− 第3回 −
メディア界とIT
新聞社
ニューヨークと新聞社は深く長い繋がりがある。大手の新聞社がいくつも軒を並べ、有名記者や名物編集者も多くその名を轟かせてきた。スーパーマンは普段はクラーク・ケントとして恋人ロイス・レーンと共に地元の新聞社「デイリー・プラネット」で働く新聞記者だし、スパイダーマンとなって悪と戦うピーター・パーカーは、デイリー・ビューグル社のお抱えカメラマン(ただし見習い同然だが)だ。
クラーク・ケント/スーパーマンが勤務するデイリー・プラネット社のモデルになったNEWS社の旧社屋。スーパーマンはこのビルの窓から飛び立っていく
ニューヨークにはニューヨーク・タイムズの他にも、歴史があり社会的影響力も大きい大手新聞社が幾つもある。また娯楽紙やスポーツ紙、地元の情報を扱うものなど多くの新聞社が存在しているのだが、そんな権威ある新聞社と言えどもやはりITの波は押し寄せてきている。そして彼らはそのような時流の中でいかにして収益を維持し、成長を続けるかの模索を続けているのである。
新聞業界は、古くよりタイプライターが普及していたこともありまた日本のように精緻な組み版を必要としないアルファベットを使用する言語という背景もあり、記事の執筆から編集業務、更には印刷に至るまで、IT化が比較的早期に、そして一気に普及したメディアの一つである。
その上で、現在のように既に一般インフラとして普及したインターネットとそれを取り巻く環境整備による影響としてまず第一に挙げられるのは、自身が運営するサイトとの兼ね合いだろう。購読率の低下とサイトからの収益構造の未確立は未だこの業界にとって大きな懸念事項である。
かつて新聞が他の文字媒体に比べ優位性を保つことが出来ていた一つの大きな理由に、その制作者の水準の高さが挙げられる。
記者も編集者も、長年の経験を持ち十分な訓練を重ねた後に新聞紙上へ寄稿することが可能となるという現在まで連綿と受け継がれているその製作手法は、結果として記事の水準を高度に維持し、要求の高い読者の眼に耐え得るものを作り出し続けることを可能としていた。
ところが、インターネットの普及により、より多くのコンテンツが必要となってきたことでこの状況にかげりが見えつつある。
政治経済などの全国レベルの報道や経済関連などのニュースは、速報性がより高いインターネットニュースサイトの影響を大きく受けることとなっており、一日一回の発刊である新聞社にはなかなかメリットを見い出せず、その意義は低下。
また詳細な情報や分析に関しても、媒体としての容量に制限が無く、リンクなどの手法を自在に活用できるネット報道に明らかに利がある。
このような状況もあり、現在多くの新聞社はより一般生活に密着した地元の情報にシフトしつつある。
これにはより親しみを持ってもらうことにより、新聞離れを防ぐという意味合いと共に、高コストが前提となる世界情勢や政府関連の取材に比べ、地元の記事取材には交通費や宿泊費などをはじめとするコスト削減が可能となると言う側面も大きい。
街で配られるフリーペーパー
各新聞社では上記のような理由に加え、広告の激減により収益が悪化していることもあり、「IT化による効率化」を理由に人員削減を行っている。全体では6割ほど、大手新聞社では8割以上が編集部門の人員削減に踏み切っており、その事が先の質の低下に拍車を掛けているという。
ところがこのような状況に加えネット上のコンテンツ用としてより多くのコンテンツを必要とされることとなったこともあり、既に多くの新聞社の公式サイト内のあまり社会的に重要でない記事や記者によるブログなどには編集者や社としての検閲や校正を経ずに公開されるものも多くなってきた(2)。
また、往来よりも動画や音声を必要とするコンテンツが増えているにもかかわらずその分野の経験も訓練も十分ではない記者によるものが増えてきたため、非常に質が低下したという指摘がある。往来のような高度に訓練された制作者ではない書き手による記事が増えたことで、かえって読者離れとなるのではないかという危惧があるのだ。
新聞社に限らず各メディアが頭を悩ます問題として、自メディアとインターネットの役割分担が挙げられる。
自社新聞紙上に載せられなかったものをネットに掲載というところまではよいのだが、どこからどこまでをネットに掲載させるのか。ページ数に制限のないネットにはより多くのコンテンツを必要とするが、その為に本来紙面上で展開すべきものまでもネットに載せてしまうと、本来の媒体価値を失いかねず、また収益をも圧迫する。
しかしネットにダイジェスト版や見出し程度の内容しか載せないとネットへのアクセスが低下し、結果新聞そのものの購読者数の低下や広告出稿の低下を招く。
新聞に限らず多くの旧来メディアが運営するインターネットサイトでは、収益構造の確保が大きな懸念事項となっており、一刻も早く自社媒体とネットとの役割分担と、それを元にした収益構造の確立が急がれている。しかし先に述べたような理由で、本来の美点であった質の高さを自ら崩しつつある今、その将来展望は明るいものではない。
これまで、その質の高さが一番のセールスポイントであったはずの新聞社は、IT化そのものではなく、それが引き起こした周辺の事象によって質の低下を招き、結果更なる読者離れを引き起こすといった負のスパイラルに入り込んでいるように見える(3)。
そして重要な収入源である広告出稿の面でも電波などの他媒体と共にインターネット関連に大きく圧迫を受けており、今後も収益面では非常に厳しい状況が続くと見られている。
(2) 日本でもある一般新聞社が、不適切な記事をオンラインで流し続け、問題となった。
(3) 読者からの反応やアクセス数だけで判断することにより、トップに芸能やスポーツの記事を掲載したりすることで、自身の美点を失い更なる読者離れを招いている新聞社は米国に限らず世界的に見ても非常に多くなってきていると言われている。











