第35回
日比翁助のデパート事業物語
〜自ら新カテゴリーを創造し、フロントランナーになる〜
株式会社三越呉服店(現株式会社三越) 元会長 日比 翁助 氏

「三井呉服店の副支配人になってもらえないだろうか」
1898(明治31)年、三井銀行本店副支配人の日比翁助は、この言葉に自分の耳を疑った。声の主は三井呉服店理事、高橋義雄。高橋は三井呉服店の再建を任せられる人物を推薦してくれるよう翁助の上司である中上川彦次郎に頼みこんでいた。
三井家での大先輩にあたる高橋と聞いたときから何かあるとは思っていたが呉服屋とは。一瞬とまどったが翁助はきっぱりと断った。「ありがたいですが、お受けするわけにはいきません。私は元はといえば久留米藩士のせがれ。侍気質が抜けず商売の道には疎く、おまけに田舎育ち。到底呉服店の番頭が務まる柄ではありません」
高橋も、今や三井の本流を歩む翁助がふたつ返事で聞き入れるとは思ってはおらず、奥の手を使った。「私も水戸の士族の出。君とは同じです。今三井に必要なのは商才のある人物ではない。むしろ士魂を持った人物なのです」高橋のこの一言が翁助の琴線に触れた。翁助は決意を固める。
(2004年3月22日公開)











