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NEXT GENERATION

− 第3回 −

子育ても仕事も自己実現も。すべてに挑戦できる社会の懸け橋に
フローレンス代表理事 駒崎 弘樹さん (2007年10月1日公開)

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子育てを地域社会で支える"病児保育"のあり方

  片隅には、色とりどりのおもちゃが一杯につまったバスケット。壁に張ってあるのは、正義の味方アンパンマンの絵。子どもたちの笑顔が似合うそんな部屋に現れたのは駒崎弘樹、27歳。一見、場の雰囲気にそぐわないように感じられる彼こそ、子育てと仕事の両立支援NPO法人フローレンスの代表理事だ。

 「男性で独身、保育士でも看護師でもなく、歳の離れた兄弟がいるわけでもない。そんな人間がなぜ両立支援を、といわれることはよくあります。けれども、子育ては女性だけのものでもなければ、親だけのものでもないというのが僕たちの考え方。なぜなら子どもは社会の財産だからです。これからは、社会全体で子育てを支えていくべき時代。子育てを親、とくに母親だけに頼りがちな現在の社会は危機的状況にあると感じています」

 フローレンスが手がけるのは、病児保育という分野。そもそも、子どもは小さな病を繰り返しながら、徐々に健康を獲得していくものだ。とくに乳児はすぐに熱を出したり、風邪をひいたりするのが当たり前。ところが働く親にとっては、その当たり前のことが一大事となる。急に熱を出した子どもを、保育園に預けることはできない。けれども、仕事に穴をあけるわけにもいかない……。仕事を持つ親なら、誰もが直面したことのある日常の危機だ。

 そんなとき、親に代わって一時的に子どものケアをするのが病児保育。社会的なニーズは高いにもかかわらず、全国でも病児保育施設は非常に少ないのが現状だ。なぜなら、施設の維持費や人件費などのランニングコストを考えると、莫大な費用がかかってしまうから。実際に約9割が赤字経営という、採算をとることが極めて困難な事業なのだ。

 そこで、フローレンスは今までにない新しい病児保育システムをスタートさせることにした。子育て経験のある女性をこどもレスキュー隊員として登録し、子どもが熱を出した場合には親に代わってかかりつけの医者まで連れていく。さらに親が帰るまで、子どもの自宅あるいはこどもレスキュー隊員宅で預かる。施設なしで運営することで、コストを抑えることが可能になった。

 03年にプロジェクトをスタートさせて、翌04年には内閣府認定NPO法人化し、05年にサービスを開始。当初、中央区、江東区限定で始めたが、現在では都内12の区に対象を広げ、スタッフは25名、会員も288人(7月末現在)を数えるまでになっている。



ITベンチャー社長からソーシャルベンチャーへ

 フローレンス・プロジェクトを立ち上げる直前までの彼の肩書きは、学生でありながらITベンチャーの経営者。大学3年のときに後輩に誘われて共に立ち上げた会社は、順調に利益を上げていた。

 「自分の価値を社会に問うているという充実感もありましたし、年間数千万の売り上げもあり、それはそれで手ごたえがあった。けれども、2年ほど経ち卒業する頃になって、ふと自分がいったい何のために働いているのだろうという思いにとらわれてしまいました。自分のしていることがどう社会にコミットしているのか、見えなかったんです」

 もっとはっきり手ごたえのある形で社会に役立つことをしたい。けれども、いったい何を? そして、どうやって……?

 そう考えていた彼に、いくつかの光が差し込んできた。ひとつは、ベビーシッターとして働いていた彼の母の言葉。

 「熱を出した子どもを看病するために休みが続いたところ、企業から解雇されてしまった女性がいるというんです。それを聞いて、非常に違和感を覚えました。子どもが熱を出して親が看病するのは当たり前。それで会社をクビになる社会というのは、何かがおかしいんじゃないだろうか、と」

 もうひとつの光は、たまたまパソコンで見つけたアメリカのNPO団体のWebサイトだった。

 「それまでNPOというと、志は高く頑張っているけれども、金銭的には常に恵まれず、思うような活動をできないというイメージを持っていました。けれども、アメリカのNPOのWebサイトはとことん格好いい。しかも企業顔負けの組織力を持ち、経済的にも立派に自立している。その事実に大きな衝撃を受けました。そして、事業によって社会問題を解決するソーシャルベンチャーという手法が、すでに海外では広く認知されていることを知ったんです」

 そのとき、彼の考えてきたことがひとつにつながった。経営者としての経験を活かし、ソーシャルベンチャーによって、病児保育事業を立ち上げる--。

 かくして2003年、フローレンス・プロジェクトはスタートした。



身の回りから社会が変わる手ごたえ

 その年の9月、「NEC学生NPO起業塾」(現・NEC社会起業塾)に参加。NPOとして起業するということに対する認知度がまだまだ低かった時代に、同じくソーシャルベンチャーとしての志を持つ仲間、よき先輩、指導者に出会い、多くのことを学んだ。その頃の経験は、今も貴重な財産になっているという。

 けれども、もちろん準備期間はすべてが順風満帆というわけにはいかなかった。

 「多くの子育て支援団体の方、保育園の園長先生などに話を聞きにいきましたが、100人中95人からは無理だと言われました。子育ては母親の責任だから、病児保育は子どものためにならないという声もいまだにあったくらいです。けれども、上司層にそのような意見があると、働く母親は仕事を続けることが難しくなり、企業としては貴重な人材を失うことになる。これからは、ビジネス的な見地から女性活用を考えようという企業も増えてきている中、病児保育はその実現を支援するひとつの重要な要因になるのです」

 当初は施設を設置して、そこで病児保育を行うという従来のスタイルを考えていたものの、冒頭に触れたような"採算がとれない"という現実に直面してから、非施設型へと方向転換。こうした回り道のために、準備に2年もかかることになってしまった。

保育の様子。スタッフは現在20名。ワーキングペアレンツにとって頼もしい存在だ

 「実際にサービスをスタートさせるに当たって苦労したのは、プロジェクトの要となる人材の確保です。最低でも5、6名のこどもレスキュー隊員を集める必要があると考えたのですが、まったく新しいシステムなだけに思うように志願者も集まりませんでした。そこで、一軒一軒ポスティングしたり、つてを頼って依頼したりと、ぎりぎりまでかかってなんとか5名集めることができたんです」

 3年目を迎えて赤字を消化し、現在はようやく運営的にも安定してきたところだ。当面の目標は、2012年までに東京都の全域で病児保育事業を展開すること。そして、その先は全国で病児保育を当たり前のインフラにすること。理想へ向けて、身の回りの社会が確実に変わっている実感はある。

 「会員さんの中には、病児保育のおかげで今まで休みがちだった会社を休まなくてすむようになり、正社員として働けるようになったという方もいらっしゃいます。日々の『ありがとう』という声や、入会希望の方がどんどん増えている現実、そして何より子どもの笑顔には元気をもらっています。自分自身の将来設計? 毎日子どもに接していると可愛くてたまらないので、自分でも親になりたいと思ってはいます。実はすでに娘の名前を考えてもいるのですが……こればかりは、戦略はあってもアクションはまだ先のこと、というのが現実です(笑)」

(文/嵯峨崎 文香 写真/中川 彰)



特定非営利活動(NPO)法人
フローレンス


従たる活動分野/子どもの健全育成、社会教育・生涯学習
事業内容/短期的な課題解決はもちろん、中長期的視野に立って目指すべき社会を実現するために、3つの事業を行っている。

● 地域の力で解決する 病児保育事業
病児保育サービス「フローレンス・パック」の法人向け提供や、病児保育事業および子育て支援関連事業の立ち上げを支援。
● 働き方を変える ワークライフ・バランス・コンサルティング事業
中小ベンチャー企業が「経営戦略」として、ワークライフバランスに取り組むお手伝いの他、事業内託児所のニーズ調査・企画・運営など。
● 社会のノリを変える ソーシャル・プロモーション事業
病児保育はもちろん、子育て支援関連事業の広報戦略策定や、メディア開発を支援。

〒104-0033
東京都中央区新川2-5-1 PSA305
TEL 03-3206-2604
http://www.florence.or.jp/

ホームページでは、入会方法から病児保育の1日の流れ、安全・安心のポイントまでわかりやすく説明されている

駒崎 弘樹(こまざき ひろき)さん
1979年、東京都江東区生まれ。99年慶應義塾大学総合政策学部入学。01年(有)ニューロンに共同経営者として参画し、株式会社化後、同社代表取締役社長に在学中に就任。学生ITベンチャー経営者として、さまざまな技術を事業化。同大卒業後、「地域の力によって病児保育問題を解決し、育児と仕事を両立するのが当然の社会を」と考え、 ITベンチャーを共同経営者に譲渡。退社し、「フローレンス・プロジェクト」をスタート。04年内閣府のNPO(特定非営利活動法人)認証を取得、代表理事に。05年4月から江東区・中央区にて全国初の保険的病児保育サポートシステムである「フローレンスパック」をスタート。2012年までに東京全土の働く家庭をサポートすることを志す。


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