IT Wise 事情通のITレポート
− 第1回 −
AR…拡張現実の今(後編)
現実には存在しないものが「あたかもそこにある」かのように表現されるー。
前編は、インターネットの歴史を振り返りながら、AR(Augmented Reality、拡張現実)がもたらす新しいユーザー体験について触れた。

提供:Tonchidot Corporation
後編では、より具体的にイメージしていただけるよう、広告やアプリケーションなどの事例を追ってみたい。
AR広告
例えば、ドイツBMWグループの自動車「MINI」のAR広告などは、パソコンのカメラの前でマーカーや商品のケースなどをかざすと、そこにMINIの商品(この場合はMINIの車体)のCGが現れる。ユーザーは眺めてみたい角度にマーカーを動かすことにより、目の前にあるプラモデルのようにその商品を堪能できる。
まずこれが、AR広告的には新しいユーザー体験の始まりとも言える。
表現的発展
そして、2009年の映画「スタートレック」におけるARを活用したプロモーションでは、例えば、プラモデルのような静的な表現から、そのプラモデルを実際にラジコンのように操作できたり、変形や色の変化、アクションによるリアルなサウンドの再生など、より動的に表現されるようになったこと。ここまでの発展には、ほぼ時間軸的な隔たりはなく、ARの技術的進化よりも、そうした表現の工夫がむしろ初期段階から議論されてきた差別化のポイントである。
ARの発展とハイプ曲線
基礎技術であっても、その表現や体験が新鮮であれば、その驚きは多くの人に伝播し普及をはじめる。
例えば、Google mapなど自由に動かせる地図の技術(Ajaxと呼ばれる技術)やそのブームなどは、ハイプ曲線でいう一気に普及する山を見せ、他の地図サービス会社にとっても必須の表現技術となる。ただ、そうした「技術」は一気に標準化してしまうために、その技術だけでは飽きられてしまう。最初のピークを過ぎてしまうと、その技術をベースにさまざまな付加価値や実用的な工夫が必要になってくる。
ARに当てはめると、こうした技術の「目新しさ」が注目され、技術にスポットがあたり普及していく段階。今はまさにこの段階ともいえる。むしろIT業界の中では、ARの技術だけでは驚かない位置。つまりハイプ曲線の最初の山を下りはじめたところにあるとも言える。
ARのユーザー体験が一般に普及するためには、ソフトウェア的なバリエーションや認知の広がりと、それを体験できる身近なハードウェアの普及が必要だ。
スマートフォンで火がつくAR技術
その意味では、事前に「マーカー」をプリントアウトしたり、USBカメラが前提となるパソコンを使ったAR技術というのは、一般の人が体感するまでの敷居が高い。
その点iPhoneなどのスマートフォンで体感できるARアプリは、スマートフォンの普及率を差し引いても敷居の低くユーザー体験の伝播が早い。

Peak.AR
これは、数多くあるiPhoneのARアプリの一つだが、向いている方角に位置している山の名前とその高さ。そして現在地点からその山までの距離などが示される。
ここで、少し整理すべきなのは、前述のパソコンを使ったARとスマートフォンのARは同じ「AR」でも趣が違うということ。
前者のパソコンを活用したARはカメラの前にある被写体側を動かすが、後者のスマートフォンの場合、カメラ側を動かすことが一般的。特に後者には位置情報を取得するGPSや方位を認識するコンパス機能。そしてカメラの傾きなどを識別する加速度センサーなどがAR技術にうまく連動させられている。
その分、マーカーをあらかじめ準備しなくても、向いている方向や距離などを照らし合わせてそこに「あたかもある」状態を創り出せるのが大きな特徴だ。
この技術を応用すると、例えば、その街の不動産情報をカメラで覗き込むことで、その建物の賃貸情報や値段などを重ねあわせてみせることもできたり、飲食店の情報を方向で示してくれる。まさに空間を検索することが可能だ。

提供:Layar(http://www.layar.jp/)
そして、そうした情報も提供側が予め準備するのではなく、すでにインターネット上に存在する、Googlemapに代表される位置情報にヒモ付られた情報と組み合わせることで再現可能である。その意味で「AR」というのは自在の空間でインターネットの情報を覗き見る、いわゆるパソコンの前で2次元的に閲覧するウェブブラウザとは違う別のインターフェイスとも表現できる。

執筆者 : 佐々木 博(ささき ひろし)
オフィス創庵 代表取締役
1970年生まれ。京都出身。
NHK教育テレビ「趣味悠々」パソコン・IT講座を12年歴任。現在は、地域情報発信力向上のための地域ICT利活用促進講座や、次世代に情報をつなぐための、シニア向けソーシャルメディア伝承ワークショップなど、各地域で講演、教育活動、コンサル事業に従事。








