− 第1回 −
モバイル・セントレックス
ユーザの利便性を高め、ユビキタス環境を加速するモバイル・セントレックス
モバイル・セントレックスが注目される背景とは
モバイル・セントレックスが拡大しつつある背景には、いち早く導入が拡大しているIPテレフォニー、IPセントレックスの存在があります。
そもそも、企業の内線電話はPBXをベースとしていましたが、TCO削減効果などを目的にIPテレフォニーが普及。PBXをIP-PBXに置き換え、電話端末には有線LANに接続する固定型IP電話機を利用するケースが増えました。さらに拠点ごとに設置していたPBXを集約し、PBXの導入、運用管理、回線コストなど音声通信に関して、さらなるTCOの削減を実現したのがIPセントレックスです。これは、IPネットワークを介して企業の各拠点に内線電話サービス(PBX機能)を提供するもので、通信事業者のIPセントレックス・サーバ(IP-PBX、SIPサーバ)を利用する形態と、本社などの主要拠点やデータセンターにIPセントレックス・サーバを設置する自営の形態があります。通信事業者のサービスを利用する場合、自前の設備が不要になり、運用管理を含めアウトソーシングできます(図2参照)。これに携帯型のIP電話機という発想を取り込んだのが、モバイル・セントレックスなのです。
図2 IPセントレックスの構成例
モバイル・セントレックスやIPセントレックスは、設備の増設、移設が容易に行え、ビジネス環境の変化にも柔軟に対応できる利点があります。本社などの主要拠点にPBX機能を提供するIPセントレックス・サーバと回線を接続するメディア・ゲートウェイを設置。リモートの拠点は回線接続用のメディア・ゲートウェイを設置するだけで内線通話が行え、PBXは不要です。
しかし、IPセントレックスには弱点があります。センター側IPセントレックス・サーバを集中配置するため、万一、ネットワーク(LAN、WAN)がダウンしたり、サーバが故障したりした場合、全拠点で音声通信ができなくなってしまいます。そのため、障害時にゲートウェイがサーバの機能を代替するサバイバル機能を備える製品や、サーバやネットワークを冗長化するなど、耐障害性を高める工夫が必要です。
こうした障害対策や外線用に一般電話網を利用するケースが一般的ですが、携帯型IP電話を利用する、モバイル・セントレックスを導入していれば、万一の障害時には携帯電話を利用するといった対応策も取れるのです。
IPテレフォニーの普及で期待される機能拡張が容易なSIP
それではここから、モバイル・セントレックスも含め、IPテレフォニーを実現する技術について紹介しましょう。まず重要な要素技術の1つがIP-PBX/サーバのコールを制御する呼制御プロトコルです。従来、ITU-T(国際電気通信連合-電気通信標準化部門)が勧告したH.323というプロトコルが一般的に使われてきました。ITUが標準化していることからもわかるように、H.323は既存の電話網との接続性も高く、IPテレフォニーの中核を担ってきましたが、システム開発に手間がかかるといった課題も指摘されていました。とりわけ、音声通信のみならず、アプリケーション連携などの要求に応えるためにも、インターネットとの親和性が高い呼制御プロトコルの開発が求められていたのです。
こうした要求に応えるのが、インターネットの標準化団体IETF(The Internet Engineering Task Force)が標準化したSIP(Session Initiation Protocol)で、IPテレフォニーの呼制御プロトコルの主流になると見られています。その特長のひとつは、テキストベースのプロトコルであるため、機能の追加、拡張が容易に行えることです。Webアプリケーションとの連携でも期待されており、Windows XPも標準でSIPをサポートするほか、3G携帯電話サービスのバックボーンにSIPを採用する事業者もあります。
SIPはアプリケーション・レベルで通信属性の交換とセッション管理を行い、呼制御情報はSDP(Session Description Protocol)で記述され、DNSサーバとの連携も可能です。SIPサーバは呼制御とセッション確立のためのさまざま要素から構成され、SIP端末からの接続要求をSIPサーバや他のSIP端末に転送するSIPプロキシ、SIP端末からの接続要求を元に相手のアドレスを通知するSIPリダイレクト・サーバー、ロケーション・サーバーなどへの登録・削除・更新を行うSIPレジストラなどがあります。SIPに対応するサーバやIP電話機が数多く提供され、モバイル・セントレックスを始めとしたIPテレフォニーの導入を後押ししています。
通信品質の確保に欠かせないブロードバンド・ネットワーク
IPテレフォニー導入ではネットワークの再構築が求められる場合もあります。ネットワークの帯域が通信品質を左右するからです。そこで、社内LANのバックボーンをギガビットイーサネットにする、フロアLANの各ユーザは100Mbpsを専有できるブロードバンド環境が理想的です。これは音声通信だけのためでなく、今後、大容量のWebアプリケーションとの連携やデスクトップ会議システムなどのインフラにもなります。WANでは、IP-VPNや広域イーサネットなどのサービスを利用するケースが増えています。アクセス回線にはFTTHやADSLなどのブロードバンド回線を利用することで遅延などによる音声品質の劣化を防ぐことも可能です。
音声をパケット化するIPテレフォニーでは、音声圧縮時や伝送時の遅延やゆらぎが音声品質を劣化させ、聞き取りにくさの原因になります。パケット化された音声データはRTP(Real-time Transport Protocol)などのプロトコルを使って送られます。遅延を小さくするためにはパケットを短くすればいいのですが、相対的にベッダーが大きくなり、伝送率が低下するという問題もあります。RTPと連携して伝送遅延や帯域幅などの通信品質をコントロールするRTCP(RT Control Protocol)などの技術により、QoSの確保を可能にしています。
このほか、LANスイッチの優先制御機能や帯域制御機能などのQoS機能を活用したり、音声通信とデータ通信を分けるバーチャルLANを利用することで高い音声品質を確保することも可能です。また、特にモバイル・セントレックスに限れば、社内の無線LAN環境の整備もポイントとなります。データ通信用に無線LANを構築している場合、トラフィックの状況によっては音声パケットが廃棄され、通信品質が劣化することもあります。そこで、最大54Mbpsの伝送が可能なIEEE802.11aや11gを導入するなどの対策も必要です。前述のバーチャルLANと組み合わせ、周波数帯域の異なる11a(5GHz)と11g(2.4GHz)をそれぞれ音声用とデータ用に使い分けるといった工夫も考えられます。
このように技術的にも進化しつつあり、工夫次第でさまざまなメリットのあるモバイル・セントレックス。今後も各ベンダーや通信事業者から新しいサービスが開始される予定です。各企業としては、こうしたサービスや今後の導入事例などを参考にしながら、導入を検討していく必要があるといえるでしょう。
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