− 第5回 −
コミュニティサイトはビジネスとなりうるのか
Overheard in New York
噂話を書き込むサイト
Overheard in NEW YORK
“Overheard in New York”は、ネット上のユーザーが、彼ら自身が街中で耳にした噂話を書くだけといったサイトである。高層ビルが多いマンハッタンならではと言うべきか、「アパートのビルのベランダで耳にしたことを書いてください」と言った主旨であろう。眼下の路上で繰り広げられる人間模様を俯瞰から眺めそれをサイトの読者で共有しようというわけである。いつの時代も他人の噂話が庶民の楽しみなのは変わらない。自分に関係のない出来事なら危機的状況や愛憎渦巻くドラマも気軽に楽しめるというものだ。言うなればこのサイト、ニューヨーク版「家政婦は見た」と言えるのかもしれない。
そしてこのようなサイトで得られる情報が、様々な企業にとっては次世代の商品開発に大きなヒントとなることは言うまでもない。事実このサイトを始め、同種のサイトの多くを大手企業が次世代マーケティングツールとして利用し始めていると共に、大手企業が自身で(その名を隠した上で)同種のサイトを運営しているケースも多いと聞く。当然ながら利益確保は同サイトに書き込まれる内容そのものであり、それらがどのような人物からどのような主旨で書き込まれたかなどサイトを経由して得られる情報を含めて企業側に提供されることで収益を得ている(注2)。
このOverheard in New Yorkで得られる情報は、特定の商品に対して具体的なマーケティングをサポートするものとはなり得ないだろう。しかし、企業全体としてどのような方向へ向かうべきか、どのような市場が今後有効なのかなど、基本的な路線の決定や留意すべき分野など、ビジネス先行のマーケティングでは得られにくい指針を示唆してくれることもまた事実だ。これまで一般社会では各種メディアや芸能分野などがその役割を担ってきたのだが、ようやくネット界でもこの面での作業を依頼できるサイトが出現してきたと言えるだろう。
HARLEQUIN Romance Report

日本でも大人気の恋愛本シリーズ「ハーレクイン・ロマンス」。ありとあらゆるシチュエーションで恋愛ドラマが繰り広げられるこのシリーズ。いい加減ネタも尽きるのではないかなどといらぬ心配をしているファンも多いかもしれない。しかし同シリーズの出版社である、ハーレクイン・エンタープライズ社もそれは先刻ご存じのようだ。
“HARLEQUIN Romance Report”のサイトコンセプトは単純明快。まさにハーレクインならではだ。つまりこのサイトは他人の恋愛話を書くだけ。そして運営は出版社自らが行っており、言うまでもなく同社が次回作のヒントを得るためのマーケティングに利用しているのだ。読者は書き手でもありそして投稿者でもある。サイトにもハーレクインという名前を冠したことで、同シリーズの読者を的確に収集することが可能であり、その上で彼らが、「同じハーレクインのファンになら、この話は楽しんでもらえるだろう」と判断した内容を投稿してくれているのだから、今後のターゲットの設定に関しては、ある程度的確な結果が得られることは間違いない。
しかしやはりハーレクインならではという面もある。様々な書き込みの中でも、特に人気を呼ぶのは浮気を中心とした物語なのだという。そう、確かにトップページには「告白しましょう」などと書かれている(注3)。いうまでもなくこのサイトが人気を得るためには、つまりサイトが同社のマーケティングツールとして有効に機能するためには、サイトの参加者がより共感を得ることが出来、そして参加しやすく、サイトの閲覧者としての立場であっても十分楽しめる内容である必要がある。このために企業とは無関係の第三者が始めたファンサイトとは違い、その運営や内容にはある程度の事前作為が必要となるし、またサイトの方向性が本来の目的から逸脱しかけた場合には、運営側として積極的に軌道を修正する必要がある。一般のファンサイトでは人気が出ればそれで良しとなるところだが、企業活動の一環となった場合は、その放置は絶対に避けなければならないだろう。
もちろん、同サイトに書かれた内容をそのまま小説に取り入れるわけにはいかないだろうし、その他にも業務に活かす場合には色々と検討すべき点は多い。しかしどのような人物設定や状況が望まれているかをまさに直接ファンから寄稿してもらうことが出来るわけで、これほどのダイレクトマーケティングリサーチもなかなか無いだろう。仮に同社が同シリーズのファンに向けて大規模なアンケートを実施したところで、このような有効性の高いデータを収集出来るとは限らない。たぶん様々な試行錯誤の上にこの手法に辿り着いたのだと思われるが(注4)、いずれにせよ出版社としては的確なマーケティングを行っていると言えるだろう。
注2) Overheard in New Yorkにも広告掲載はされているが、その業種はかなり制限されており、実際には同社との提携が結ばれることが前提だという。
注3)他のSNSや同シリーズのファンサイトの中では、このサイトに投稿されるものが必ずしも真実ではなく、創作も多いのではないかということが指摘されている。実際に同シリーズの某ファンサイトでは、作家志望のファンが同シリーズでの出版を目標として創作した文章を同サイトへ投稿し、人気を得るかどうか試しているなどといった書き込みがあったりすることで、このことが裏付けられている。
注4)同社の広報からは具体的な回答を得られなかった。











