− 第6回 −
人々が自律的に移動できる街づくりを、ユビキタスネットワークが実現する
ユビキタスコミュニケータ
子供のころ思い描いていた21世紀の未来都市とはどのようなものであっただろうか。ビルが林立する中を、自在に飛び回る乗り物。人も空を飛ぶかのごとく、街を自由に移動する。マンガや映画で表現される未来都市像も、地上の重力から解放され、自由にその中を動き回ることができるものとして描かれることが多い。
それでは現在の街づくりでは、この未来都市像のどこまでが実現されているだろう。
残念ながら現状では街中を思い通りに自由に移動しようとしても、障害者や高齢者、外国人など、ひとりで移動することに不便を感じている人が数多い。
そこで人やモノがシームレスに繋がるユビキタスネットワークを活用することによって、この障害を解消しようとする試みを紹介しよう。障害者団体やNPO の代表者や学識経験者、国土交通省や自治体の代表者からなる「自律的移動支援プロジェクト」(委員長坂村健氏)は、日本中の道路や建物に、ICタグやチップを取り付けることにより、場所に情報をくくりつけ、人々の自律的な移動をサポートしようと取り組んでいる。同プロジェクトでは来年度神戸市で実証実験を行い、そこで得られた成果をもとに、全国での展開を目指している。近い将来、自由自在に移動することのできる街が、私たちの前に現れるかもしれない。
自由に移動するには、街は障害だらけ

東京大学大学院教授
YRPユビキタス・ネットワーキング研究所所長
ユビキタスIDセンター代表 坂村健氏
いつでも、どこでも、誰でも、情報通信ネットワークにつながるユビキタス社会への歩みが着々と進んでいる。ユビキタス社会では、人やモノがシームレスにつながるネットワーク環境やサービスによって、「もっと知りたい・行動したい」「もっと守りたい・守られたい」「もっと楽しみたい・共感したい」という生活者の高度な欲求が満たされ、人々の生活が一層豊かになる。
では人が移動するというシーンについて考えてみよう。いつも通い慣れたところではなく、ある目的地に初めて訪れる際は、地図を調べたり、時刻表を確認したりするなど、準備をしなければいけない。海外に出掛けるときには、言葉も覚えなければいけないし、特に入念に情報を得る必要がある。
これらの面倒が解消されれば、たとえ見知らぬ土地でも、ストレスフリーに移動することができる。機器やネットワーク環境が整備され、コンテンツやサービスが提供されることによって、「安心・安全」に移動することができるようになるのだ。これは特に障害を持った人々には大きな助けとなる。
例えば、車いすに乗る人や視力障害を持つ人が初めての土地に旅行しようとする場合、現状では様々な移動上の制約が存在する。まず出発前に、目的地まで路線情報を確認するだけでなく、駅のエレベーターの所在などバリアフリールートを詳細に調べる必要がある。そのためには、様々な資料をつきあわせなければならず、かなり面倒な作業となる。
実際に目的地に向かって移動する途中で、思いもかけない急な変更を余儀なくされることもある。予定していた道路で工事が行われていて、段差が発生して通れない。あるいは、台風などの災害や事故によって、突然電車の運行がストップしてしまった場合には、迂回ルートのバリアフリー状況などの情報が十分に得られず、途方に暮れることもある。
さらに、無事目的地に着いて、点字ブロックに沿って歩いてきても、点字板の案内がなかったり、点字ブロックに自転車などの障害物があって、目標の場所や建物に辿り着くのに苦労することもある。
このような制約は障害を持つ人に限られたことではなく、高齢者を中心に多くの人々が同じような問題に直面している。「ユビキタスネットワーク社会の国民生活に関する調査」によれば、高齢者が期待するユビキタスネットワークサービスのイメージの中では、医療関係と並んで、「外出時に、スロープやエレベーターなどの安全な通路が案内されたり、緊急時には自動的に近くの施設に連絡があるなど、高齢者や要介護者でも安心して外出できる」「駅等の外出先で、安心して歩ける経路を情報端末で確認しながら歩く」が上位に挙げられている(平成16年度版「情報通信白書」)。これを見ても、高齢者にとって移動の際の制約解消が切実な要求となっていることがわかる。










