IT Wise 事情通のITレポート
− 第1回 −
AR…拡張現実の今(後編)
CGからメタ情報表現に
まさに、冒頭で紹介した「セカイカメラ」などは、その場所に誰かの足跡である情報や写真などを縛り付けることで、その場所を通りすぎたり、のぞき込んだ人に時間軸を超えてメッセージを伝達することができる。
こうした技術やアイデアを応用することで、先般の不動産情報や地域情報の可視化、もしくはGPSで位置情報を公開している人などの「人」の名前や属性などの情報に置き換えることで新たな可能性が広がる。
ツイッターが「渋谷の交差点を行き交う人の脳内の思考をのぞき込んでいるよう」と表現した人がいたが、まさに、カメラ越しにそうした情報が人の頭上あたりに噴出しのように表現するような技術も近い将来不可能ではなくなるだろう。
ただ、カメラ付き携帯電話が普及し始めた頃のように、街中でこうしたアプリケーションを使うという行為やプライバシーの問題など、議論しきれていない規範整備も必要になってくるだろう。
最近ではfoursquareなど、自分の現在位置情報をツイッターなどで公開するロケーションサービスがスマートフォンユーザーの間で話題になっている。こうしたライフログと呼ばれる自分の行動履歴を公開する行動により、同じ場所を通過したり接近した人同士を新たに結びつける、緩やかなソーシャルネットワークが形成されつつある。
自分の位置情報を公開するという新しい文化もまた、新たな可能性を示すと同時にそうした履歴を広告やビジネスと結びつけたとき、ライフログのもつ新たな権利や問題も生まれるかもしれない。
ヘッドマウントディスプレイ
少し近未来を考えてみよう。こうした技術をより近づける技術にメガネ型のディスプレイ(ヘッドマウントディスプレイ)やスカウターなど体に装着したデバイスが登場してくる。
提供:ブラザー工業(株) ヘッドマウントディスプレイの一例
(http://www.brother.co.jp/news/2009/rid/index.htm)
この映像は、あくまでモデルケースだが、こうした近未来的な光景もそれほど遠い未来でもないだろう。
AR技術の普及によって、CGM(ユーザーが提供する位置情報やメタ情報など)が増えて行くと、そうした情報に素早く簡単にアクセスできるデバイスが求められるようになる。
また、マーカーが必要なAR技術も、次第に認識精度とスピードの向上によって、マーカレスとなり、例えば人の顔認識や自動車の車種、建物の形や広告などをカメラ越しに眺めるだけで付随する情報を読み取れるようになる。現在のデジタルカメラの技術革新を顧みても容易に想像できる。
これまでもメガネ型のディスプレイデバイスは存在していたが、ハードの性能だけではなく、そうしたデバイスの利用シーンにおいてユーザーリアリティがなかった現状がある。メーカーが提示していた活用法はたいてい、映画であったり、音楽ビデオであったり、料理やフィットネス映像など必要性を感じないものが多い。
上記の映像のように眺めている世界に別の情報を重ね合わせて眺めなおす世界もそれほど遠い未来ではないだろう。
応用イメージ
これまでの数少ない事例は、現在あるAR技術が応用されたもののごく一部にすぎない。なによりも、この技術をかけあわせて出せるアイデアはまだまだ無限にある。その意味でも「AR技術」は現存の技術ですでに、開発できる分野がたくさんあることを示している。その精度や表現力は当然向上していく前提で、今はさまざまな応用分野を開拓しプロトタイプ化していおく時代とも言える。
ARはブレインストーミングが非常に簡単だ。「ARとかけてなんととく」方式で、「あたかもそこにある」ように見せて面白く、実用性のある技術ならば、すべてが置き換わる可能性がある。
むしろ、ユビキタス時代のインターネットの姿はこうしたものかもしれない。
「セカンドライフ」に未来のインターネットの可能性を見た。ということを書いたが、メタバースと呼ばれる仮想世界で起きえたことを、そうした体験をしていた人から今一度問い直してみてもらいたい。
そこにあった、仮想世界のリアリティはまさに、AR技術が生み出すインターネット世界のヒントが多くシミュレートされている。
ここは文字数が足りなくなったが、機会があれば、仮想世界であったことをこれからの時代に照らし合わせてそのうち書いてみたいと思う。
ARドローン
最後に個人的に注目している象徴的な事例を紹介しよう。フランスのパロット社が行っているプロジェクトだ。
提供:AR. Drone ※日本版ウェブサイトは3月中旬公開予定(http://www.parrot.com/jp/ardronejapan/)
見かけは小型のラジコンのヘリコプターだが、特徴的なのはヘリコプターに内蔵されたカメラを通じて、実機を直接目視しなくてもiPhoneを通じて遠隔操作で飛行可能であること。(無人ヘリコプター小型版だが、近未来の兵器を少し連想させる。)
そして、なによりもARと名づけられた所以でもある、モニターから映し出された映像を拡張現実的に表現することが可能であること。
簡単にいうと、二台のヘリコプターで実際の弾ではなく、ゲームのようなCGで撃ち合いをしたり、マーカーを的に見立ててゲームセンターのシューティングゲームのようなことが、実際の空間できる。
現在は研究開発段階のプロトタイプで、遊び方の安全性やルール作りなどの課題はあるものの、まさに仮想空間と現実空間を組み合わせた遊び方ができる日が来るのも、そう遠いことではないことがよくわかる事例だ。
つまり、こうした製品はユーザー自身がソフトウェアで組み込むことにより、多様な遊び方や活用方法が見いだせる。ハードを提供しソフト開発をオープンに公開することでユーザーに遊び方や活用方法を開発させること。この点もこうした技術を開拓しようとしている人にもぜひ注目していただきたい。
AR技術だけを考えても開発できる分野や応用範囲は広いが、まさにその可能性をあえて秘めてユーザーに提案させる。こうしたハード開発も日本のハード設計技術で世界に向けて提案できる商品開発も可能なのではないだろうか。
デジタルカメラメーカーなど世界屈指の製品を量産している日本だけに、こうした分野でもAR技術の応用やユーザーに活用法を提案させる商品提案も考えられる。もしかすると、カメラも写真を撮るという発想にとらわれなければ、ファインダー越しに新たな情報を見出す端末になるかもしれない。
また、医療分野やカーナビゲーションなど自動車分野。複雑な技能や熟練工を要する技術開発分野から、危険作業の伴う工業分野など、ふと思うだけでもさまざまな分野や既存技術に組み合わせやすい技術である。
ぜひ、youtubeなどでAR技術が利用された映像を堪能いただき、みなさんの分野で活用できるイメージをふくらませていただきたい。
(2010年3月15日公開)

執筆者 : 佐々木 博(ささき ひろし)
オフィス創庵 代表取締役
1970年生まれ。京都出身。
NHK教育テレビ「趣味悠々」パソコン・IT講座を12年歴任。現在は、地域情報発信力向上のための地域ICT利活用促進講座や、次世代に情報をつなぐための、シニア向けソーシャルメディア伝承ワークショップなど、各地域で講演、教育活動、コンサル事業に従事。










