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トップマネジメントメンタルトレーニング第5回
ビジネスパーソンのためのメンタルトレーニング
第5回 部下をぐんぐん伸ばす上司になるために心がけたいこと Part1:対談 指導する人間は自分のスタイルをもて
 
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選手に徹底的に自分で考えさせるコーチ

堀内 僕は中高時代、NASスイムスクールに強化選手として所属し、合宿生活を送っていました。高校2年の時、ジュニアオリンピックカップの200m自由形・400m自由形で優勝したのですが、高3の時は優勝できず、高校時代最後の大会、日本選手権大会が迫ってきた頃には、精神的に煮詰まってしまい、おかしくなりかけていました。そんなある日、コーチから「明日から1週間、練習を休んで、新宿の高層ビルに登って外を眺めて来い」と言われました。いつもほとんど何も説明してくれないコーチで、その時もただそれだけの指示でしたので、訳もわからず、朝から新宿センタービルに登って、一日中外をぼんやり眺めていました。さすがに3日も続けるとつまらなくて、飽きてきました。ところが、5日目くらいに、下界を豆粒のような車がちょろちょろ走っていたり人間が歩いているのを見ているうちに、自分で思うようなタイムの出せないことなんて、もの凄くちっぽけな悩みだと思えてきたんです。僕が吹っ切れて練習に戻っても、コーチは最後まで何も言いませんでした。黙っていたけれど、いま思えば、僕の精神状態を観察していて、大会直前にも関わらずあえて練習を休むという賭けに出たんだと思います。実は、選手時代はコーチが何を考えているのかまったくわからなかった。

高畑 普段の練習はどんなふうだったんですか?

堀内 陸上トレーニングをやった後、毎日、とにかく400mを10回か20回泳ぐというものでした。どうしていろいろな練習をしないのか、また、1,500mにも出場するのになぜ400mばかりなのかも疑問でした。来る日も来る日も同じメニューなので、僕は飽きちゃいましたね。だから、自分がコーチをするようになった時は、毎日違うメニューを作って選手を飽きさせないように工夫したんです。コーチを始めて10年くらい経ったときに久しぶりにそのコーチに会う機会がありましたので、そのときに尋ねてみました。「どうして毎日同じ練習だったんですか?」そうしたら、「400mを10回毎日繰り返し泳いでも、1回1回の400mの泳ぎは違ってくる」。確かに、一緒に練習している選手同士で競い合ったりする中で、毎回何かが違ってきていたのでしょう。それを感じとって自分で考えて学んでいけるような選手でないとトップレベルでは戦えないという判断だったんでしょうね。実際、そのコーチの下には10人選手がいて、10人が10人ともどれかの種目で決勝に残るほどに強いチームでした。それに対して、あれこれメニューを変えた僕のチームはそこまで強くなれなかった。そのコーチのやり方はどの選手にも合うやり方というわけではなかったかも知れませんが、半端なところがなく徹底していました。
いろいろなタイプのコーチがいた方がよい

高畑 僕も勉強面では思い出深い"コーチ"と出会っています。中学受験をしたのですが、そのために小学校5、6年生の時に通った塾の先生がスパルタ式で、夜中の3時まで残されたり、角材で殴られたりした。いつか、この先生殺してやると思ってましたね(笑)。でも、僕が志望校に合格したら、先生が涙を流したのを見て、「あっ・・・」と思った。本気で怒るのは生徒に対する愛情があるからなんで、本気で怒れるのは一つの"人間力"だと思います。その先生には、最後の最後まで絶対に手を抜けないという怖さがありました。でも、もし先生が途中で一度でも甘い顔を見せたら、僕の方にも甘えが出てしまったと思うんです。

堀内 一つのスタイルで貫くということですね。それが生徒や選手のコーチに対する信頼につながるのだと思います。

高畑 大学受験のために通った塾の先生はまったく違うタイプでした。前の先生が根性主義だったのに対して、今度の先生は「世の中、戦術だよ。最小限の努力で最大限の効果を出そう」と言う。影響を受けて、僕もいろいろ効率的な勉強法を編み出しました。根性と効率、この両方を学べたことはよかったと思います。自分の心の状態は日によって変わっていきますから、いま自分には根性が欠けているなと思ったら、わざと自分にハードスケジュールを課してみる。逆に、ゴリゴリやるばっかりで戦術が欠けているなと思ったら、一度じっくり考えてみる、というふうにバランスを取っています。いろいろなタイプのコーチに出会えば、自分の中にいろいろなコーチをもつことができるわけです。

堀内 このやり方が万能というコーチングはないですから、いろいろなカラーのコーチがいていい。そして、選手はいろいろなコーチを経験すればいい、ということですか。

高畑 実は、あるコーチから別のコーチへの変換期に、選手は一番伸びるんです。プロ野球でも、監督の替わり端にチームが活躍するケースが結構見られます。選手に別の刺激が入るからでしょう。例えば、管理野球をがっちりやる監督の下で何年かやった後で、ロッテのバレンタイン監督みたいに自由にやらせてくれる監督に切り替わった時、選手は伸びるし、伸び伸びやるのが当たり前に感じられてきた頃に、ガツンとやる監督に代わると、また伸びます。

愛情と客観視のバランスが大事

高畑 コーチングには、愛情と客観視の両方が必要です。それを母性と父性と言い換えてもいい。そういう意味では、コーチングの原点は親子関係にあるとも言えそうです。北島康介選手(アテネオリンピック金メダリスト)の平井コーチは、「康介、康介」と選手を友達のように呼ぶけれど、一方ではすごい客観的に観察している。そういう距離感は大事です。ただ、本当の親子だと、どうしてもわが子に対して主観的になりすぎてしまうんですよね。僕ですら、妻に「あなたメンタルトレーナーなんでしょ?」と言われてしまいます。

堀内 うちの水泳教室に来ているお母さんたちにも、そういう点は注意してほしいと思っています。お母さんが「誰々ちゃんは進級テストに合格したのに、どうしてあなたはできないの!」と叱ってしまったら、せっかく水泳が好きだった子どもも嫌いになってしまう。実際、そういうことが起こっています。最近2人で出版した本『親子でおぼえる水泳教室』の中で、高畑さんが親の心得十カ条として、とてもいいことを書いています。「第一条 感情的にならず冷静に対処する」「第二条 プラスの言葉遣いを心がける」などは、会社で部下を持つ方々にも参考になる心得だと思います。

(2005年10月27日、国立にて)

堀内善輝氏
1965年生まれ。1982年、全国JOCジュニアオリンピックカップ夏季水泳競技大会200m自由形・400m自由形で優勝。1987年、NASに入社し、水泳コーチとなる。2003年12月、(有)マイ・エス国立を設立し、「マイ・エス・スイミング国立」の経営者となる。高畑氏との共著に『親子でおぼえる水泳教室』(ノースランド出版)。               

*Part2では、解説「プラス思考と対話で信頼感を醸成する」を紹介します。
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