− 第2回 −
プロスポーツ界とIT
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【2008年8月25日(月) 17時締め切り】
はじめに
今まさに北京五輪が行われている。ここニューヨークは事ある毎に五輪の誘致を目論んでいるのだが、しかし既にこの街にはありとあらゆるプロスポーツが集まっていると言っても良い。
野球のメジャーリーグは2チーム有り、それぞれが来年には新しい球場へ移転する。米国の4大メジャースポーツの残りも、NFL(アメリカンフットボール)、NBA(バスケット)、NHL(アイスホッケー)が拠点を構え、それぞれのマイナーリーグや独立リーグがひしめき合う。
全米オープンが行われる「ナショナルテニスセンター」
加えて、テニスのグランドスラムである全米オープンや、サッカーのMLS、更には日本では考えられないようなポロやラクロス、ビリヤードやボーリングのプロチームや大きな大会が始終どこかで開催されているのである。
今回レポートするのはそんなニューヨークのプロスポーツ界とITとの関わりだ。
今日あなたが乗ったイエローキャブは、マンハッタンを北に抜けて、ヤンキースの本拠地ヤンキースタジアムへ。その後メッツのシェイスタジアムの隣にあるナショナルテニスセンターへと向かう。
そして更に東に進んでNFLのニューヨークジェッツの練習施設へ。今日のイエローキャブはマンハッタンの外ばかりの運行だ。
タクシーの運転手はニューヨーカーなのでもちろん野球ファン、そしてNFLファン。そして世界各国から選手が集まる全米オープンの時には、祖国からの選手の活躍も気になって仕方がないのだ。
MLB
ヤンキースの本拠地「ヤンキースタジアム」
先月にオールスターゲームも終了し、後半戦に突入したMLB。ニューヨークではもちろんヤンキース、そしてメッツのファンが試合結果に一喜一憂することとなる。そしてそんなMLB界も、当然のようにIT化の波は押し寄せているのである。
もちろん当初は、各選手の成績や過去の試合データの整理という意味合いでの導入だったという。MLBの精神から言っても、機械やデータに頼るやり方は好ましくないと見なされる風潮があり(1)、その意味ではあえてハイテクの導入には背を向けてきた面もある。
しかし、今ではそうも言っていられないようだ。そしてMLBでIT化が一気に進んだ背景の一つには、実はその高騰する選手の年俸があったのだという。
そもそもMLBはあくまでスポーツエンターテイメントの頂点を目指すという主旨の元、競技にハイテクノロジーが介入してくることを厳しく制限してきた。
審判絶対の基本ルールの元、カメラや電子機器類による判定などは一切導入していない。道具の代表たるバットに関しても木製に限るというルールを維持。基本的なデータ収集や戦略分析等にIT技術の導入はあったものの、他の先端競技で行われているような最新鋭のシステム/機器導入、その利用による競技内容の大きな変化は訪れないままであった。このことはMLBの熱心なファンにも好評であり、人と人が競うスポーツの頂点の地位を未だに維持することが出来ている理由と考える野球専門家は多い。
もちろん各チームは詳細なデータ収集にしのぎを削り、その為の専門要員を擁し詳細且つ正確な分析に余念がない。しかし客観的なデータ以外の要素が大きいスポーツ、更には複数の不確定要素が交錯するチームスポーツの場合は、やはり経験則による判断が主流を占めてきた。
ところが、ここ十数年の選手年俸の高騰が、ITの導入に別な面から拍車を掛けた。今やトップ選手の契約金や年俸が数十億から数百億円規模に達したことから、その交渉にも綿密な査定が必要となってきたことがその理由である。
かつてのように、投手なら処理数や自責点、打者ならば打率や打点などの基本的なデータだけでは各選手の評価をきちんと下すことが出来無くなって来つつある。投手をとってみるだけでも、先発〜リリーフクローザー〜と役割分担が当たり前。打者もDHによる出場だと守備の評価がないし、怪我や故障の理由やその影響での欠場などの判断。
それらの上ではじめて成績の評価となるわけだが、これを多数の選手毎に均一の評価を与えるのは人力では事実上不可能に近い。
客観的な評価や複数の選手を比較検討する場合など、様々なデータを瞬時に算出し、その上で交渉に向かうことがより重要視されてきたことが、特にチーム側(年俸を支払う側だ!)のIT導入が積極的になった理由なのだという。
野球は歴史が古いスポーツと言うこともあり、スコアブックなどその記録収集の手段は非常に高度に洗練されてきた歴史がある。IT化はそれらかつての無数のレコードとの比較検討も容易とし、もちろん細かなデータが蓄積されることから、その上で全体の傾向や状況判断、更には個別の場面での選手の成績やプレーの成功率などを推し量ることが可能となった(2)(3)。
今や得点圏打率やカウント別の打率等まで瞬時に検索/閲覧できるようになっており、それはグラウンド上での戦術戦略の決定のみならず、オフィスでの契約交渉においても非常に重要な資料となっているのだという。
その一方、一般のファン向けに関しては、MLB機構はごく当たり前の手法で高水準のファンサービスをインターネットを介して提供している。
チーム側は、MLB機構全体としてのWebページの下に各球団のサイトを保有する格好となっており、その中で様々な情報を提供することが可能となっている。
タクシーの運転手の話は、今年で最後のシーズンとなるヤンキースタジアムでの歴史に残るオールスターゲームやシーズン後半の話題となり、ますます熱を帯びてきた。長くなりそうなので、次の目的地を目指してもらうこととしよう。
(1)イチローは結果ではなくその打撃姿勢が本塁打を狙っていないと言う点でしばし非難の対象となる。これもMLBの基本姿勢によるものといって差し支えない。
(2)現在では事細かなデータの分析が可能になったことから、「セイバーメトリクス」などと言うものまで出現している。創始者はビル・ジェームズ現レッドソックス顧問。これは、野球というスポーツを、経験者や専門家の主観的なものではなく、収集/分析された正確なデータ解析によって客観的に判断する手法である。この分野の解析書である「ビル・ジェームズ・ハンドブック」が毎年出版されている。これ以外にも、野球シンクタンク「ベースボール・プロスペクタス」が開発した「PECOTA(Player Empirical Comparison and Optimization Test Algorithm)」というものもある。
(3)メジャーでは、野球の戦法を巡って、新思考派と守旧派の対立が先鋭化している。新思考派は、「マネー・ボール」派と呼ばれる、一方守旧派は「スモール・ボール」派と呼ばれている。データ解析や戦術別の隻効率などが具体的に比較検討しうるようになってきたことから、このような様々な形での戦術論が明確になってきたのが最近の特徴であり、それはもちろんIT化を中心とする技術進歩の影響であることは違いない。











