− 第2回 −
プロスポーツ界とIT
テニス
この記事が公開される頃にはニューヨークのフラッシングメドウでテニスの全米オープンが開催される。
実はここ、MLBのメッツの球場のすぐそばに位置しており、日程如何では両方同時に競技が行われることもあり、どちらに行くべきか悩むファンも多い。
テニス界はかなり早期から積極的にIT化が進められており、現在ではその年間の大会運営のほぼ全てがオンラインによるデータ管理の上で成り立っている。早くから大手IT企業と提携をしたことで、各スポーツ界の中でも最も早くIT化が進んだ競技といえるだろう。
そしてその恩恵は選手/ファン/運営側の全てに渡って大きく貢献していると言える。
まず、審判がPDAを持参してその仕事に向かうという競技は、他にはなかなか無いだろう。審判台に座った主審は、自身のPDAを審判台に設置。ポイント毎に結果を入力し試合の進行をダイレクトに送出して行くことが求められる。
コート後方にはサービスの速度測定器が設置され、もちろん審判からのデータと統一され処理されている。
そして各ゲームは、事細かにデータ解析がリアルタイムで行われているため、ファンは会場にいなくてもそれらのデータにより試合の全てを把握することが出来る。しかもポイントの結果だけではなく、その経過や状況までもが理解できるほどのきめ細かさが実現されているのである。
各ポイントは協会と提携するIT企業の手で全てが解析され、そしてデータ化。選手のミスが、相手選手の攻撃による仕方がないものなのか、それとも純然たるミスなのかなど、ソフト的な内容まで含めてその全てが記録され続けているのだ。そして最終的にはインターネットを経由して一般のテニスファンにも提供される。
3Dでボールの軌道を解析できるようになってきたことから(4)、全くのリアルタイムでスコアが表示される他、その時点での各種のデータも提供されている。
ミスの量やその種類。サービスの速度やその確率までもが、リアルタイムで更新され続ける。オンラインでのストリーミング放送も当たり前となっているし、グランドスラムなどの大きな大会の場合は、10数面のコートの進行状況の情報を同時にチェックできるようになっている。
お目当ての選手の試合が明日行われるのかどうか、そしてそれは何時からなのか、どのコートで行われるのか、相手との過去の過去の対戦成績やその日時や場所なども、選手/ファンにも同様に自宅にいながらチェックでき、翌日の観戦に備えることが可能なのである。
IT化の恩恵は選手側にも見られる。
全ての選手は大会へのエントリーを始め全ての必要事項はオンラインにより可能(5)。勝敗とその結果のポイント取得や獲得賞金、明日の試合予定や開始時間も全てネット経由で管理/配信される。1000人以上の選手の状況管理がシームレスに行われているのである。
全米オープン等のグランドスラム大会の場合は、エントリー締め切り前の大会では、専用のCD-ROMが会場で配布され、選手はそれを利用して容易にエントリーが可能ともなっている。
そんな中、最近のテニス絡みのIT技術で最も一般的になったものは「チャレンジ」(6)だろう。
英国の軍需産業企業が提供するこのシステム。今や非常に高速となってしまったボールの判定に使用されているのだが、元の技術は弾道ミサイルの照準技術だったと言うから驚きである。
計6基の専用カメラでボールの軌跡を追う
ところで、このチャレンジで使用されている「ホークアイ」と呼ばれるシステム。当たり前に考えればライン際の判定だけならもっと安価で容易なシステムの構築が可能であると思うだろう(7)(8)。ところが、高価(9)なシステムの採用の裏には別な面でのメリットがあるのである。
しかしこの技術を導入したことにより、選手間のボールの打ち合いを三次元的に解析することが出来るようになり、ボールの軌跡や打点の三次元的な位置測定を可能とし、更にはそれをデータ化することで試合の傾向や選手の特性などを推し量ることが出来るという点である。つまり、このシステムを利用することで、
「Aと言う選手は、Bと言う選手のサービスに対して、最初のサービスの場合はライン後ろ側で、高い位置でヒットしておりそのときのポイント取得率は○○%だが、セカンドサービスではラインよりも前で打つ割合が○○%向上し、ポイント取得率も○%アップする。」
等と言ったことが瞬時に解析でき、チェック/表示可能となっているのである。
ホークアイが捉えたボールを「ポイントトラッカー」で三次元的にデータ化
そして「ポイントトラッカー」によりボールの軌跡を三次元的にデータ化することで、各ポイント毎にその全てのボールの航跡や任意の時点での速度等を再現する事までが可能となった。現実のプレーを即時画面上で3DCGのように再現できるのである。
ところで、テニス界で興味深いのは、このように先端技術が多用されているテニス界ではあるが、その恩恵が最も大きそうなラケットについてはあまり明確な傾向が見られないところである。
もちろん新素材や新しい形状などの進化はあるものの、選手は各自好きなラケットを使用しており、あえて旧モデルを使用する選手も多い。
道具の進化がプレーの進化に繋がらない現実は、やはりスポーツが人間の戦いであることの現れであろう。だからこそどのようなスポーツも人の心を引きつけてやまないのだと思う。
(4) 「ポイントトラッカー」と呼ばれるシステム。
(5)しかしながら、このネットに大きく頼った競技運営には思わぬ落とし穴もある。今でこそ世界中のあらゆる場所でのネットインフラは当然のこととなりつつあるが、やはり移動時や僻地での大会運営などにおいては問題が全て無くなったわけではないと言う。また数年前、ニューヨークで起こった大停電の際には、丁度ニューヨーク地区の大会に出場していた選手達から、選手用のサイトにアクセスできない事による様々な不安が協会に寄せられたと言うし、試合の進行状況を確認できないことにより、無用な待機を強いられた選手も多かったという。
ある日本人選手は、
「ネットでのやりとりは便利ですが、万が一のことがあるという不安はあります。多くの選手がFAXなども併用するのは、ある意味当然だと思います」
と述べた。
(6) 計6基のカメラによりボールの軌跡を追い、それを解析している。
(7)例えばラインのペイントを圧電素子にして、ボールを磁性材料にすれば済む話だ。4ページの「■その他のスポーツ」の項のサッカーボールについての記載も参照のこと
(8) また、ホークアイの導入によって、かつて使用されていた赤外線によるサービス判定装置は全て撤去された。ところがホークアイは全てのコートに設置されているわけではない。そのため一部コートでは逆に全ての判定を人間能力に頼ることとなっており、選手から不平の声も挙がっている。
(9)一面のコートで、一大会当たりおおよそ2千万円の費用がかかると言われている。システムとしては機材費もさることながら、そのソフトウェアやシステム運営のためのオペレーターなどの経費もかなりの比重を占めるという。











