− 第2回 −
新世紀のニュービジネスは、対象層限定がトレンドとなるのか?
ビジネスの真意はどこにあるのか
この一件は日本を始め各国へ記事が配信されたので、読者の中にも同社のことやここまでの経緯をご存じの方も多いだろう。さてここから少し穿った見方でこの一連の「騒ぎ」を見直してみたいと思う。
最初に違和感を持ったのは、これらSpotScoutに関する報道が非常に短期間に集中していたこと。そして(広告業界に身を置いたことのある眼からすると)あまりに作為的に見えたことだ。それ故に筆者は、すべて綿密に仕込まれた広告宣伝手段の一環であったと考えている。実はこのSpotScout、そのビジネスモデルをじっくり見てみればわかるのだが、新世紀「IT」ベンチャーの雄として取り上げられてはいるものの、特に高度なIT技術が採用されているわけではない。どちらかというとニッチ市場に特化したアイディアビジネスといった方が実情には沿っている。
同社が提供するサービスに使用される技術は、そのどれもが特に目新しい技術ではない。支払い関係も含め、多くのオンラインショップ/オークションサイトが利用しているものと同様だ。確かにIT技術あってこその新ビジネスではあるが、しかし先進的なIT技術とはとても言い難い。であるにもかかわらず、一連の報道は「最新技術を利用した先端のITベンチャー」と言う論調であったのが不可思議である(注2)。
また、米国内でこのようなビジネスが成り立つ地域は、事実上SpotScoutがビジネス展開をしているニューヨーク、サンフランシスコ、そしてお膝元のボストンくらいだろう。車社会の米国では、駐車できなければ車の価値もないと理解しており、先に挙げたような大都会以外では路上駐車も含めその駐車スペースはふんだんに用意されているのが一般的だ。従って、SpotScoutのビジネスエリアは非常に限定されていることとなる。またこのようなエリア以外での駐車違反の罰金も高額ではなく、駐車料金も安い。つまり支払いの発生を受け入れても尚駐車スペースを必要とするケースは希であると考えられるのだ。また駐車スペースの確保のためには少々の支払いは厭わないと考える層はさらにごく一部であるといえる。
このSpotScoutはマサチューセッツ州、ケンブリッジに拠点がある(注3)。米国東海岸の主要教育拠点の一つであり、エリートビジネスマン同士の交流や会議なども多い。そして彼らはニューヨークやワシントンDCで働くことになる。ウオールストリートで働くエリートビジネスマンは毎朝車の中で渋滞を恨み、愚痴を繰り返していたわけで、そんな彼らが資金調達のキーマンになっても不思議ではない。各種の報道については、SpotScoutのPR担当が知人が働くメディア各社に情報のリークを行い、各種メディアで取り上げられるようし向けたに違いない。
SpotScoutのサービスを受けるには携帯電話やPDAが必要だが、米国では高機能の携帯電話の普及は遅れている。高価格故に普及が遅れがちなのだが、同社のサービスを利用するための障害であるのは明白だ。しかし同社のサービスが、余分にお金を払ってでも車を便利なところに停めたいと考える富裕層に限定と考えればそれもたいした問題ではないとも考えられる。つい最近発売となったiPhoneは$600という高価格だが、大都市を中心に飛ぶように売れていると言う。このような状況も同社とその関係者にとっては追い風と映っていることだろう。つまりは購入者の大半は裕福と言っても良いからである。
全米中でたった数カ所の大都市に限定での話である。彼らは駐車料金を惜しむことはないが、しかしマンハッタンなどの大都市では有料駐車場でさえ空きを見つけるのは困難だ。都市部では高額な罰金を払うくらいならSpotScout経由で多少の支払いがあっても気にすることはないだろうし、彼らに雇われているリムジンの運転手ならなおさらそうだろう。全て経費で処理も可能だからである。

マンハッタン内の駐車違反取り締まりは厳しい。
このオレンジの紙が違反切符。このようにワイパーと窓ガラスに挟み込まれる。
またSpotScoutはその存在意義として、駐車スペースを探すのに時間を喰われると共に、ガソリンを消費し環境へ悪影響を与えている現状を回避できることもそのメリットとしてあげている。そう、ハイブリッド車が(ガソリンの節約を気にしなくていいはずの層から)飛ぶように売れている現状を振り返るまでもなく、「エコロジー」もまた富裕層へアッピールしやすい宣伝文句だ。このような点でも同社が狙っている市場が浮き彫りとなってくる。
ビジネスの拠点はボストン近郊。目指す市場はマンハッタン。資金導入はウオールストリート中心で、対象層も都市圏に勤務する一部の人々。行政や自治体との交渉はDC経由も可能であり、提携企業との折衝やPRのための交渉にはニューヨークほど適したところもない。かつてのアマゾンやeBayなど初期のITベンチャー達は、とにかくその商圏と対象層を広げることを優先課題とし、それをなしえることで自身の成功の基盤としてきた。しかしSpotScoutはドライバーが対象。しかもサービスの利用には普及が遅れている高価な携帯電話が必須で、さらには潜在的な利用者は都市部の高所得者層に事実上限定されている。これまでに成功したITベンチャーたちとは明らかに目指す方向が違っているのが見てとれると思う。
注2)IT系の専門報道機関であっても同様の報道がなされていた。もっとも米国では高機能携帯電話の普及は遅れており、またPDA類は一般的なインフラとは言い難い。移動し続ける自動車向けのサービスである以上PCでのアクセスは可能ではあってもあまり意味がなく、その意味では(最新の)IT(機器が必須の)ビジネス、といえなくはない。
注3)ケンブリッジにはマサチューセッツ工科大学がある。
その為IT界においては「産学協同」の推進的地域として見なされている。さらにはかつてPDA向けのビジネスアプリケーションなどがこのエリアから数多く開発され世に出た経緯もある。エリート層にPALMなどが人気であったことや、また当時は高価だったPDAを数多く持っているのがエリートビジネスマンだったと言う事情からだ。










