。逆に言えば、米国では、エンジニアなどと同じように、“経営”を専門技術と捉え、“転職”をベースにキャリア競争が展開されている。そして、キャリア競争の頂点に達すれば、名声とともに巨万の富が手に入る。カーリー・フィオリーナは、このキャリア競争のトップ・ランナーだった。


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