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トップマネジメントメンタルトレーニング第5回
ビジネスパーソンのためのメンタルトレーニング
第5回 部下をぐんぐん伸ばす上司になるために心がけたいこと Part2:解説 プラス思考と対話で信頼感を醸成する
スポーツ・メンタルトレーナー 高畑好秀  Profile 
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優れた指導者は人間的魅力で人を動かす

 部下をはじめ、他人を自分の思い通りに動かすことほど難しいことはありません。ところが、いわゆる「できる人」「リーダー」「一流」と称される人たちは、知らず知らずのうちに相手を意のままに動かしているものなのです。傍から見れば無理難題のように思えることでも、その人が言うことであれば「この人が言うのであれば、本当にできるかもしれない」「よし、この人のためにひと肌脱ごう」と周囲の人たちが勝手に行動を起こすものです。
 優れた指導者というものは、人々の能力ややる気を引き出すのが実に上手なのです。一方、人を動かすのが下手な人は周囲からの信頼を得ていないので、周囲の人々は熱心に動いてくれないのです。もし、その人の命令によって人が動いたとしても、嫌々行動するために熱意もなく真剣味もありません。言われるから仕方なしにやるという姿勢では、目標を達成するどころか、途中で失敗してしまうでしょう。
 これは会社の上司と部下の関係においても同様のことが言えるでしょう。日頃から尊敬も信頼もしていない上司から、無理難題をふっかけられ、理不尽さをいつも胸に抱いてことを始めていたのでは、到底目標を達成することはできないでしょう。
 権力や立場の優位性を振りかざして、恫喝に近いような形で無理矢理に行動させても、決して良い方向に進むことはないし、当然良い結果を生むこともありません。銃を突きつけられれば、人は死に対する恐怖心から誰でも相手の言いなりに動きます。しかし、その心の中は憎悪と反発で一杯のはずです。決して全面的に指導者の言うことを信頼し、賛同して行動している訳ではないのです。「仕方ないから行動しているフリをしておこう」と思っているだけなのです。
 「この人のためにひと肌脱いで、頑張ってみたい」と思った人たちは、常日頃からその人を信頼して、人間的な魅力を感じていたからこそ、そのように思い、自分のもっている力のすべてを出し切れるのです。人を動かすことのできる人は仕事能力のみならず、人間的な魅力をもちあわせているものです。その魅力がなければ人は集まらないし、協力も得ることができず、物事を成し遂げることはできません。

部下の自己効力感を育てる対話を続ける

 有森裕子選手や高橋尚子選手など女子マラソンのオリンピックメダリストを育てた小出義雄監督は、選手のやる気を引き出すのが実に上手なのです。選手との対話は、常にプラス思考の動機づけから成り立っています。プラスの言葉は選手のやる気を引き出し、その気にさせて、結果的にそれを現実化させる力をもっているものです。
 「お前は強くなるよ」と常に声をかけます。最初は本気にしていない選手も、何回も何回も繰り返して言われているうちに、その気になってくるのです。そうして声をかける間にも選手たちはトレーニングによって少しずつ体力がつき、力も上がってきます。そうして生まれた微妙なタイムアップに対しても、「ほら、タイムが上がったよ。どうだ、強くなっただろう?」と選手に言うのです。すると、選手も「本当だ」と感じて、監督のことを信頼し始めてくるのです。
 言葉は悪いかもしれませんが、監督は選手をいかに上手にダマしてやるかが重要です。薬の実験の中にプラシーボ効果というものがあります。病気の患者に「この薬はすごく効く新薬だ」と伝えて、偽薬を飲ませても病気が回復するというものです。それは患者が「この薬はすごく効くんだ」と強く信じ込むことによって、体の免疫力がグッと向上していき、菌を退治してくれるからです。
 逆の言い方をすれば、どんな特効薬であろうが、飲み手である患者が「こんな薬を飲んでも治る訳がないよ」と強く思い込んでしまうと、その心の状態がそのまま体に反映されてしまい、免疫力が向上するどころか低下してしまうのです。これは監督と選手の関係においても同じことなのです。
 同じトレーニングをしても、選手がどれだけ監督の言葉を信じて、そのトレーニングを信じているかで、効果は全然違ってくるのです。また、いかに選手の心の中に「自分はやればできるんだ」という自己効力感を作り出してやれるかによっても力の発揮のされ方に違いが出てきます。その意味でも、マイナスの言葉による暗示からはプラシーボ効果も自己効力感も作られません。「うそから出たまこと」という言葉がありますが、監督の仕事はこの言葉を地でいき、選手の「できる」という思いを現実のものへと導いてあげることではないでしょうか。

時には老獪にふるまい、部下の不安感を取り除く

 「どうせ自分なんて・・・」と思っていた選手でも、小出監督が日々繰り返し励ますことで気持ちに変化が生じ、「次の大会で優勝したい」「オリンピックに行きたい」と思うようになっていきます。このような目標に対して選手の自己効力感が強まってくると、選手の練習への熱意にも影響を及ぼし、ひたむきに一生懸命打ち込むようになるので、選手自身が実際に強くなりさらにタイムも上がっていくのです。
 そうなると、選手の方もますます「タイムが上がった。自分には力があるんだ」と信じ込むことができます。また「監督の言葉通りだ」と監督に対しての強い信頼感も生まれてくるのです。
 途中で不安になった選手が「私、優勝できますか?」と訊いてくることがあります。小出監督はその時、自分の心の中に多少不安や迷いがあっても、素知らぬ顔で「できるよ」とズバリ言いきってあげるのです。監督と選手との間に強い信頼関係が築かれたら、監督の迷いが選手の迷いを増幅させていくというマイナスのプラシーボ効果が生じてしまうことをしっかりと熟知しているからです。「監督も自分と同様に不安なんだ」と思わせてしまうのか、「これは根拠のない間違った不安なんだ。だって、監督はできると言い切っているんだから」と思わせるかでは、結果は全く違ってくるのですから。
 名将と呼ばれる人の多くは、よく"狸親父"と呼ばれる面をもちあわせています。時には老獪にふるまい、監督である自分を選手に信じ込ませ、その自分の言葉によって選手自身の力を信じ込ませ、取り組んでいるトレーニングや目標を信じ込ませるのです。これもまた人間的な魅力の一つと言えるでしょう。

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